池脇
今回は、やや特殊な血圧の質問をいただきました。脈圧ということで、収縮期血圧は正常だが拡張期血圧が高く、それに対してどう対処したらいいのかという質問です。
まず、血圧の収縮期と拡張期の値がどういう因子で規定されるか、基本的ですが、あらためて教えてください。
星出
まず収縮期血圧は、高齢になるほど高くなることが知られています。一番の要因としては、高齢になると動脈硬化が進んで血管が硬くなるので、収縮期血圧が高くなりやすいことです。
一方で、拡張期血圧のほうが少し高い人は若年者にわりと多いと思います。機序はいろいろ言われていますが、一般的には交感神経の亢進や体液貯留などの要因で拡張期血圧が上がると考えられています。
池脇
今の先生の解説の中で、高齢の方は収縮期血圧が上がるとのことですが、拡張期血圧はけっこう下がりますよね。それは、高齢者は基本、大動脈の柔軟性、弾性がなくて筒のように硬くなるので収縮期血圧が上がって拡張期血圧が下がるということですね。
一方で、後半に解説していただいた若年者は比較的拡張期血圧が高いというのは、まだ血管の柔軟性が保たれているともいえるのですね。
星出
おっしゃるとおりです。
池脇
私も、血液の流れがどうなっているかは見たことがないですけれども、収縮期でグッときて、それに合わせて大動脈が広がって、その後の拡張期は大動脈から末梢に血液が流れていく。
そこが先ほど言われた交感神経系等々でうまく流れていかないので、やや高めのまま推移するという理解でよいですか。
星出
それでよろしいかと思います。
池脇
若年者であるということとはほかのファクターが、そこにもかかわってくるということですね。
星出
そうですね。例えば一番多いのは、肥満を合併する方です。
池脇
ストレスや喫煙も一因になりますか。
星出
そうだと思います。
池脇
そういう因子で収縮期血圧と拡張期血圧が規定されて、高齢者と若年者で特徴があるのですね。質問には脈圧が低いと書いてありますが、専門医からみて脈圧は小さいか大きいかという表現でよいですか。
星出
一般的には、そう言うことが多いかと思います。
池脇
脈圧が小さいというのが特徴だということです。
質問の後半は、75歳以下の家庭血圧の拡張期血圧の正常値が75㎜Hgになっている根拠は何でしょうかということです。日本の高血圧のガイドラインの収縮期血圧が125㎜Hg、拡張期血圧が75㎜Hgとなっている根拠はどうでしょう。
星出
2014年のガイドラインから掲載されていると思いますが、外来血圧140/90㎜Hgに対して家庭血圧135/85㎜Hgというのがあると思います。外来血圧の治療目標値が下がったときに、家庭血圧の値をどう設定するかが問題になります。
日本の家庭血圧のコホート研究に大迫研究がありますが、そのデータで、外来血圧130/80㎜Hgに一致するイベントとだいたい同じぐらいの割合が家庭血圧125/75㎜Hgに一致するだろうとされていて、そのように設定されています。
池脇
最初、私は、こういうガイドラインはだいたいが欧米輸入型で、それをそのまま持ってきているので日本人のデータはないという先入観がありましたが、そうではなく、今回の場合、拡張期血圧75㎜Hgは、日本人のデータがきちんとした根拠になっているのですね。
星出
そうですね。一方で米国のガイドラインでは、130/80㎜Hgの外来血圧に対する家庭血圧の値が同じ130/80㎜Hgに設定されています。実はそのガイドラインには根拠や引用文献はまったくなく、おそらく専門医の意見で設定されたのではないかと思います。
池脇
確か前回先生に出演いただいたときに家庭血圧の機械の精度の話がありました。海外は精度保証がきちんとされていないことがあるので、もちろん外来の血圧計とは機序が違うので同じ値ではないにしても、むしろ日本の家庭血圧のほうが正確だという意味で設定が細かいのですね。
星出
規制の問題だと思います。日本では、薬機法に通らないと販売できないので、適当に買ってしまうとあまりよくありません。
池脇
そういう意味でも日本のデータは非常にしっかりとしていて、75歳以下、成人も含めて拡張期血圧の正常値75㎜Hgはきちんとした根拠があるのですね。
ガイドラインを聞きましたので、日本において、後期高齢者の場合は外来血圧が140/90㎜Hg、家庭血圧が135/85㎜Hgなので、年齢によって多少差別化されているということですね。
星出
75歳以上であっても、忍容性があればということになっています。
池脇
糖尿病やCKDはやや厳格で、125/75㎜Hgでしたか。
星出
家庭血圧はそうです。
池脇
この辺りに関しても、それなりのエビデンスがあって、よりハイリスクの場合は、より厳格に管理しましょうということでそうなっているのですね。
星出
そうなりますね。
池脇
脂質もそうですが、厳格な治療の方向に流れているのは血圧も同じでしょうか。
星出
ここ5年、10年の流れでは、そうなっています。
池脇
それだけきちんと下げられる降圧剤もあるので、そういうことが可能になってきたのも、反面ではあるかもしれませんね。
星出
はい。
池脇
質問に戻りますが、収縮期血圧が100㎜Hg、拡張期血圧がちょうど正常値の上限の75㎜Hgです。こういう例はまれですか。
星出
なくはないかと思います。
池脇
私は若い患者さんをそれほどみていませんが、収縮期血圧が120㎜Hg台、130㎜Hg前半ぐらいだけれども、拡張期血圧が90㎜Hgを超えてしまって、場合によっては100㎜Hgのときもあるような方は時々遭遇します。
収縮期血圧はむしろ低いけれども、拡張期血圧75㎜Hgという脈圧が小さいタイプに介入する必要はありますか。
星出
脈圧が小さいというか、要は拡張期血圧がちょっと高めで、それに対して今のこの値で介入するかどうかだと思います。75㎜Hg未満にするのに、例えば80㎜Hgぐらいでそこに下げるかですが、そこはなかなかエビデンスはないですね。
池脇
介入する、降圧することによって将来のイベント抑制効果があるのか。どのぐらいの数字の方がリスクが高いのかどうかも、データがあれば教えてください。
星出
拡張期血圧に関しても、収縮期血圧の幅のほうが大きくなりますが、拡張期血圧もリニアにというか、高ければ高くなるほど10年、20年たったときにイベントのリスクになるといわれています。
池脇
高いにしても100/75㎜Hgの人に、食事指導、塩分制限などはするかもしれませんが、降圧剤というのは、逆に収縮期血圧の100㎜Hgが下がってしまって低血圧の症状が出ても困りますし、一般的には非薬物的な介入ということになるでしょうか。
星出
おっしゃるとおりで、降圧剤までいくのは少しやりすぎかなという気がしますので、生活習慣の改善、塩分制限、運動などが第一選択になると思います。
池脇
私の経験を持ち出して恐縮ですが、収縮期血圧が120~130㎜Hgぐらいでも拡張期血圧が明らかに高い90㎜Hg台、場合によっては100㎜Hgを超える場合は、何とかしないといけないのかなと。こういうときは、何をされるのでしょう。
星出
拡張期血圧だけを下げるのはなかなか治療法が難しいですが、我々の以前の研究ではカルシウム拮抗薬とARBで、ARBのほうが拡張期血圧を若干下げる感じがありましたので、一般的には、そのほうがいいかと思います。
池脇
いろいろなものを見ると、そういうときには血管拡張作用のあるカルシウム拮抗薬とかアルファブロッカーと書いてあります。先生はどちらかというと、ARBを選択しますか。
星出
そのときのデータはそうだったのです。ですからケースバイケースだと思います。拡張期血圧を上げる病態が複雑ですので、患者さんに応じて一番いいものを選択することになるのではないかと思います。
池脇
確認ですが、そういう方たちは塩分過多で、体液貯留傾向で拡張期血圧が高いことが多いように思うので、降圧治療の前に、まずその辺りの指導が第一でしょうか。
星出
生活習慣の改善が第一だと思います。
池脇
ありがとうございました。