齊藤
眼内レンズにはどんなものがあるのでしょうか。
根岸
眼内レンズは大きく分けると単焦点眼内レンズという、主に1カ所にピントが合うレンズと、多焦点眼内レンズあるいは老視矯正眼内レンズといって、1カ所ではなく複数の距離にピントが合うレンズの2つがあります。
齊藤
差は、眼鏡が必要になるか、ならないかですか。
根岸
おっしゃるとおりです。単焦点眼内レンズの場合は、基本的に1カ所にしかピントが合いません。例えば遠くを見えるようにすると、手元で本を読むときは老眼鏡が必要になるので、基本的に眼鏡が必須となります。
しかし、多焦点眼内レンズあるいは老視矯正眼内レンズと呼ばれるものは複数の箇所にピントが合うので、眼鏡の使用をかなり減らすことができます。
齊藤
実際は医師から患者さんへの説明はもっと複雑ですよね。
根岸
はい。多焦点眼内レンズ、眼鏡の使用頻度が減るのであればそちらがいいのではないかと思われるかもしれません。まず、一つ大きな点は、単焦点眼内レンズは費用が健康保険でカバーされますが、多焦点眼内レンズは一部、保険が利かないので、患者さんの費用負担が高額になります。
また、多焦点眼内レンズは眼鏡の使用頻度は確かに減りますが、多少の欠点もあります。例えば、夜あるいは暗いところに出たときに、車のヘッドライトや街灯といった光源があると、それがハレーションを起こしたように見えたり、光源の周りに光の輪が見えることがあります。これはグレアやハローといわれる現象ですが、このために、夜によく運転される方などには向かないこともあります。
また、単焦点よりも見え方に慣れるまで時間がかかり、一般的には3~6 カ月かかるといわれています。必ずしも多焦点のほうがすべて優れているわけではないのです。
齊藤
そういった説明を患者さんにいつもしていると思いますが、患者さんは相当悩みますか。あるいは、すぐに理解できますか。
根岸
理解していただける場合もありますが、ご理解いただくのが難しかったり迷われてしまい、どちらがいいかをなかなか決められない方もいらっしゃいます。
その場合には、ご自身の生活と合っているかどうかが非常に重要になってきます。手術の前に、眼鏡をどのぐらい使っていらっしゃるか、今後どういった趣味をされたいか、いろいろなライフスタイルをうかがい、ご本人と相談しながら最終決定をします。どうしても決められない方の場合は、こちらからこういったレンズもよいのではないでしょうか、とお勧めする場合もあります。
齊藤
患者さんの性格というか、細かい人は合いにくいとかありますか。
根岸
細かいことを気にされる性格の方ですと、先ほどのグレアやハローといった現象が気になったり、なかなか慣れないことがすごく心配になってしまう方もいるので、そういう方には向かないかもしれません。
齊藤
患者さんはとても悩むということですし、レンズを入れた後、あるいは入れる前にセカンドオピニオンで、先生のところに来る患者さんもいるのですね。
根岸
当院の場合は非常に初期から長期に多焦点眼内レンズを扱っているので、セカンドオピニオンの方は非常に多いです。
齊藤
レンズを入れた後、悩んでいる方には、どういう説明をされますか。
根岸
手術を受けたばかりの方は順応期間というものがあるので、つらくてつらくて今すぐにどうにかしてほしいというほどでなければ、6カ月ぐらいは様子を見たらどうでしょうかと勧めています。
しかし、症状の強い方、あるいは6カ月たっても見え方が不良でつらい方は、ご本人が受け入れてくだされば、眼内レンズを多焦点から単焦点に交換するような手術を行うこともあります。
齊藤
実際、単焦点と多焦点の比率はどれぐらいになっていますか。
根岸
ほとんどの方が単焦点で、多焦点レンズを使われる方は日本の場合、現状では10%未満になっていると思います。
齊藤
施設により、だいぶ違いますか。
根岸
施設や地域によってもかなり異なると思います。
齊藤
眼内レンズに伴い、もう一つの話としてはORAがあると思いますが、これはどういったものですか。
根岸
単焦点、多焦点のどちらにしても目標の屈折度数が正確に合わないと、患者さんにご満足いただく見え方になりません。通常は手術前に検査をして目の奥行きの長さを測ったり、角膜のカーブを測ったりした生体計測の結果から眼内レンズ度数を計算して、これが合うでしょうと入れますが、実際は誤差が出てしまうこともあります。
ORAという機械は、そういったことを減らすために、手術前の検査で眼内レンズの度数をだいたい決めたうえで手術中に再度屈折度数を測定して、予定した度数で合っているかどうかを手術中に確認することができる機械です。ORAを用いて、精度を上げて手術をしている施設もあります。
齊藤
そのほうがよさそうな感じもしますが、実際の臨床面ではどうですか。
根岸
もともと目に大きな病気も手術もされたことがない場合は、特にORAを使わないで、術前の計測から予測した場合でも、今は大きくずれることは、ほとんどなくなってきています。したがって基本的にORAは必要ないと思いますが、例えば若いころにレーシックをされているとか、その他、特殊な手術をされているような方は通常の計算法だと誤差が出やすいので、ORAが有効となる場合もあります。ただ、そういう方は非常に少ないかと思います。
齊藤
それから、レーザー手術はどうでしょうか。
根岸
レーザー手術はすべての白内障の手術の工程をレーザーで行うわけではなく、一部の工程をレーザーで行い、残りは通常のマニュアル手術と同じように超音波を用いた手術装置で行います。論文にもよりますが、成績にはどちらも差があまりないというものもありますし、眼内レンズの長期的な安定性が少しよい可能性があるというような論文もあり、明らかに優位性をもってレーザーのほうがよいということはありません。ただし、白内障の手術の際に、最初に前囊切開という袋を切り取る作業をします。その時に、それが切り取りにくいような難しい症例の場合は、熟練した術者でなくてもレーザーで行うと一律に切ることができますので、そういった場合は、レーザーが少し有利になることはあるかもしれません。
齊藤
難しい症例かどうかは、事前にわかりますか。
根岸
それは日常的に手術をしている術者でしたらわかると思います。
齊藤
そこで考えられるということですね。
根岸
理論的にはそうですね。実際には準備もありますので、急に切り替えることはあまりないと思いますが。
齊藤
このレーザー手術は保険が利かないでしょうか。
根岸
保険で行うかどうかは基本的にその施設に委ねられていますが、一例一例費用がかなり高額にかかるものなので、保険で行うと大きな赤字になってしまいます。したがって通常はそれに見合うコストで、多くは多焦点眼内レンズとの組み合わせとか、そういったかたちで、自費診療で行っているところが多いと思います。
齊藤
それから、タッチアップというテクニックがあるのでしょうか。
根岸
はい、手術後に眼内レンズの度数が目標と大きくずれてしまった場合、すなわち、術後に遠視が残ったり、近視が残ったり、乱視が残ったりすると満足のいく見え方になりません。そういう場合に角膜の形状を変える屈折矯正手術で度数誤差を直します。レーシックとか、今はSMILEという手術がありますが、そういった手術で目標度数に修正するような手術をタッチアップと呼んでいます。
ただ、今は眼内レンズ度数の計算精度がかなり上がってきているので、タッチアップを受ける方は減っていると思います。
齊藤
眼内レンズに関して両眼とも同じものを入れないこともあるのですね。
根岸
両眼に同じ種類の眼内レンズ、同じ目標度数の眼内レンズを入れることが多いですが、モノビジョンといって、左右の眼でわざと少し眼内レンズの度数に差をつけて見える距離の範囲を広くしたり、多焦点眼内レンズでも左右の眼で異なるタイプのレンズを入れて副作用的な症状を減らしたり、そういう場合はあります。
齊藤
今後の進歩はどうでしょうか。
根岸
現在、調節眼内レンズといって、元の水晶体に近いようなタイプの開発もいろいろ考えられていますし、手術関連の機器もまだこれからさらに進化してくるのではないかと思います。
齊藤
ありがとうございました。