ドクターサロン

齊藤

患者さんはどういった症状で加齢黄斑変性に気づくことが多いのでしょうか。

五味

眼底の網膜の中心にある、ものを見るのに大切な部分が黄斑です。患者さんは、視野の中心のゆがみや暗さ、あるいは見えにくさといった自覚症状を訴えますが、目は2つあるので、片方に発症したときは意外と気づかないこともあります。たまたま片目をつぶって気づいたという方も少なからずいらっしゃいます。

齊藤

これは増えてきているのでしょうか。

五味

はい、増えてきています。もちろん高齢化もあるのでしょうが、それだけではないという認識です。以前は白人に多い病気と考えられていましたが、日本を含むアジア圏でも患者数は増えています。

どなたでも十分気をつけていただきたい疾患ではありますが、アジアでは男性の患者さんが女性の約2~3倍となっています。

齊藤

原因は、どの程度わかっているのでしょうか。

五味

まず、加齢黄斑変性には2つの型があります。黄斑部の網膜の裏側に新生血管が出てくる新生血管型と、黄斑部の網膜あるいは脈絡膜の辺りの組織が傷んでしまう萎縮型です。

加齢により慢性的に炎症や虚血、ストレスが加わっていることで、これらの病態ができてくるといわれていますが、きちんとしたメカニズムはまだわかっていないところもあります。遺伝的要因や、環境要因、喫煙や脂っこい食事も関係するといわれています。現時点で国内で治療の適応になっているのは新生血管型です。

齊藤

新生血管型の加齢黄斑変性では、血管内皮増殖因子が悪さをしていることがわかってきているのですか。

五味

はい、新生血管ができるときにはVEGFと呼ばれる血管内皮増殖因子が関与します。VEGFは新生血管からの滲出をきたして、組織のむくみも生じさせます。ですから、治療のターゲットがVEGFになりうるのです。

齊藤

診断の確定はどのようにするのでしょうか。

五味

視力測定やゆがみの有無の確認はもちろんですが、いま主流となっているのがOCT(光干渉断層計)と呼ばれる検査です。非侵襲的OCTでは、黄斑部の形態の異常を非侵襲的に即座に描出できます。

齊藤

患者さんは、眼底の写真を撮るイメージでできるのですね。

五味

そうです。患者さんは座ってカメラをのぞいていただくだけで撮影できて、すぐに結果がわかる検査になります。

齊藤

血管もこれで見えるのでしょうか。

五味

ここが新生血管だろうと推定される部位はわかります。出血や滲出液で網膜が腫れている、あるいは網膜が萎縮して薄くなっていることも、OCTで判断することができます。

齊藤

新生血管はどうやって見るのでしょうか。

五味

新生血管をきちんと見るために以前は蛍光眼底造影検査を用いていました。しかし蛍光眼底造影検査は侵襲があり、人によってはアレルギーを起こすこともあります。そのため、最近は非侵襲的に、血管そのものを映していく、OCTアンギオグラフィーと呼ばれる検査を行っています。

齊藤

治療がここ十数年でたいへん進歩したそうですが、まずはどういったことをするのでしょうか。

五味

新生血管型加齢黄斑変性の治療の第一選択は抗VEGF療法です。先ほども申し上げたように、新生血管ができたりむくみをつくったりするのにはVEGFが関係します。ですから、それを抑えることが、病態を抑えるのに望ましいことになります。黄斑部の網膜は視力や視野に直結するので、傷をつけたりすることができません。ですから、今は薬剤の効果を期待する薬物療法を行っています。

齊藤

これは注射薬を硝子体に注射するのですね。

五味

強膜と呼ばれる白目のところから、細い針で目の球の中の硝子体に薬を入れていくかたちになります。

齊藤

一定間隔で注射をしていくのでしょうか。

五味

治療を始めたときは月に一度、注射する必要があります。病状が治まったことがわかったら、再度悪くならないように、維持するための注射が必要になってきます。維持期の注射の間隔は、患者さん自身の病状に応じて選ばれていることが多いかと思います。

齊藤

患者さんの自覚症状はかなり良くなるのですか。

五味

病状にもよりますが、治療を開始したときには、1回の注射でも見え方が良くなった、視野が明るくなったと、実感できる方が多いです。

初期は、視力が回復できるタイミングなので、1回でやめずに継続することが大事です。そこで一定の効果を得られたあとは、患者さん自身は見え方の変化に気づかなくなることが多いのですが、それでも必要なときには注射を続けていかないと、また元の木阿弥となってしまいます。

齊藤

そうなると悪化を予防するということで、患者さん自体は改善していく実感があまりないので、治療継続が問題になるのでしょうか。

五味

おっしゃるとおりです。患者さん自身が、ある程度変わらない状態になってしまうと、そこから治療を続ける意義を見失ってしまうこともあります。しかし、実際に私たちがOCTなどで、再燃の兆候を見たときには早めに治療をしないと、せっかく安定した状態がまた一から戻ることになってしまいます。

しかし、問題は、抗VEGF薬が高額で、1回の注射でもそれなりの費用がかかることです。ですから、患者さんの費用負担、あるいは通院の負担や注射に対する恐怖感、病状の理解が十分できていないときには、治療が途切れがちになってしまいます。その辺りをうまく解決していくことが、大事になってきます。

齊藤

抗VEGF薬は2008年ごろから出てきて、今は数が増えてきているのですね。

五味

新しいものは既存の薬よりも治療間隔を少し空けられる可能性があります。VEGFへの親和性を高めたり、VEGFだけではなくほかの分子もターゲットにしているような薬剤が新しく認可されています。しかし、必ずしも後から出たものが良いというわけではなく、患者さんごとの病状を見ながら使い分けていくことが大事かと実感しています。

齊藤

最初に使ったものから替えていくこともあるのですね。

五味

ある程度長い期間注射が行われていると、タキフィラキシーといって現状の薬に対し耐性のようなものができてしまうことがあります。薬を替えることで効果がまた見えることもあるので、そういう場合には薬のスイッチングは効果があります。

齊藤

有害事象で眼内炎の報告があります。予防はどのようにされているのでしょうか。

五味

注射の手技にかかわる細菌性の眼内炎と、薬剤に対する反応による炎症性の眼内炎、すなわち細菌が関与しない眼内炎があります。

細菌性の眼内炎に対しては直ちに手術や抗菌治療を行わないと視力が回復しませんが、薬に対する炎症がもとでの眼内炎であれば、ステロイド剤などで消炎をはかります。

齊藤

抗菌薬もルーティンに使うことはあまりしなくなっているのですね。 

五味

注射に際して細菌が入ることをきちんと抑制できていれば、必ずしもルーティンに抗生物質を使う必要はないことがわかっています。

齊藤

主に抗VEGF治療についてうかがいましたが、これを継続することにより、視力が下がることを予防していくのですね。

五味

患者さんによっては抗VEGF薬だけではなく、光線力学療法というレーザー治療が功を奏することもあります。こちらも認可されている治療です。

患者さんから、注射をたくさん受けているけれどもあまり良くならないという話を聞かれることがあったら、「別の専門医の意見を聞いてみたら」というようなサジェスチョンもあればいいとは思います。

齊藤

ありがとうございました。