ドクターサロン

池田

60歳以上のRSウイルス感染症ワクチンであるアレックスビーに関しての質問が来ています。まずRSウイルスとはどのようなものなのでしょうか。

高橋

RSウイルスは、主に小児科領域ではインフルエンザよりも重要性が高いぐらいの気道感染を起こす病原体として、日本でも積極的に検査が行われていますが、基本的には、大人にも感染を起こします。従来大人は軽い風邪のような症状で終わるといわれていたのですが、2000年代前半ぐらいから、RSウイルスは大人にとってもかなり重要な病原体だということが海外で明らかになってきて、ワクチンの開発が進められてきました。

それが2023年にワクチンとして供給が始まったという状況です。

池田

我々の感覚だと、小児中心の感染症かと思いますが、高齢者にもかなり疾病負荷をかける感染症だということは世界的に認識されているのでしょうか。

高橋

そうですね。世界的にはインフルエンザと比較した報告が多いですが、疾病負荷としてはインフルエンザと同程度。しかしインフルエンザよりも実はRSウイルスのほうが高齢者にとって危険であるというような報告がいくつも上がってきています。

池田

これは一度感染しても免疫はつかないのでしょうか。

高橋

はい。小児では、感染を何回繰り返しても終生免疫はつかないことがわかっていて、成人の場合も、基本的には感染しても終生免疫はつきません。なので、感染は基本的に繰り返すのですが、1回かかるとしばらくかかりにくいとか、重症化しにくくなるといった傾向は、ある程度はあるようです。

池田

今回のワクチンの開発と臨床試験についてですが、まずRSウイルスワクチン、アレックスビーとはどのようなものなのでしょうか。

高橋

アレックスビーというのは、日本で最初に認可されたRSウイルスのワクチンです。2023年に『The New England Journal of Medicine』などにいくつかのRSウイルスワクチンの成績が続けて報告されまして、その中の一つがアレックスビーです。

このワクチンは、基本的には抗原成分とアジュバントが混ざったコンポーネントワクチンで、GSK社が発売しているものです。先行しているものでいうと、例えばシングリックスとわりと似たようなタイプで、抗原とアジュバントの混合型で効果を高めるようなデザインのワクチンになっています。

池田

メッセンジャーRNAではなく、リコンビナントタンパクとアジュバントが含まれているワクチンということですね。

気になるところはやはり有効性と有害事象ですが、この辺はどうなのでしょうか。

高橋

有効性に関しては、どのメーカーのワクチンも初年度の成績は有効性がけっこう高いと出ていますが、アレックスビーの場合は『The New EnglandJournal of Medicine』に報告された中間データですと、RSウイルスによる気道感染症全体の予防効果が7割台、下気道感染症の発症予防効果が8割台、重症の下気道感染症の予防効果が9割台というかたちで、1シーズンにおける発症予防効果がかなり高めです。

それから、軽症例よりもむしろ下気道感染症、重症になるにしたがってより予防効果が高くなるというところも好ましいデータではないかと思います。

池田

有害事象は何かありますか。

高橋

シングリックスもそうですがアジュバント型のワクチンで、ある程度効果を高めるためにアジュバントが入っているので、接種部位の疼痛や局所反応に関しては比較的高めに出る傾向があります。発熱はそれほどありません。重篤な有害事象に関しては、基本的には明らかに危険性の高いものはこれまでほとんど報告されていません。

一部、ギランバレー症候群などの報告例が若干出ましたが、今のところ、統計的に有意差があるわけではなくて、米国では今後もデータを集めるけれども接種を推奨するという流れになっています。

池田

これは一生に1回打つものなのでしょうか。それとも、繰り返し投与されるものなのでしょうか。

高橋

基本的には1回投与が現時点の原則です。初回投与に関して、3年目までメーカーが追跡を行っていますが、一定の効果は維持されています。2回目以降のデータは、原則的に現時点ではないので、1回接種してしばらく様子を見る。もちろん今後の5年先、10年先にどういうかたちになるのかはまだ不確定な部分がありますが、1回接種型のワクチンであると、現時点では考えていただいたほうがよいと思います。

池田

そのほかにも同じようなワクチンがあるとうかがったのですが、これはどのようなものなのでしょうか。

高橋

日本で、アレックスビーに続いて承認されたのはファイザーのワクチンで、まず妊婦に接種して母体免疫を高めて乳幼児を守るというかたちで承認され、続いて高齢者への接種に関しても承認されています。ファイザーのワクチンもコンポーネントワクチンというかたちになっていますが、アジュバントは入っていないので、局所の刺激性はアレックスビーよりも軽いのではないかと思われます。

それから、モデルナのワクチンは米国ではメッセンジャーRNA型のワクチンで承認されましたが、日本ではまだ審査段階で今後承認されてくる可能性が高いのではないかと思います。

池田

ファイザーのワクチンは妊婦、要するにお母さんに注射しておいて、お子さんにIgGレベルで移行させるということですが、これに関しては、確か小児用の抗体製剤がありましたよね。それとの立ち位置はどうなっているのでしょうか。

高橋

抗体製剤は、基本的にはシナジスがあります。今度また新しいタイプの抗体製剤が承認されましたが、効果は確実に高いものの費用もかなりかかります。患者さん1人に対して60万円くらいのレベルでかなり高額な薬になるので、すべての乳幼児を守るというよりは、基礎疾患があるとか、早産であるとか、そういうお子さんが主な対象になると思われます。

それと比べて、ワクチンは費用対効果が非常に優れているということもあって、海外ではワクチンも抗体製剤も使っていますが、日本の場合は、母体に対する免疫として、妊娠中にワクチンを打って子どもを守るというものは日本国内の状況から抵抗が強いのではないかと思われます。その辺りに関しては、小児科学会や産婦人科学会が米国の状況を踏まえてリコメンデーションを出しているところかと思います。

池田

高齢者に対するワクチンは日本ではまだ承認されて時間が経っていないと思いますが、海外ではどのような接種状況でしょうか。

高橋

最も積極的なのは米国ですが、米国は、有効なワクチンであれば積極的にやろうというかたちで、60歳以上の承認が通ってから、米国のワクチンの機関も、とりあえずは60歳以上の全高齢者に関して積極的にやりましょうというキャンペーンを行っています。2023年の段階で、すでに高齢者の2割ぐらいが接種を受けているような状況です。

基礎疾患がある方に関しては、より接種の推奨が高くなりますので、GOLDという有名なCOPDのガイドラインでもいち早くRSウイルスのワクチン接種はA推奨として推奨度が最も高く掲示されました。そういうこともあって米国ではかなり積極的にワクチンの接種が進められている状況です。

池田

2024年6月にACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)での推奨、更新があったとうかがったのですが、これはどのような内容でしょうか。

高橋

初年度に関しては、米国では60歳以上でとりあえず1回は打ちなさいという基本的な推奨でしたが、その後の1年間の米国でのデータを踏まえて、推奨方針が6月に変更されました。

それを見ますと、基本的には75歳以上に推奨し、60~74歳の方に関しては、基礎疾患を有する方々、あるいは施設入所をされている方々を重点的に接種対象とすることを強く推奨するというかたちです。全年齢でとりあえず打ちましょうというよりは、これまでのデータを踏まえて、よりリスクが高い人に重点的にキャンペーンを張って、ワクチンを普及させましょうという方針に一歩進んだ内容になっています。

それから昨年、米国では50~59歳の基礎疾患がある方にもアレックスビーが認可されたのですが、これは日本でも後に認可されました。今後の展開としては少しずつ広がってくることになるのではないかと思います。

池田

基礎疾患にはどのような疾患を想定されているのでしょうか。

高橋

特にリスクが高いのは心疾患、肺疾患、腎疾患、肝疾患、免疫不全などです。今回の推奨では糖尿病や、循環器疾患の中でも単純に高血圧だけの人にはあまり推奨しないとなっていました。一般的にちょっとリスクがあるかなという方は、あまりハードルが高くなくて、打ってもいいのではないかというリコメンデーションになっています。

池田

今後、日本においても、50~59歳のハイリスクな方々に対するRSウイルスワクチンというのは拡大されていく方向にあるのでしょうか。

高橋

そうですね。ただ、かなり大きなスタディーをやったのは60歳以上であり、50~59歳の方のデータがまだ不足しているのではないかと思います。米国でもその辺りに関しては積極的な推奨までは踏み込んでいないのですが、やはりリスクがある方です。特に器官系や免疫機能がかなり落ちている方は、RSにかかると重篤になりやすいので、現場では、そういうところまで拡大してほしいという声はよく聞かれます。

池田

これは補助金が出るのでしょうか。

高橋

補助金に関しては、基本的には自治体によりけりです。今のところ、公的に補助金が出るワクチンではなくて、任意のワクチンというかたちになっていますが、北海道などでは、5~9割ぐらいワクチンの補助金を出して、自己負担がかなり少なく接種できるという状況を整えている自治体もいくつか出てきています。ただ、全国的にはまだ様子見というところが多いようです。

池田

やはりある程度補助金が出ますと、打ってみようかというモチベーションにつながるのではないでしょうか。ありがとうございました。