ドクターサロン

池脇

今回は直接経口抗凝固薬(DOAC)の質問をいただきました。ワルファリンであればPT-INRで適正な治療域に入っているかどうかはわかるけれども、DOACにそういう検査は何かないかということです。

私はどちらかというと楽観的で、年齢や体重、腎機能で量を多少調整して「はい、これね」と決めたら、もうそれで出しっぱなしにして、効きすぎていないかどうかはあまり考えたことがないのですが、ご質問の医師はそれが心配だということです。どうでしょうか。

鈴木

ワルファリンから急に、適正域を測らなくていいというDOACの文化に入り、信じがたいのは、私も同感です。私はDOACがはじめに出たころの2011年から、定期的に腎機能、プロトロンビン時間、APTTについて年に2~4回ぐらい測ることを、ほとんどすべての患者さんにやっているので、お気持ちはものすごくよくわかります。

池脇

鈴木先生のなさっていることは、まさにこの医師にとって「ドンピシャ」という感じがします。厚生労働省がDOACを4種類認可した中で、薬効のモニタリングは必要がない、安全な薬ですと言っているようにも思います。

鈴木

ワルファリンと測らずに投与したDOACを比べ、DOACのほうが勝利した結果をもって、全体として測らなくてもいいという触れ込みでDOACは登場しましたが、個別に見ると効きすぎの方や効いていない方がいるのは事実だと思います。ただ、経験上、それはかなり特殊な方に限られます。

最初に出たダビガトランは腎機能の影響をわりと受けやすく、腎機能が悪くなると血中濃度が簡単に上がってしまうことがあったので、この薬に関しては測る意味があると感じていました。ほかの3種類は本当に素晴らしく、私はとにかく測ってはいますが、プロトロンビン時間が上昇している方にほとんど遭遇しないのが正直なところです。

実際に悪くなる方は、クレアチニンクリアランス30を切っている方にほぼ限定されます。通常の腎機能でFactor Xa阻害薬を出す場合は、電子添文どおりに出しておけば、予想どおりの血中濃度に当てはまると思っていただいていいと思います。

池脇

ほとんどの方は、適正な量を投与したら適正な範囲に血中濃度はある。しかし、いま先生が言われたように、腎機能があまりよくない方や、それ以外に高齢などとはあまり関係なく、腎機能が一番影響するファクターでしょうか。

鈴木

高齢者の方の腎機能は本当にバラエティーに富んでいて、クレアチニンクリアランス50以上の方が半分、50未満の方が半分くらいです。80歳を超えてくるとクレアチニンクリアランス30を切る方が20%ぐらいで、残りが半々でクレアチニンクリアランス50以上と50未満に分かれる分布なので、もう年齢ではわからない感じです。クレアチニンクリアランスを測り、それで判断するのが正しいと思います。

池脇

今のDOACはある程度の腎排泄性があるので、基本的にはワルファリンをといわれていますが、30ぐらいまでは基本的に慎重投与で使ってもいいということですね。

鈴木

30までは心配はまったくいらないと思います。アピキサバンを使う場合はクレアチニンクリアランス25ぐらいまで安心ゾーンで何の心配もいりません。

クレアチニンクリアランス25を切った辺りはアピキサバン、ほかのDOACの場合はダビガトランを除きリバーロキサバン、エドキサバンは30を切った辺りで注意が少し必要というゾーンになり、それでもワルファリンよりは安定しています。

そのためワルファリンのような感覚で心配する必要はまったくない薬だということは、すごく実感しています。

池脇

ワルファリンは食事により、影響をだいぶ受けますが、DOACの場合、食事の影響はまったくないですよね。

飲んでいる方の状況が変わらないかぎりは血中濃度も動かないとなると、本当にもうあとは腎機能だけ注意して見ていれば安心なのですね。

鈴木

本当に腎機能だけです。

池脇

ただ、一方で先生は必ず年に何回かPTとAPTTをチェックされている。これは従来のPT、APTTで、これ用の特殊な検査ではないのですね。

鈴木

当初、論文などを書くために何度も測っていたのですが、今も習慣で測ってしまっているのが正直なところです。例えば、プロトロンビン時間を複数の試薬で測ってみたという論文も書いていますが、90%信頼区間という概念が国際血栓止血学会というところで提唱されています。日常臨床で投与しているDOACの血中濃度は90%くらいの幅に収まるということで、その幅を知っておきましょうということです。

日本人を対象に大まかなプロトロンビン時間の目安を出し、論文を書いていますが、リバーロキサバンの場合はPT-INRで1.2~2.5くらい。エドキサバンは1.2~2.0くらい。アピキサバンは1.2~1.6くらいの幅でだいたい分布するので、心配ならプロトロンビン時間を測ってみて、それぐらいの幅に収まっていれば、まずまずいいところで効いているかと想像するのがいいと思います。

池脇

いま先生が言われたPTをそういうことで使っていいとは、本当にどこにも書いていません。先生の今までの経験、けっこうな数の症例から出されたという意味では、それでいいなら何回か測ってみようとなりますね。

今後、こういうDOAC用のモニタリングの検査が出てくる動きはあるのでしょうか。

鈴木

実は、シスメックス社という企業が北海道医療大学にいらした家子先生の下で、ユニバーサルにDOACの強度を測れるプロトロンビン時間の試薬をつくりました。

その多施設研究に加わらせていただきましたが、もう論文も3つ出ています。ただ、販売直前になり、どうせ測る人はそんなにいないだろうと売れ行きの目途が立たなくて、販売中止になったという経緯があり、世の中的には測らなくていいほうを優先している状況です。

池脇

DOACも出てきて10年以上たち、問題になるような副作用は起こっていないとなると、行政側も「心配ないから、よけいな検査はしなくていい」というような感じになってしまい、新規の検査の開発の熱はあまり上がらないですね。

鈴木

そういう実情にあります。

池脇

中和薬についてお聞きします。万が一の確率で効き過ぎたときに、中和しないといけない。

今はすべてのDOACに関して中和薬が出ていますよね。起こったときに使うという意味では、救急の状況で使うことがほとんどでしょうか。

鈴木

そう思います。実際は出血を起こした場面で、ピークの状態で出血している、あるいは救急で運び込まれたときにピークの方は意外といなくて、半分ぐらいという話も聞きます。少し待てばトラフになるから、わざわざ高いお金を使って中和薬を使用しなくてもいいとなるケースもけっこう多いようです。

そういう意味では、DOACは本当にワルファリンと違う薬で、1日の中でも効いていない時間がけっこうあるということです。

池脇

とはいえ、中和薬がなかった時代に比べると我々医療サイド、場合によっては患者さんも多少の安心感にはなるでしょうか。

鈴木

たぶん、日常生活の中の出血でそういう場面は少ないのではないかと思います。我々はカテーテルアブレーションなどでフルに抗凝固薬、DOACが効いたところで治療をしているので、その中で心タンポナーデなどが起きると中和薬を使い、緊急手術ということになります。しかし、日常生活の中でけがをして出血した方が中和薬を使うというのは、意外と少ないのではと感じています。

池脇

これはけっこう高い薬ですよね。

鈴木

とても高いです。何十万から、Factor Xaだと百万円を超えるレベルなので、そうやすやすとは使えない薬だと思います。

池脇

質問の医師は、おそらくDOACをたくさん処方していて、診ている患者さんが駆け込んできたときに中和薬を持っていたほうがいいのでしょうかという質問もされていますが、持つにはそれなりのお金が必要ですね。

鈴木

そうですし、中和薬を投与すると効果が即座にゼロになってしまうので、脳梗塞を起こすリスクも抱えます。ですから、そういう患者さんが来たらすぐに救急車で救命センターに送ったほうが安心だと思います。下手に手を出すと、その場で逆に脳梗塞を起こすとか、怖いことが起こる可能性もあると思います。

池脇

一方で、モニターができないからやや少なめで使っていますとおっしゃっています。やや少なめで薬効が十分に評価できなくて血栓性のイベントを防げないことも心配な要素かと思いましたが、いかがですか。

鈴木

伏見AFのデータによるとunder-doseが4~6割います。そのDOAC投与者は抗凝固薬を飲んでいない人とイベント発生率は同じだったので、under-doseは効かない。

その効かない状態を実感できないのは、脳梗塞を起こしたらかかりつけ医の前からいなくなるからです。もう二度と来ないから、私のもとではunderdoseでも何も起きていないと思ってしまうと思います。しかし、実はunderdoseの中で脳梗塞がかなり起きている実態があるので、電子添文どおりの用量が医師の身を守るためにもなると思います。

池脇

ありがとうございました。