このamnesiaには時間方向性があり、central nervous system(CNS)insultより前の記憶を失うものは「逆行性健忘」retrograde amnesiaと呼ばれ、逆にCNS insult後に新たな記憶ができなくなるものは「前行性健忘」anterograde amnesiaと呼ばれます。そしてretrograde amnesiaとanterograde amnesiaの両方が一過性に起こると、「一過性全健忘」transient global amnesia(TGA)と呼ばれます。
このamnesiaで影響を受ける「記憶」memoryにも幾つかの種類があります。
皆さんご存じのように保持時間が非常に短い「短期記憶」はshort-termmemoryと、そして保持時間が長い「長期記憶」はlong-term memoryと呼ばれます。そしてこのlong-term memoryは、「潜在記憶」implicit memoryと「顕在記憶」explicit memoryの2種類に分類されます。
「思い出す」という意味の英語の動詞にはrememberとrecallの2種類があります。rememberには「自然に覚えている・思い出す」というイメージがあり、recallには「記憶を辿って思い出す」というイメージがあります。「長期記憶」long-term memoryのうち「自然に思い出す=remember」ことができる記憶を「潜在記憶」implicitmemory、そして「記憶を辿って思い出す=recall」記憶を「顕在記憶」explicit memoryと呼びます。
前者のimplicit memoryは時間が経っても忘れることが少ない記憶であり、自然に使えるようになっている語彙などがこれに該当します。これに対して後者のexplicit memoryはその内容を記述することができるようなlong-termmemoryのことで、一般的に我々が「記憶力」と呼んでいるものがこれに該当します。一般的にamnesiaではこれらepisodic memoryやsemantic memoryなどのexplicit memoryが影響を受けます。
皆さんも試験前に「一夜漬け」binge studyingをされたことが多いと思いますが、このbinge studyingで詰め込むことができるのがexplicit memoryなのです。ちなみにこのbingeとは「短期間にたくさん」というイメージの表現で、binge drinking「一気飲み」やbinge eating「むちゃ食い」、そしてbinge watching「(ドラマやアニメなどのシリーズを)一気に視聴する」のようにも使われます。
さらにこのexplicit memoryは個人の体験に関連した「エピソード記憶」episodic memoryと、内容を理解して覚える「意味記憶」semantic memoryの2種類に分けられます。一般的に勉強において中心となる記憶がこのsemantic memoryというわけです。
よく「英語でも語呂合わせのようなものはあるのですか?」という質問を受けるのですが、英語圏にもたくさんの「語呂合わせ」があります。英語では「記憶法・暗記法」を意味するmnemonic(mは発音せずに「ニュモニック」のように発音)が日本語でいう「語呂合わせ」という意味で使われており、英語圏の医学生も数多くのmnemonicsを使ってsemantic memoryを向上させようと努力しています。
そしてsemantic memoryを保持するのに長けている人のことを「記憶力が良い」と言いますが、それを英語では“She has a good/sharp memory fornames.”のようにgoodやsharpを使って表現します。逆に「記憶力が悪い」と言う場合にはbadやpoorのような形容詞を使います。
何を言われても記憶に残らないような状態を日本語では「右の耳から左の耳」のように表現しますが、英語でも同じようにgo in one ear and out theotherという表現を使い、“It seems likeeverything goes in one ear and outthe other.”のように表現します。
また日本語では「記憶に残らない」ことを「頭に残らない」と表現するように、記憶する場所のことを無意識に「頭」として表現しています。そのため「頭」の中の感情がキャラクターとなって活躍するディズニー映画“Inside Out”の邦題は「インサイド・ヘッド」となっています。しかし英語では記憶する場所のことをmindとしてイメージします。ですから「記憶に残らない」という表現はheadではなくmindを使って、not stick in one's mindやslip one's mindのように表現します。これに対して英語のheadには「考える場所」というイメージがあるため、「思いつきで」とか「深く考えずに」という意味でoff the top of one’s headのようにheadを使います。また「学んだことを次から次へと忘れてしまう」という状態のことを英語では「ふるい」sieveを使って“I have a memory likea sieve.”のように表現します。
このように日本語と英語では発想する喩えも異なります。日本語ではすぐに忘れてしまう人のことを「鳥頭」と揶揄することがありますが、英語では喩えが異なり、“I have a memory of a goldfish.”のように「金魚」を使って表現します。このように英語圏では金魚などの魚に対して「記憶力が低い動物」というstereotypeが定着しています。ディズニー映画“Finding Nemo”や“Finding Dory”でおなじみのDoryという魚がamnesiaで困っていたことにも、そんなstereotypeが背景にあると考えられます。これとは逆に英語圏で記憶力の高い動物としてのstereotypeを持たれているのが「象」elephantです。ディズニー映画“Zootopia”では象のヨガインストラクターNangiに関して“As you can see, Nangi is anelephant, so she will totally remembereverything.”という表現が使われた背景にはそんな英語圏のstereotypeがあるのです。
また「思い出す」際の表現として、日本語では「ピンと来る」のような表現を使いますが、英語でもring a bellという似たような表現が使われます。ですから“Does it ring any bells?”と聞かれたら、それは「何かピンと来ない?」「これで思い出した?」という意味になるのです。
さてamnesiaは、一般的には「もの忘れ」forgetfulnessや「記憶障害」memory impairmentと呼ばれます。もちろんmemory lossという表現もamnesiaとして使われるのですが、これだと「記憶喪失」のようなより深刻な状態がイメージされます。患者さんへの問診においてはforgetfulnessという表現が最も適切ですので、「最近もの忘れが多くなっていませんか?」と言いたい場合には“Have you been experiencingmore forgetfulness lately?”のように表現してください。
また記憶や見当識に関して質問する場合、患者さんに“I’d like to do aquick test to check your memory andorientation. It won’t take long. Doesthat sound alright?”のようなtransition「前振り」を行うことも重要です。
患者さんの「認知機能」cognitivefunctionを評価するためにはMini-Mental State Examination(MMSE)を行う必要があります。この中で患者さんのattentionを確認するために、serialsevensと呼ばれる100から次々に7を引いてもらう暗算をしてもらうか、worldという単語のスペルを逆唱してもらう必要があります。前者は“Pleasecount backwards from 100 by sevens.”のように、そして後者は“Please spellthe word: WORLD. Now spell it backwardsfor me.”のように表現します。
amnesiaの原因は大きく分けると急性の「せん妄」deliriumと、慢性の「認知症」dementia、そして「それ以外」miscellaneousに分けられます。急性のdeliriumは様々な疾患が原因で起こるのに対し、慢性のdementiaは主にAlzheimer’s disease, Lewy body dementia,vascular dementia, and frontotemporaldementiaの4つに分類されます。
dementiaの原因として最も多いAlzheimer's disease「アルツハイマー病」では、amnesiaに加えてagnosia, aphasia, and apraxiaという3つの症状が現れます。視覚・聴覚・触覚などの感覚には問題がないのにもかかわらず、見たり聞いたり触ったりしたものの名前が言えなかったり、その意味が思い出せないことをagnosia「失認」と言います。
aphasiaは日本語で「失語」と言いますが、これには皆さんおなじみのWernicke's aphasiaとBroca's aphasiaの2種類があります。Wernicke’s aphasiaは言葉の意味がわからなくなってしまう「感覚性失語」receptive aphasiaですが、言葉を流暢に話せることからfluent aphasiaとも呼ばれています。これに対して言葉が出てこなくなるBroca's aphasiaは「運動性失語」expressive aphasiaのほか、流暢に話せないことからnon-fluent aphasiaとも呼ばれています。そしてこの2つを覚えるためのmnemonicとして、“Brocais broken. Wernicke is wordy.”というものがよく使われています。
このaphasiaと混同される症状としてdysphasiaとdysarthriaというものもあります。dysphasiaのdys-は「困難」という意味で、ここからdysphasiaは部分的なaphasia、つまり「発語障害」という意味になります。そしてこのdysphasia(「ディスフェィズィァ」のような発音)は「嚥下困難」を意味するdysphagia(「ディスフェィジィア」のような発音)とは一文字違いで、かつ発音も極めて近いので混同しないように注意してください。これに対してdysarthriaのarthr-には「関節」や「調音」という意味があり、ここからdysarthriaは発音がうまくできない「構音障害」という意味になります。
apraxiaは、日常の簡単な動作ができなくなる「失行」を意味します。よく似た用語として動作の調整ができなくなる「失調」ataxiaがありますので、こちらも混同しないように気をつけてください。そしてこれらamnesia, agnosia,aphasia, and apraxiaという4つの症状を称してthe 4 As of Alzheimer'sdiseaseと呼んでいます。
日本語では「レビー小体型認知症」として知られるLewy body dementia/dementia with Lewy bodiesですが、このLewyの発音は英語では「ルゥイィ」のようになるので注意してください。「脳血管性認知症」は英語ではシンプルにvascular dementiaとなり、「前頭側頭型認知症」は英語ではfrontotemporal dementiaと呼ばれるほか、Pick disease「ピック病」という名称も使われています。
このようなdementiaを持つ患者さんに対して「レスパイトケア」というものがあります。これは英語のrespitecareの日本語表現なのですが、英語のrespiteには「小休止」というようなイメージがあり、ここからrespite careには「介護をしている家族などが一時的に介護から解放されて休息を取れるようにする支援」という意味があります。ただrespiteの発音は英国では「レスパィト」と日本語と近い発音になるのですが、米国では「レスピィット」のような発音になるので注意してくださいね。