ドクターサロン

藤城

はじめに、網膜における血管の走行について教えていただけますか。

志村

網膜というところは、実は血管が二重支配になっています。また、眼球の構造は三重構造になっていて、内側から網膜、脈絡膜、一番外側に強膜という構造で眼球が成立しているのですが、脈絡膜は血管の膜として網膜の外側にあり、網膜の主に外層を栄養しています。

一方、網膜内にも血管があり、これは網膜の内側を栄養しています。網膜内の動脈は、もともとは内頸動脈の最初の枝である眼動脈が視神経の中に入り込んで網膜中心動脈となり、視神経乳頭から網膜内で4方向に分かれて走行しています。

一方で網膜内の静脈は、動脈とほぼ並行して走っています。後でこれが少し問題になってくるのですが、静脈は網膜の末梢部から視神経乳頭に向かって収束し、最終的には眼静脈から内頸静脈のほうに行く。そのようになっているとお考えいただければと思います。

藤城

網脈血管閉塞症は、網膜動脈と静脈のいずれかが詰まってしまうような病気という理解でよいですか。

志村

おっしゃるとおりです。

藤城

様々なタイプがあるとうかがっていますが、どのようなタイプのものがあるでしょうか。

志村

動脈も静脈も閉塞する疾患があるのですが、まずどこで閉塞するかという点で大きく分かれています。視神経乳頭より中枢側すなわち比較的血管径の太いところで詰まってしまった場合、これを中心動脈閉塞あるいは中心静脈閉塞という名前を付けています。

中心動脈あるいは中心静脈が閉塞してしまうと網膜全域に影響を及ぼすことからも、中心動脈閉塞と中心静脈閉塞は非常にシビアな状況になるとお考えください。

一方で、網膜に出てから、つまり視神経乳頭から末梢の部分で、どこかが詰まるというパターンもあります。動脈であれば網膜動脈分枝閉塞、静脈であれば網膜静脈分枝閉塞という名称になります。これらの分枝閉塞では閉塞した部分より末梢の部分に影響が出ますから、閉塞していない部分は正常に近いのです。

先ほどちょっとお話しした視神経乳頭から4方向に分かれる網膜血管は、上下左右というより、どちらかというと45度に135度というような、ちょうど斜めにX字のように分かれます。そのいずれかが閉塞してしまえば、その一象限だけ影響を受けることになりますので、影響を受ける場所が全体なのか、それとも象限なのかによって、中心動静脈閉塞あるいは分枝動静脈閉塞と分けられています。

動脈か静脈、また中心か分枝かで分かれますから、結局4種類の病態があるとお考えいただければと思います。

藤城

今のお話ですと、その4種類の中で一番重篤なタイプと考えられるのが網膜中心動脈閉塞症ではないかと思いますが、その症状や診断の仕方を教えていただけますか。

志村

病態としては動脈の閉塞ですから、詰まってしまうということは、どこかから血栓あるいはプラークみたいなものが流れてきて詰まってしまうことを最初に考えなければいけないと思います。

症状としては突然の視力低下、すなわち突然真っ暗になると思います。ですから突然真っ暗になって、30分以上見えないということになってくると、網膜中心動脈閉塞だろうと予想されます。といっても、血流が完全に止まることはあまりなくて、じわじわ血管に流れることが多いので、非常に見にくくなるという方もいらっしゃいます。

いずれにしても30分以上、視力が急激に低下するような病態があれば、最初に疑っていただいてけっこうだと思います。痛みは特にありません。ただ見えなくなります。

皆さんが勘違いするものに、急に真っ暗になって、その後1、2分で戻ってしまうという病態があります。これはおそらく網膜動脈に何かの、例えば痙攣とか、TIAみたいなものが起こってしまって、血流が一時的に低下することによる病態となります。

症状から考えた場合、突然の視力低下は血流の途絶を考えますが、必ずしも閉塞の原因が血栓やプラークだけではないことは、ちょっと頭に入れておいたほうがいいかもしれません。ですから、網膜中心動脈閉塞の診断は症状が全然改善しないというのがポイントだと思います。

藤城

もしそのような症状が起こった場合は、すぐ救急車を呼んだり、大きな病院に行ったほうがよいのでしょうか。

志村

おっしゃるとおりです。ただ残念なことに、この病態に関しては、心筋梗塞のような状態に近いと考えてください。しかも眼動脈は非常に細い動脈ですから、カテーテルが入らないところですし、たいていは経過観察するしかありません。我々眼科医にとっては、危惧すべき非常に予後のよくない疾患の一つになっています。

網膜中心動脈閉塞は最終的にはどこかで血栓が溶解し、血流は改善することが多いですけれども、それまでの間に視細胞がやられてしまいますので、これをいかに防ぐかという治療が進められています。

今、その治験が私たちの施設でも始まっています。網膜中心動脈閉塞が発症した場合、48時間以内にカルパイン阻害薬を内服することによって、血流回復時のいわゆる再灌流障害みたいなものを防げる。そして、完全にとは言いませんが、できるだけ視力を回復させるような方向で治療が進んでいます。今はまだ皆さんに詳細をお伝えできる段階ではないですが、今後、新しい治療法として提唱できるかもしれません。

藤城

新しい治療法が開発されているということですね。網膜動脈分枝閉塞症に関しては、この中心動脈閉塞症に準じた治療を行うということでよいでしょうか。

志村

おっしゃるとおりです。網膜動脈分枝閉塞の場合には、眼圧をできるだけ下げる治療をすることもあります。

この場合は、目の中の眼圧を維持している房水という水を少し抜く、あるいはいわゆる緑内障に対する薬を利用して眼圧を下げて、相対的に血管の圧力を上げて血流を少し増やそうという姑息的な治療となります。

藤城

続きまして、網膜中心静脈閉塞症についても、お話をいただけますか。

志村

静脈の閉塞というと、そもそも静脈が自然に閉塞するのかと思われるかもしれません。静脈は基本的に血流の方向に行けば行くほど血管径も大きくなり、血流も増えますから、なかなか閉塞はしづらいはずですが、先ほどお話しした動脈と静脈が一緒に並行している、というのがポイントになってきます。

網膜中心静脈閉塞については、静脈は動脈と視神経の中で並行して走っているものですから、動脈硬化みたいなもので圧迫されたりすると、そこの静脈の血流が悪くなる。血流が悪くなると、そこに血栓ができて、その結果、あるとき突然詰まってしまうということが起こります。

この後どうなるかというと、静脈が閉塞しますから、徐々に末梢のほうに血流が鬱滞してくることになります。どういう症状が起こるかというと、突然起こってはくるのですが、急に視力が落ちてくる感じではなくて、どちらかというと少しずつだんだんと見にくくなってきて、そして真っ暗ではないですが歪みや視野がぼけてくるような症状になります。

虚血と違って鬱血ですから、真っ暗ではない。静脈内圧が上昇し網膜が水膨れのようになるため、何かちょっとおかしくなって歪んで見えるということで来る方が多いと思います。いずれにしても血管の病気ですから突然症状があらわれるというのが一つのキーになるかと思います。

藤城

動脈に比べて治療法がありそうですが、どのような治療が行われるのでしょうか。

志村

閉塞を解放する手段はないのですが、視力を改善させる治療があります。少し話が外れますが、視力は何で規定されているかというと、網膜の真ん中に黄斑部というところがあり、ここが視力をつかさどっています。ここには網膜血管が入り込んでおらず、静脈閉塞による網膜組織への水分の漏出がこの黄斑部に及んでしまうことで歪みを生じ、視力が低下してしまうのです。これに対し網膜組織への水分漏出を抑える治療が行われています。

網膜静脈閉塞による網膜組織への漏出を起こす物質の一つに、VEGFという物質が絡んでいることが知られており、このVEGFを抑える抗VEGF薬を眼内に投与することによって、劇的に浮腫を改善させることがわかっています。

静脈閉塞を解放しているわけではないですから、もちろん鬱血は治らないですが、漏出を抑制して黄斑部の浮腫さえ減らしてしまえば視力が回復することがあります。静脈閉塞は、動脈の閉塞ほどひどくない。要するに虚血ではないので細胞がすぐに死なないということと、鬱血ですから、黄斑部の浮腫さえ抑えてしまえば視力が回復するということで、この抗VEGF薬が第一選択になっています。

昔はレーザー、あるいは動脈が静脈を押しつぶしているところがありましたから、それを外科的に取ろうということも行った時代がありますが、侵襲に比べて効果が少ないことがだんだんわかってきました。今はもう抗VEGF薬という、目に注射をする方法が第一選択になっています。

ただ、気をつけなければいけないのは、この抗VEGF薬は、いわゆる生物学的製剤ですので、体内で代謝されるため、効果に時間的な制限があります。したがって、どうしても1カ月、2カ月で効果が切れてしまいます。静脈閉塞もまた、いつか改善することが期待されるのですが、長期にわたって閉塞していることも少なくないので、注射を何度か繰り返す必要があります。

ですから1回注射をして良くなったからといって、それで眼科に行かなくなると、またおかしくなってきて注射をする。その間、悪くなるたびにだんだんと視細胞がやられてしまいます。眼科医の提案どおりに注射を打っていく、連続的に打っていくことが大事かと思っております。

藤城

最後に、網膜静脈分枝閉塞症についても教えていただけますか。

志村

今お話しした網膜中心静脈閉塞が網膜の一部で起こる病態ですので、中心静脈閉塞ほどはひどくないですけれども、閉塞領域の浮腫によって視野の異常がみられること、また浮腫が黄斑部に及んでしまい視力が下がってしまう患者さんがいらっしゃるので、基本的に治療法は同じになります。

ただし、見えるところがどこか必ずあるものですから、患者さんはどこか変な感じがする、視力も何となく下がったような気がするということで、中心静脈閉塞の軽症バージョンというか、部分発症と考えていただければよいと思います。

藤城

ありがとうございました。