池脇
骨粗鬆症について骨吸収、形成マーカーを使って、どうやって治療をしたらいいのかという質問です。
質問に答えていただく前に、ぜひ先生にうかがいたいことがあります。斎藤先生は骨の強さというのは骨のカルシウムの量だけではなく、骨の質が大事だということを日本で最初に提唱したお一人だと思います。先生はそれを鉄筋の建物で形容されていましたが、あれはどういうことでしょうか。
斎藤
古くは、骨というのはカルシウムだけで、それが少ないと骨が折れるということで診断や治療が進んでいたのですが、カルシウムが多くても骨が折れる人が後を絶ちません。骨というのはカルシウムだけではない、それ以外の素材が何かあるのではないかと研究をしていました。
そうすると、体積当たりでいうと半分、骨は棒状のタンパクのコラーゲンでできていることがわかりました。ですから、鉄筋に相当するコラーゲンが錆びつけば、コンクリート、いわゆるカルシウムが多くても建物は倒れてしまうということから、骨密度以外に骨のコラーゲンを弱くしてしまう因子の研究を進めてきました。
それが酸化ストレス、活性酸素の上昇です。糖尿病、CKD、COPDといった生活習慣病に罹患している方は、骨密度が高くても折れるということで、すでにガイドラインにも出していますし、海外にも学会の委員会としてパースペクトビーを出しています。
ですので骨のカルシウムの評価は、骨密度と骨代謝マーカーです。そして骨の質、コラーゲンの劣化は2028年の保険適用を目指して、尿中のペントシジン、いわゆる終末糖化産物がコラーゲンの錆に相当するのですが、これを測りましょうということで学会で今、動いています。
池脇
先生が骨質、コラーゲンの研究を始められたのは卒業して3年目からですから、今から30年前でしょうか。
斎藤
そうですね。当時は全く相手にされず、コラーゲンなんかやっていても意味がないだろうと散々言われました。今はガイドラインでもその章立てを担当していますし、私どもの研究の被引用数は6,800を超えており、十分認知していただいたと思っています。
池脇
研究をすすめた恩師も重要ですが、それをやろうとここまで来た先生もすごいです。
斎藤
それ以外やるなと言われて、全くつまらない研究生活を十何年続けていたら、急に周りが色めき立ってきたというだけで、単にラッキーでした。
池脇
本当は先生ご専門のコラーゲンのことをお聞きしたいのですが、質問はもう一つのカルシウムに関連した吸収、骨形成です。多少はコラーゲン代謝にも関係するとおっしゃいましたが、すでにそういったマーカーは保険で測れる時代なのでしょうか。
斎藤
かなり昔から保険で測れます。骨というのは、大人になると骨のサイズは同じですが、そのままだと老朽化してしまいますし、カルシウムの貯蔵庫ですから、それを放出するために新陳代謝をしています。実は大人の骨の海綿骨は、年間40%入れ替わります。皮質骨は7%ですが、それだけ入れ替わるので、薬がすごく効きやすい。NNT(number needed to treat)という薬の効果を見る数で言いますと、1桁から2桁なんですね。
スタチンのNNTは150~200でイベント予防が出てきます。骨はそれだけ圧倒的に代謝していますから、薬が効きやすい。そこで頑張っているのは、骨芽細胞が骨を作り、そして破骨細胞が骨を吸収することです。その代謝回転、つまり骨形成と骨吸収のバランスがいいかどうかを見る。貯金を見るのが骨密度測定、その貯金を浪費する係が破骨細胞で、貯金が何とか減らないようにまた貯金をしてくれるのが骨芽細胞。それぞれの活動の反映として、血液や尿でそのマーカー、活動量を見ることができます。
池脇
私の理解が正しいかどうかの確認ですが、例えば骨密度をDXAで測って「低い」というのは、当面の骨折のリスクをそこで評価すること。一方、骨吸収あるいは形成のマーカーは、もう少し先、5年後10年後の骨折のリスクを予想できるというメリットがある。いかがでしょうか。
斎藤
おっしゃるとおりです。破骨細胞の活動が高ければ、将来的にどんどん骨の量が減っていくということになりますので、将来の目減りの量を見ることができます。
池脇
そうすると、先生のような専門医は、その対象の患者さんに対して、まずは1回吸収あるいは形成のマーカーを測り、その高い低いによって、どのような薬を選択するかを決める、そういう流れですか。
斎藤
そうですね。ただ保険適用上、地域によっては骨吸収マーカーと形成マーカーを同時に測ると、切られることがあるのです。基本的には、破骨細胞が一番暗躍している悪者ですので、破骨細胞を反映するマーカーを測る。骨吸収抑制剤というものが一般的には最初に使われますので、破骨細胞のマーカーが下がってくれば、貯金はまたたまってくるだろうと予測をしています。
池脇
これももう一度確認ですが、破骨が盛んになると、それに合わせて形成も引きずられて上がっていく。骨代謝の回転が速い方というのはいらっしゃるとして、でも速いということは、せっかく骨を作ってもすぐ壊されるという意味からすると、骨強度はどちらかというと少し低いと考えてもいいですか。
斎藤
そうですね。作るほうも頑張るのですが、壊すほうが激しいので量として減りますし、スポンジのような海綿骨の構造も、さらにスカスカになっていくことになります。
池脇
骨吸収が更新している場合は、様々な薬を使ってそれを抑えることが、おそらく最終的な骨強度の向上につながるということですね。
斎藤
そうですね。
池脇
ちなみに、私はあまり骨粗鬆症の薬を知らなくて、それこそビスホスホネートぐらいで止まっていて、別に半年に1回投与する新しい薬があるなというくらいです。でも、それからも幾つか新しい薬が出ているのですね。
斎藤
はい。破骨細胞をターゲットにした薬が骨吸収抑制剤というもので、ビスホスホネート製剤は様々ありますが、もう一つ、半年に1回のデノスマブという薬があります。これは抗体製剤で、破骨細胞を誘導する因子を抑制します。ビスホスホネートは骨に沈着する薬なので、3~4年投与すると、1、2年休むことができるのですが、その半年に1回のものはずっと続けて投与します。破骨細胞を強力に活動抑制しますので、骨密度の上昇はビスホスホネートよりはちょっと有意にいいというデータも多くなっています。
池脇
半年に1回というのは患者さんにとっては負担が少なくていいと思いますが、これは抗RANKL抗体というのでしょうか。骨吸収も抑えるし、形成も上げてデュアルエフェクトをうたっているようですね。
斎藤
実はデノスマブは、血液の平均値では骨形成マーカーとしては下がってしまうのですが、骨の組織を見ますと、皮質骨というチクワみたいな骨の外側や骨髄側の部分の骨形成は止めないのです。部分的に、ビスホスホネートに比べて、作る側の勢いを抑えないので、骨が作られ続けます。長期に投与しても新陳代謝が止まって古い骨がたまり、例えば顎骨壊死や非定型骨折といわれるような、骨が硬くて逆に折れてしまうようなリスクは低いので、継続するのであれば、デノスマブを続けます。突然やめると急に、破骨細胞が元気になって骨が弱くなることがあるので、デノスマブの場合は続けていただくことが大事です。性ホルモンは戻ってきませんので、基本は、一生治療しないといけません。
もう一つは骨を作るほうです。骨芽細胞を元気にする、骨の量をどんどん増やして若い鉄筋コラーゲンを作ってくれる、骨形成促進剤というものがありますが、これが骨のリスクの高い重症例に対して適用になっています。
池脇
これは副甲状腺の製剤のことをおっしゃっているのですね。
斎藤
そうですね。テリパラチドや、少し系統は違いますがロモソズマブという抗スクレロスチン抗体というものが普通に使えるようになっています。
池脇
それで骨を形成し、その際に、鉄筋のコラーゲンも補強されるのですか。
斎藤
そうです。骨芽細胞のマーカーであるP1NPというのが血中でも一気に増えてきます。いわゆるコラーゲンの合成、若いコラーゲンができているので、ビスホスホネートやデノスマブよりもフレッシュな骨がどんどんできます。量も増えて、中身の質も良くなるという薬剤です。
池脇
骨というものをカルシウムだけで見てはいけない、鉄筋も大事なのですね。その両方に良い方向に働くというのはすごく良い薬だと思いますが、骨芽細胞を抑えるほうも、結果的にはコラーゲンに対して良い働きをするのでしょうか。
斎藤
そうですね。ただ骨芽細胞の勢いを止めてしまうと、ヤングコラーゲンが出てこなくなるので、長期的に見ると、古い骨がたまってしまって、いわゆる非定型骨折、マイクロクラックというひび割れのリスクが出てきます。そういった場合は活性型ビタミンD3製剤を併用しておくと、緩和されたりします。ひとまず骨形成マーカーとしてはP1NPというコラーゲン合成マーカーが一番いろいろなものの影響を受けずに保険適用になっていますし、TRACP-5bは破骨細胞のマーカーです。これは最初に投与し始めてから6カ月以内であれば1回測れます。その次も、薬を変えた場合には6カ月以外にもう1回測れます。
池脇
ちょうどそれが質問の検査頻度で測るところと、6カ月以内で1回ということですね。骨の変化ですから、そう頻回に測るわけではないけれども、それで思ったような変化がきちんと出ていれば、この薬が効いているということですね。
斎藤
継続でいいですね。
池脇
もしこれが「あれ、思ったような働きをしてないな」となったらどうしますか。
斎藤
薬をスイッチするか、ビタミンDなどをしっかり補充することが大事です。そうすると反応してくることがあります。
池脇
ビタミンDを補充するということですが、確かビタミンDは、どちらかというと骨形成のほうに働く薬ですよね。
斎藤
そうなんです。実は、活性型ビタミンD3製剤が骨を作るのを助けているというのを、我々は猿の実験で見出しています。単なる栄養素ではありません。薬理作用です。
池脇
骨粗鬆症の知識が広がりました。ありがとうございました。