池田
耳慣れない質問が来ています。パーキンソン病、レビー小体型認知症などの診断時にドーパミントランスポーターシンチ(DaT-SPECT)がありますが、どのようなものでしょうかという質問です。
まず、パーキンソン病とレビー小体型認知症は、共通した発症機序はあるのでしょうか。
稲川
この2つの病気はどちらも、αシヌクレインという物質からなるレビー小体が原因となっています。
レビー小体の蓄積により、レビー小体型認知症であれば認知機能障害が前景と出てきますし、パーキンソン病であれば運動症状などがより前景となって出てきます。
池田
ということは、αシヌクレインが蓄積する部位が少し違うのでしょうか。
稲川
これについては共通する部分もありますが、それぞれの病気によってより特異的に蓄積するような場所が異なり、それにより症状が異なってくると考えられています。
池田
パーキンソン病は中脳の黒質が障害されるとのことですが、ドーパミントランスポーターシンチをすると、そこだけに発現が落ちている、上がっている。そういうことでしょうか。
稲川
おっしゃるとおりで、パーキンソン病では中脳黒質におけるドーパミン作動性神経の変性や脱落が、錐体外路症状をはじめとした様々な症候の原因となります。
そして、中脳黒質における神経の変性があれば、当然、神経終末に発現しているドーパミントランスポーター(DaT)も減少します。DaTの発現を捉えることができれば、中脳黒質における変性を間接的に捉えることができ、その診断に有用かと考えています。
池田
障害された神経の細胞から発現しているDaTが減るのですね。
稲川
おっしゃるとおりです。DaTの発現量が低下するという認識です。
池田
レビー小体型認知症では、大脳のほうを中心に発現が低下するのでしょうか。
稲川
病気の原因となるレビー小体は大脳皮質にも沈着していきます。程度の差はあるかもしれませんが、パーキンソン病と同じくレビー小体型認知症でも中脳黒質における障害があるので、レビー小体型認知症でもDaTシンチグラフィでの集積低下が出てきます。
池田
イメージとして、まず臨床的にパーキンソン病やレビー小体型認知症と診断をつけておき、DaTを行うことにより、それを裏付けるようなイメージでしょうか。
稲川
診断自体は臨床症状が一番大事だと思います。臨床症状だけで診断がなかなかつかない場合や、診断をより確かにするためにこういった検査を行います。
池田
シンチグラフィということですが、どういった物質を注射して、その集積を見るのでしょうか。
稲川
こちらはDaTの発現を画像として捉える検査方法ですが、わが国においては診断用放射線医薬品であるイオフルパンを用いたDaT-SPECTが保険収載されています。
池田
イオフルパンには放射性同位元素が付いているのでしょうか。
稲川
こちらについてはヨード123が付いています。
池田
イオフルパンがドーパミントランスポーターに集積する、親和性の高い物質でしょうか。
稲川
おっしゃるとおりです。
池田
注射をして集積を見るとき、例えば、集積が下がっているのか、下がっていないのか。これはどのように判定するのでしょうか。
稲川
基本的には、ビジュアルによる定性評価が基本となってきます。正常であれば両側の線条体に左右対称性に、三日月もしくは勾玉のようだとよく表現される形の集積パターンを示します。
ですから、線条体における集積の形が通常と異なっていないか、左右差がないかということに注目しながら評価を行っていきます。
池田
あくまで視覚なのですね。すると、医師の熟練度も影響をある程度受けるのでしょうか。
稲川
おっしゃるとおりで、確かにこういった視覚的な評価に関しては、読影者により判定にばらつきが生じてしまう可能性があります。ですから、縦断的な観察や鑑別診断をより正確に行おうとするときには、定量的な評価が必要になってきます。
池田
先ほど、パーキンソン病もレビー小体型認知症も広い範囲で発現の低下があるかもしれないとおっしゃいましたが、両疾患で特徴的なパターンはありますか。
稲川
パーキンソン病においては、ドーパミン作動性神経の変性・脱落は中脳黒質緻密部の背外側から始まるといわれています。また、初期には症状の左右差を認めることが多いです。よって、DaTシンチグラフィにおいても、初期では症状と対側の被殻の背外側から集積が低下することが多いといわれています。
また、レビー小体型認知症においては、両側性に左右差がない高度な集積低下を示すことが多いとされています。
池田
そのパターンも含め、診断は正確になってくるということですね。
もう一つ、MIBG心筋シンチグラフィというものも有用であるとうかがいましたが、これはどのようなものですか。
稲川
先ほど少しお話ししたドーパミントランスポーターシンチグラフィに関しては、基本的に黒質線条体の神経変性を伴う疾患であれば、すべて集積が低下してしまいます。そういった中で別の検査を組み合わせることにより、診断の有用性が増す可能性があると考えています。
MIBG心筋シンチグラフィとは、心臓交感神経の節後線維における神経変性を確認することができる画像手法です。パーキンソン病やレビー小体型認知症であれば、心臓交感神経のαシヌクレインの沈着による脱神経を反映して、集積低下が認められるのです。
池田
脱神経を見ることにより、交感神経系の異常を見るということ。これがあればαシヌクレインが沈着した細胞の異常であることが裏打ちされる。そういう考えでしょうか。
稲川
バイオマーカーとして、病理の結果により近づくことができるものかと思います。
池田
この2つを組み合わせることにより、精度がさらに上がっていくということですね。たいへんな仕事だと思いますが、ルーティン化されることを望んでいます。
今までの話は、αシヌクレインが沈着して神経障害が起こった細胞の末梢として、ドーパミントランスポーターを見ているということで、直接的でないような気がします。直接的に細胞が障害されていることを見る方法はないのでしょうか。
稲川
そこに関しては、最近になってですが、中脳黒質における変化をより直接的に捉える方法として、ニューロメラニンMRIという検査方法が報告されています。この検査は、3テスラのMRIを用いることにより、中脳黒質緻密部にあるドーパミン作動性神経の中の神経メラニンを可視化する方法です。
基本的に中脳黒質の神経細胞が変性・脱落すれば神経細胞内の神経メラニンも減少するので、DaTシンチグラフィと比較して、より直接的に中脳黒質の変化を捉えることができるかと思います。
池田
中脳黒質のメラニンがなくなって病気になるのですから、メラニンが下がっていればその神経がやられているに違いないですが、今までできなかった理由はあるのでしょうか。
稲川
この検査に関しては、3テスラのMRIが必要だということが一つキーポイントだと思います。これまでの1.5テスラなど、古いMRIではなかなか検査できなかったのですが、技術が進歩して、より細かいところまで画像を見ることができるようになったことにより、こういった技術が出てきたのかと思います。
池田
そこで、また元に戻ってしまうかもしれませんが、1.5テスラや3テスラの違いはMRIの画像にどういう影響があるのでしょうか。
稲川
画像の細かい解像度などに変化が出てくると思います。
池田
簡単に言うと、磁場が倍になったということですね。
稲川
そういった認識でよいかと思います。
池田
倍になると、例えば今まで見えていたものが、野球のボールぐらいのものだったのが、ビー玉とか、小さいものが見えるようになる。そんなイメージでしょうか。
稲川
より高画質となりますので、そういった認識でよいと思います。
池田
逆に言うと、細胞内のメラニンの粒々が見えてくるという意味ですか。
稲川
はい。ただし、正確にはニューロメラニンと金属が結合することで磁性体となり、T1短縮効果を示しているのが捉えられています。
池田
そこまで小さな細胞まで緻密に画像で見えるということですか。
そのイメージがまったくなく、我々がいろいろな臓器のMRIなどを拝見すると、クルクルと回して見ていますよね。ああいうのではなく、本当に緻密な細胞のレベルまでわかるということですか。
稲川
おっしゃるとおりです。
池田
ということは、通常に3テスラのMRIを撮ればいいということですか。
稲川
基本的に撮像自体は3テスラのMRIができれば可能です。ただし、ニューロメラニンMRIの解析については少し難しいところがあります。説明自体難しいところがありますが、関心領域を自分自身で設定する必要性があります。ですから、その辺りが自動的に設定できるような技術が出てくれば、この検査がより一般的に広がっていくのではないかと思います。
池田
関心領域というと、例えば中脳黒質だけということですか。
稲川
中脳黒質の緻密部を自分自身で選択しなくてはいけないです。
池田
撮影前にコンピューターか何かでプログラムをつくっておき、そこに特化して画像を撮るイメージですか。
稲川
画像を撮像した後に解析の段階で、自分自身で中脳黒質の緻密部を選択して、それを解析にかけるかたちとなります。
池田
それが今の時点では一般的にできるようなソフトはないということですか。
稲川
今の時点では残念ながらありません。
池田
先生の研究室ではもうだいたいできているのですか。
稲川
今のところ我々の研究室では、複数人の熟練者により手動で関心領域を選択しています。
池田
それが一般化され、市場に売り出されれば、どの施設でもある程度はできることになるのでしょうか。
稲川
関心領域を自動で設定する技術がもし確立できれば、より普遍的なものになるかと思います。
池田
それで細胞自体の変性を直接可視化することもありますが、これと先ほどのMIBG心筋シンチグラフィは組み合わせて行われるのでしょうか。
稲川
基本的にDaTシンチグラフィとニューロメラニンMRIは、どちらも中脳黒質の変性を見ているものです。ですから、これとまた別の部分を見ているもの、例えばMIBG心筋シンチグラフィであれば交感神経の障害を見ているので、見ているところが別の検査を組み合わせることはより確かな診断のために有用かと思います。
池田
ますますの研究を期待しています。ありがとうございました。