藤城
山根先生、白内障手術についてうかがいます。
白内障は一般に、目の中のレンズが曇る病態と理解されていると思いますが、その理解でよいでしょうか。
山根
そのとおりです。目の中には水晶体というレンズの働きをしているものがありますが、40代ぐらいから濁り始め、70代になるとすべての人が白内障になるといわれています。
これは皆さんが70代で手術が必要という意味ではなく、眼科で診断をすると白内障はあります、という状態になるということです。
藤城
その発症を遅らせるような日常生活の注意点はあるのでしょうか。
山根
有力なものはあまり存在していませんが、白内障の進行には紫外線が影響することがわかっています。紫外線が強いような屋外で仕事をされる方などは、白内障が早い年齢で進んでくることがわかっています。
藤城
患者さんは増えているのでしょうか。
山根
基本的に高齢化が進んでいるので、それに伴い白内障手術を受ける患者さんが増えていることと、昔と比べると視力の低下が比較的軽度であっても、少しでも良くしたいということで、早めに白内障手術を受ける方が増えています。結果として、白内障手術の件数は増えていると思います。
藤城
どうやって診断をするのでしょうか。
山根
一般的に眼科で診察をした場合、細隙灯顕微鏡検査という、斜めから細く切った光を目に当て、顕微鏡で拡大して見る検査をすると白内障がどのように起こっているのかを判断することができます。
藤城
治療が必要な白内障と、そうでない白内障があると思いますが、どのような状況で治療をする必要があるのでしょうか。
山根
治療をする必要があるかどうかということは、その方の感じ方や生活スタイルなどによっても変わってきます。一般的には視力が落ちて手術をする方が多いです。
例えば、運転免許には矯正視力で0.7が必要になるので、0.7を切る場合には免許の更新のために手術を受ける方が多くいらっしゃいます。しかし、視力が1.0であっても、まぶしく感じる、かすんで感じる、ダブって感じるといった症状のために、白内障手術を受ける方もいらっしゃいます。
藤城
患者さんそれぞれのニーズがどこにあるかで、治療を行うかどうかが判断されているということですね。
山根
はい。基本的にはご本人が何も不自由がなければ、急いで手術をする必要はないかと思います。
藤城
今は人生100年といわれているので、手術を早めにしてしまうと長期の経過がどうかと心配する方もおられると思います。20年、30年たっても特に問題ないのでしょうか。
山根
非常に難しい質問で、人により、いろいろな捉え方があると思います。手術を先延ばしにするメリットは、テクノロジーの進歩により、手術がより楽になったり、レンズの種類が増えることです。いま実現できないような遠近両用のレンズといったものが新しく出てくると思われますので、待つことにより、そういうメリットがあるのです。
一方で、手術までの間、10年ほどをずっと不自由に過ごしているのであれば、早くに手術をしてしまったほうがいいのではないかという考え方もあります。
レンズは一生もつので、手術をした後、レンズが劣化して交換が必要になることは、基本的にはありません。ただ、レンズを支えている組織が弱くなり、レンズがずれてくるケースはあるので、若いうちに手術をした場合に10年後、20年後、さらに時間がたってくると、そのような合併症のリスクはだんだんと高まってきます。
藤城
どれぐらいの割合で10年後、レンズがずれて再手術をする必要があるのでしょうか。
山根
いま正確な数字を用意できませんが、3%以下だと思います。ただ、これはもともと水晶体の支えが弱い方がずれてくる可能性が高いですから、そういった方は、もしかしたら手術をしていなくても水晶体自体がずれてきている可能性もあります。ですから、早くやったほうがいいか、後からやったほうがいいかという判断は、なかなか難しいところがあります。
藤城
点眼薬やほかの方法で少し先延ばししたい方もおられるかもしれませんが、手術以外の治療法は何かあるのでしょうか。
山根
白内障用の点眼薬がありますが、これは治験により、白内障の進行の予防効果があるということで使われています。ただ、その効果は限定的なものであり、結局は手術が必要になっくるので、今はあまり使われていない傾向にあります。
もちろん、いろいろ研究している医師はいらっしゃいますので、薬物により白内障を治していく、濁ったものを透明に戻そうという努力はされているのですが、今のところ有力な薬物はまだ開発されていないのが現状です。
藤城
手術をするとなると、日帰り手術でしょうか、入院が必要でしょうか。
山根
いま白内障の手術は、日帰りで行われている場合が多いです。その理由は麻酔方法と手術時間です。手術をする目の痛みだけを抑える局所麻酔下に行い、10分程度の短時間で終わります。体は何ともない状態ですので、そのまま眼帯をして歩いて帰れますから、日帰りで行う施設が非常に多くなっています。
一方で、例えば両方の目が見えないとか、足腰の悪い方とか、病院へのアクセスが難しい方の場合は、社会的な理由で入院したほうがいいケースもあるかと思います。
藤城
手術にかかわる合併症を心配されている方もいると思いますが、安全な手術なのでしょうか。
山根
白内障手術は年間に100万件以上行われているので、それだけの数をやっていると実際問題、合併症は起きています。軽度なものはいろいろありますが、重篤な合併症として最も挙げられるものは眼内炎といって、眼内に細菌が入り繁殖してしまうものです。これが最も重大で、我々が最も避けたい合併症だと思います。
藤城
その眼内炎を避けるためには、手術の後に抗生物質を使ったりするのでしょうが、患者さんは感染症に注意する必要がありそうです。その辺りの注意点を教えていただけますか。
山根
まず、抗菌薬の点眼をやっていただくことが基本になりますが、患者さんには1週間ぐらい、目をこすったり、細菌が入らないように気をつけていただきます。
具体的には、手術の日は通常、眼帯をしていただきます。翌日からはもう見えるので外しますが、目にふいにゴミが飛入しないように保護眼鏡を着用していただいたり、洗髪や洗顔は基本的に制限をさせていただき、目に水が入らないようにする生活をしていただきます。
藤城
それは何日ぐらいでしょうか。
山根
これも施設によると思いますが、だいたい3日から1週間程度、気をつけていただくことになります。
藤城
その間、気をつければ、あとはあまり心配することがないということですね。
山根
基本的に1週間すると手術の時につくった傷口が治ってくるので、その後は通常の生活に戻っていけることになります。
藤城
最近の診断や治療の進歩はあるのでしょうか。
山根
診断は従来どおり細隙灯顕微鏡で医師が診察することで行います。ただ、手術の時期に関して、以前は視力検査の数字で主に判断していましたが、最近はコントラスト感度といって、かすんでいるのか、くっきり見えるのかということも検査ができるようになっているので、そういったことも判断材料にしています。
藤城
手技の違いがあったりすると思いますが、どういう基準で眼科を選んだらいいのでしょうか。
山根
難しい質問ですが、人間がやることなので、まったく同じということはないと思います。患者さんがどの医師がいいかを見つけることは非常に難しいと思いますが、一番簡単なのは、かかりつけ医にご相談いただき、その医師が信頼している眼科医を紹介していただくことではないかと思います。
ご自身で調べられる場合にはホームページなどを見るしかないと思いますが、ある程度の手術件数をやっているか、手術の器具は最新のものを入れているかなどで判断していくことになると思います。
藤城
必ずしも大学病院に行く必要はなく、クリニックで十分できる治療と考えてよいでしょうか。
山根
そうですね。入院の必要がありませんので、クリニックでも大学病院でも基本的に同水準の手術が行われていると考えてよいと思います。
藤城
ありがとうございました。