ドクターサロン

池脇

前立腺がん治療後の勃起不全という、非常にフォーカスを当てた質問をいただきました。勃起不全に対しての治療がメインになりますが、その前に簡単に確認すると、前立腺がんは、今、男性で一番罹患数の多いがんですよね。

永尾

はい、そうです。

池脇

年齢が上がるほど罹患率が高いということは、高齢社会という日本の社会構造の変化と、食生活の欧米化、あと何といってもPSA検査が非常に普及していることによりますね。

永尾

そうですね。早期から発見されるようになっています。

池脇

あと何年生きられるかというタイプのがんではなくて、がんだけれども、治療してがんとともに生きていく。生存率の高いがんとなると、男性の場合は、この質問である性器の勃起不全というのも大事な問題なのでしょうか。

永尾

そうですね。早期発見して早期治療すると、がんが根治します。ただ、その後遺症としてEDになるケースは多いですね。

池脇

前立腺がんには様々な治療があって、正直、どういう治療を選ぶのか、私には難しそうに思えます。手術、ホルモン療法、あるいは放射線療法、いずれの治療も勃起不全の原因になりうるのですか。

永尾

はい。前立腺がん手術は、勃起神経を切ってしまう場合が多いので、神経障害を起こして勃起不全になりますし、放射線でも神経・血管障害があります。ホルモン治療は男性ホルモンを下げてしまうので、性欲そのものが下がってしまいEDになります。

池脇

例えば性機能は維持したい、EDは嫌だという患者さんは、そもそもまずホルモン療法を選択しないように思うのですが、いかがですか。

永尾

手術前後に一時的に使うぐらいはありますが、ずっと使うことはないと思います。

池脇

勃起不全で一番問題になってくるのは、やはり前立腺の全摘手術でしょうか。その合併症の勃起不全を先生方は一番問題にされているのでしょうか。

永尾

そうですね。性的な意欲も高い方が多いですね。

池脇

今は手術の精度が上がって、神経を傷つけない、あるいは、そこに向かう血流を遮断しない、そういう技術は高くはなっているけれども、やはりどうしても起こってしまうのでしょうか。

永尾

神経は左右に走っているのですが、がんが広がっていると両方を残せずに勃起障害になりますね。

池脇

勃起神経温存全摘という言葉がありますが、それはがんの状況によって、できるかできないかが決まってくるのですね。

永尾

はい。

池脇

勃起不全についてテストステロン治療と陰圧式勃起補助具(ビガー)という2つの質問がありますが、おそらく術後に勃起不全を起こした患者さんは、いわゆるPDE5阻害薬から始めるのでしょうか。

永尾

その効果があるかないかが最初の治療になります。

池脇

例えば、全摘後のEDの方で、PDE5阻害薬の効果はどのくらいなのでしょうか。

永尾

手術前から勃起障害がない方は、両側の神経を温存していれば、効果は非常に期待できると思います。

池脇

それもどのくらい神経が残っているか、あるいは血流が維持されているかによって効き具合も変わってくるのですね。でも、先生方はまずファーストチョイスとしたら、PDE5阻害薬から始めるのですね。

永尾

はい。まずは試してみるということですね。

池脇

うまくいけば、これはこれでOKと。それでうまくいかないときに、テストステロン治療が関わってくるのでしょうか。

永尾

ED治療薬単独で効果が少し悪いという方は、テストステロンを調べてもいいと思います。ただ、前立腺がんが完治していないと使えません。テストステロンだけで勃起不全を改善するのは不可能であって、PDE5阻害薬に加えてテストステロンという使い方になると思います。

池脇

確かにテストステロンというのは前立腺がんを増殖する方向に働くので、がんが残っている人には禁忌といっていいのですね。

永尾

はい。

池脇

きちんとがんが取りきれた場合に、PDE5阻害薬で不十分なときに併用するという使い方が、テストステロンの治療ということですね。

その次に出ています陰圧式勃起補助具とはどのような補助具なのでしょう。

永尾

陰茎をプラスチックの筒でくるんで、ポンプで陰圧にします。すると、ペニスに血液が入ってきて勃起します。そこで陰茎の根元をゴムリングで締め付け、血液を維持するのです。ただ、勃起させるのに10分くらいかかって、パートナーの前でちょっと雰囲気がなくなるということと、ゴムが痛いという場合もあります。

池脇

うまくやるにはそれなりの時間というか、テクニックが必要な感じで、なかなか「これでOKです」という方は、そうは多くない、あるいは、「ちょっと面倒くさいから嫌です」という患者さんも多いでしょうか。

永尾

そうですね。陰圧式勃起補助具の有効率は高いのですが、やはり使い勝手が良くないことで脱落するケースが多いです。

池脇

この質問には書いてありませんが、陰茎注射(陰茎海綿体自己注射)はどういう治療なのでしょうか。

永尾

プロスタグランジンE1という血管拡張剤を陰茎に注射するものです。薬を陰茎に打つこと自体は認可されているのですが、自己注射はまだ認可されていないので、患者さんの了解のうえで行う自費診療です。

池脇

当初、血管拡張剤というのは、プロスタグランジンE1ではないほかのものを使っていて、多少合併症もあったものが、最初にプロスタグランジンE1を使われたのは、東邦大学の石井延久先生と聞きました。素晴らしいですね。

永尾

はい。私の上司なのですが、世界で最初に陰茎に使ったということです。

池脇

しかも、有効率が7~8割というと、高いですね。

永尾

けっこう高いです。

池脇

ただ問題は、陰茎に注射してみなさいと言われても、どうしようみたいな感じが若干ありますが、これは慣れるのでしょうか。

永尾

性機能学会の専門医がよくやっているのですが、最初の用量設定が非常に大事です。打ちすぎてしまうと、勃起が収まらなくて持続勃起症というまた別の病気になってしまうし、少なかったら反応が悪くて使えないということがあるので、最初の1、2回はやはり調整が必要になります。

池脇

でも、そういう用量調整あるいは注射のやり方は、さすがに最初はご本人自身でというわけにはいかなくて、医師が手本を見せ、患者さんはそれを見ながらできるものなのでしょうか。

永尾

効果がありますので、脱落する人は少ないですね。

池脇

むしろ効果が強すぎて、これもある意味、怖い病態である持続勃起症にまでなるということは、プロスタグランジンE1の血管拡張作用がけっこう強いのですね。

永尾

けっこうありますね。

池脇

そうすると、まだ厚生労働省、PMDAが承認はしていないけれども、検査として行うことは認可している。ただ、自己注射は駄目だとなると、医師は患者さんと話をして、自己責任というかたちでやっているということですか。

永尾

そうなります。

池脇

患者さんにとっては、そんなに費用の負担がかからなければ、そして効果が十分あれば、もうこれで、という感じになりそうな気がしますね。

永尾

非常に感謝される治療にはなります。

池脇

ですよね。勃起不全で、ある意味ご自身も自信をなくしている、あるいは夫婦関係もぎくしゃくするというところが、この治療によってうまくいくというのは、患者さん家族にとってはすごく大きなことなんでしょうか。

永尾

はい。本当に喜ばれる患者さんがいますね。

池脇

頻回に注射していくことの弊害というのは、特には考えなくてもいいでしょうか。

永尾

1日1回であれば問題ないです。

池脇

そんなものですか。陰茎はたくましい組織なんですね。

永尾

そうですね。

池脇

それでも残念ながら、なかなか効果がないという場合に、まだ治療法はあるのでしょうか。

永尾

最終治療としては、陰茎の中にシリコンの棒を入れてしまうプロステーシスの移植手術があります。

池脇

これは手術をすると、常に勃起した状態になってしまうのでしょうか。

永尾

簡単なのは、曲げたり伸ばしたりするようなものがあります。あとは水の移動によってポンプで大きくなったり、小さくなったりするものがあります。

池脇

そうですか。持続勃起症ほどではないけれども、常に勃起していても困るわけで、その辺りはちゃんと調整できるようなものなのですね。

永尾

そうですね。

池脇

でもプロステーシスという手術はめったにないケースと言っていいのでしょうか。

永尾

プロステーシスは、やはりパートナーが若い場合は積極的に治療に来ます。

池脇

患者さん、あるいはパートナーの年齢によってはこういう治療も必要になるのですね。

最後に、こういう予後の良いがんの場合は、勃起不全、性機能は大事だというのはわかるのですが、患者さん、あるいは家族が逆にそれを維持してほしいと積極的に言うことについて、日本人はなかなか苦手なような気がします。

永尾

特にがんの診断時はなかなか言いづらいですね。終わって健康になったときに、何とかしてほしいというケースが多いですね。

池脇

いろいろと治療法を紹介していただき、ありがとうございました。