大西
そもそも黄斑とはどういったものかということから教えてください。
門之園
これは漢字で書くと非常に難しくて、黄斑というのは黄色い斑と書きます。解剖学的に黄斑部というのがあり、そこが黄色に見えるところから命名されています。具体的には、網膜の中心部を指します。ここは人間のすべての視力をつかさどっているとても重要な場所という理解でよいかと思います。
大西
黄斑の病気、病態にはいろいろあると思いますが、その種類を教えていただけますか。
門之園
よくiPS細胞の絡みで話題になるのが加齢黄斑変性という病気で、80代以降の患者さんの3人に1人から2人に1人ぐらいがかかっているといわれている代表的なものです。
実はそれ以外にも幾つもありまして、最近非常に疾患数が増えているものに黄斑上膜もしくは黄斑前膜、両方の呼び方をする病態があります。それと黄斑円孔、そして黄斑浮腫の病態があるという理解でいいと思います。
大西
出血性の病変もあるのでしょうか。
門之園
そのとおりで、黄斑下出血といって加齢黄斑変性が終末期を迎えると出血し、それが黄斑の下に出血することから、黄斑下出血と呼んでいます。
大西
手術に関して教えていただけますか。
門之園
実は手術治療はすごく進歩しているのですが、すべての黄斑疾患に適応になるわけではありません。具体的には黄斑上膜、黄斑円孔、そして黄斑下出血が、硝子体手術といわれる黄斑部を治療する手術の代表的な疾患になります。
大西
具体的にはどのような手術が行われるのでしょうか。
門之園
硝子体手術は眼球の周りに3つもしくは4つの0.5㎜長径の非常に小さな穴を開けます。この穴から様々な器具を挿入して手術をするイメージをもっていただければいいと思います。
大西
手術にはいろいろな術式があるかと思いますが、その辺りを教えていただけますか。
門之園
黄斑上膜は、硝子体手術を利用するのですが、具体的に言うと、黄斑の上に乗っている黄斑上膜という膜を切除するという術式になります。
黄斑円孔に関しては、膜はないので黄斑部の周りに存在している、具体的には黄斑円孔という穴の周りにある内境界膜と呼ばれる網膜の最上層にある神経の一部を取り除く手術になります。
最後に黄斑下出血です。脳梗塞の治療でよく使われているtPAという血栓を溶解する薬を黄斑下というスペースに注入して血種を溶解し、その血種を取り除く、もしくは移動させるような手術です。これら3つが代表的な治療法になります。
大西
一般的に手術時間は、どれぐらい見込まれるのでしょうか。
門之園
とても良い質問だと思います。もちろん術者によって手術の時間は異なるのですが、通常これらの手術は局所麻酔で行われ、1時間前後かかるイメージでいいと思います。
大西
少し長い手術になると考えてよいのでしょうか。
門之園
はい。眼科の手術というと、白内障手術が一番有名で、白内障手術を受けられている方もいらっしゃると思います。そういった目の表面を扱う治療、目の前方を扱う治療とは大きく異なって、だいぶ複雑で時間がかかり、また入院を必要とすることが多い手術だと思います。
大西
患者さんの苦痛はどのようなものでしょうか。
門之園
患者さんから「痛いですか」ととてもよく聞かれますので、必ず次のように答えています。局所麻酔をしっかり行えば、術中は痛みはまったくありません。
また、眼球組織は光を感じる組織なので、何か術中にものが見えると怖いという方もいますが、視神経そのものを一時的に麻痺させるので、手術中は真っ暗になってほぼ見えないことがほとんどです。ですので、無痛、さらに何も見えない状態で約1時間で手術が終わる、そんなイメージをもっていただければいいと思います。
大西
入院期間は1泊が多いのでしょうか。
門之園
施設によって様々ですが、私が現在勤めている大学病院では、3~4泊ぐらいです。ただプライベートのクリニックでは、日帰りでやっているところも最近ではちらほらありますが、原則として数日は入院したほうが患者さんのためにはよいと思います。
大西
手術直後の合併症はあるのでしょうか。
門之園
手術直後の合併症はとても重要な話題なので、すごくいい質問だと思います。この黄斑部というのは、網膜の神経の一番繊細なところ、そして、その大きさは0.5㎜です。小さな領域の治療になるので、外科系保険連合会では手術のレベルとしては最難度の手術に分類されています。
ですので、熟達した医師が治療する分には非常に順調に終わるのですが、非常に難しい手術であるがゆえに、経験の浅い術者にとっては合併症に遭遇することがあるので、手術を受けるうえでは、その医師の今までの手術件数や背景は、念のために調べておいたほうがいいと思います。
また、代表的な手術後の合併症は、4つほどあります。1つ目は、手術をした後に網膜?離という病気になって、視野全体が欠けてしまうという恐ろしいことがまれに起こることがあります。
2つ目は視野の欠損で、例えば手術の前は真ん中がよく見えていたのに、手術後に真ん中にほうきのようなものが見えるようなことを言います。こういった視野の欠損が、まれにですが、起きてくることがあります。
3つ目は、術後にすごく炎症が強くなることがあります。これは一般的な外科系によく起こる術後感染症というものです。これも頻度は多くはないですが、起こることがあります。
最後の4つ目ですが、手術を受けた後になんだか暗くなった、あるいは真っ暗な点があるということを言う患者さんが非常にまれですがいらっしゃいます。これは網膜光障害といって、網膜の治療をしたときだけに起こる病気です。術者が手術中に強い光を網膜に当てて治療するので、その光によって網膜が部分的に焼けてしまうことによって起こります。光毒性と呼んでいるのですが、そういった合併症が非常にまれに起きることがあります。
大西
予後はいかがでしょうか。
門之園
熟達した医師が治療する分には予後は非常に良好で、黄斑上膜もゆがみが取れないにしても良くなると患者さんは言いますし、黄斑円孔に至っては変な見え方がだいぶ良くなったということを非常によく聞くように、とても良い治療です。
大西
黄斑の疾患の早期発見のポイントを教えていただけますか。
門之園
黄斑疾患の症状は、中心部分が見にくかったり、ゆがんだり、黒い暗点が見えるという訴えがきっかけで、眼科医を受診することになります。
患者さんが受診したときに、眼科医は検眼鏡的に自分の目で見るのと同時に、必ず光干渉断層計(OCT)を使うことは覚えておいたほうがいいと思います。内科でいうレントゲンやMRIに相当するとても重要な検査機械で、OCTを使って初めてこれらの疾患を、すごく小さな病変でも早期に発見することができます。
大西
ほかに何か検査法はありますか。
門之園
これは大学病院や大きな病院でしか行われない検査ですが、血管造影検査というのがあります。点滴をして血管の中に造影剤を入れることで、黄斑部の血流状態を調べることができます。
大西
どうもありがとうございました。