池脇
認知行動療法についての質問です。私も聞いたことはありますが、どのような療法かと言われると、わからないのが現状です。
認知行動療法、いわゆる非薬物治療の一つですが、いろいろな医学研究で認知行動療法の有効性はもう確立されているということで、先生方にとっては日常的な治療の一つなのでしょうか。
久我
認知行動療法は精神療法の一つですが、効果や安全性に関してなど、科学的に多くのエビデンスに基づいていることが特徴かと思います。
欧米でもかなり大規模な有効性の検証が行われていますが、日本でもそういう検証は行われていて、2010年から、うつ病、不安症をはじめとした精神疾患において、診療報酬のなかでも保険点数化されています。
池脇
精神疾患も、今日のうつ病、不安症、強迫症、統合失調症と幅広いですが、認知行動療法もけっこう広い疾患に適用される治療法ということでしょうか。
久我
おっしゃるとおりで、先生に挙げていただいた精神疾患もそうですし、例えば慢性疼痛やIBS(過敏性腸症候群)などの身体疾患にも効果があるともいわれています。
さらに病気だけではなく、メンタルヘルスのヘルスプロモーションという意味でも、いまは認知行動療法の考え方が広く適応されていると思います。
池脇
今となっては裾野の広い治療法なのですね。この治療法の歴史はどうでしょうか。
久我
認知行動療法の創始者は、アメリカのアーロン・ベックという精神科医で、1960年代にこの治療法を提唱しました。残念ながら2021年11月1日に100歳で亡くなりました。もともとアーロン・ベック先生は精神分析という別の精神療法を専門としていたなかで、認知行動療法という治療法に行き着きました。初めは認知療法という治療法を編み出し、そこから様々な検証を繰り返しながら、途中で行動療法という治療法も組み合わせて認知行動療法に至った背景があります。
池脇
患者さんを診ていて、この治療法のキーワードは、まさに認知と行動ということです。私が調べたところ、例えばストレスがかかったときに、まずそれを認知して、それに対し感情が生まれ、それに体が反応する。そして最後に行動という4つの側面があるなかの認知と行動の、2つの側面に対しての治療法ですね。簡単すぎるかもしれませんが、そういう理解でよいでしょうか。
久我
私たちの内面は、認知、感情、行動、体の反応など、それぞれが相互に結びついて作用しています。そのなかでも認知行動療法は問題解決の妨げとなっているような認知、つまり、ものの考え方や受け取り方、あるいは行動など、それぞれに働きかけるアプローチになります。
池脇
例えば、うつ病の方が何かのストレスに対して抱く、その方固有のやや悲観的な認知、考え方を解きほぐすような治療と考えてよいでしょうか。
久我
ネガティビティバイアスといって、人は何かとっさの予期しない出来事に出合うと、どうしてもネガティブに考えてしまう傾向があるとされています。ただ、ネガティブに考えること自体は悪いことではなく、そうやって自分を守ることができます。人類が始まったときから、人はこうして自分自身を守ってきました。
ただ、ネガティブに行き過ぎた考えになり、次のステップに進めない。そういう問題を引き起こすようであればどうするか、ということになるのですが、いろいろな情報を集め、きちんと現実を見たうえで判断する必要があります。「少し客観的に見てみると、自分が思っていた以上に悲観的に考え過ぎていたな」ということに気づけるよう、患者さんとセラピストが一緒に考え、経験をするという治療法になります。
池脇
周りから見ると「あなたの考え方はちょっと極端ですよ」ということをまず認識させ、それを徐々に戻していく。そういう認識は1回治療を受けたら世の中がスパッと変わるというよりも、けっこう時間のかかるものでしょうか。
久我
定型的なうつ病の認知行動療法は、だいたい1回45~50分を16~20回ぐらいです。つまり、1週間に1回行うと16~20週なので、4~5カ月かかる治療です。
池脇
そういうことを患者さんとお話しするのはカウンセラーの方、もしくは医師でしょうか。
久我
日本の実情としてカウンセラーは心理士の方が多いと思いますが、必ずしも心理士だけではなく、一部の医師、看護師、それ以外のコメディカルの方などの医療従事者も、認知行動療法やその考え方を用いたアプローチを行っていると思います。
池脇
基本的には、精神科の医師を含めたチームとして進めていくということですか。
久我
そうですね。
池脇
これは国内外でも、だいたい共通した治療の進め方、プロセスということでよいでしょうか。
久我
根本的なところは同じですが、わが国において、診療報酬という意味では、医師、あるいは医師と看護師が共同して認知行動療法を行った場合に算定が可能となっています。
池脇
医師、看護師がそこの中に入っていかないと、自費になってしまうかもしれないのですね。
久我
日本の現状としては、そうなります。
池脇
これは薬物療法とともに一般的な治療として普及している状況でしょうか。
久我
普及しているかと問われると、まだまだ足りていないような状況です。そういったこともあり、今回このような告知をさせていただける機会は非常にうれしく思います。
池脇
質問は、精神科医に紹介しなければいけないほどのうつ病ではない軽い抑うつ。しかし、かかりつけ医としては放っておけないので何かできないか。かかりつけ一般医に認知行動療法はできませんか、という質問ですがどうでしょうか。
久我
精神科に紹介するほどでもない、軽い抑うつ症状の患者さんに対してということなので、例えば閾値下のうつといわれるものだったり、あるいはうつ病と診断がついていたとしても軽いうつだと思います。
もちろん、認知行動療法を行う際はトレーニングを受けたうえでしっかりとやることも重要ですが、そうではない場合、例えばいまイギリスでNICEが出している有名なガイドライン、うつ病のStepped Careモデルが非常に参考になるのではないかと思います。
このStepped Careはどのようなものかというと、STEP 1から上がるほど、うつ症状の状態が悪くなり、段階的に介入が進められています。今回のような軽い抑うつの方に対しての心理的介入は、Low-intensityの認知行動療法を提供します。Intensity、つまりどれくらい厚みのある介入が必要かということになりますが、閾値下から軽症のうつ病に関しては少し低い厚みのある介入が推奨されています。
どのようなものかというと、認知行動療法に基づくセルフヘルプ、セルフケアが一つです。あと、コンピューターやインターネットを用いた認知行動療法などがあります。ICTが支援してくれるような認知行動療法が広がりを見せています[「認知行動療法マップ」に動画やマテリアル等のプラットフォームを掲載しておりますのでご参照ください]。
池脇
質問の医師が自分で何かできないかというのも、あることはあるけれども、コンピューター、あるいは相談センターとか、患者の会の紹介というのでしょうか。サポートグループというところにアクセスして、いろいろな悩みを共有することも一つのいい方法ではないでしょうか。
久我
自助グループもあると思いますが、患者さんの集まりという意味では、例えば認知行動療法でも、個人ではなく集団療法があります。皆さんで一緒に話し合っていくことでほかの人がストレスに対しどう対処しているのか。「ほかの人はこのようにして対応しているのか。では、自分もやってみようかな」というような、そういった治療も非常に有効だといわれています。
池脇
今後、認知行動療法がますます普及すればいいですね。ありがとうございました。