ドクターサロン

多田

早速ですが、神谷先生、近視とはどういう状態を指すのでしょうか。

神谷

近視とは、目の中に入ってきた光線のピントが合う位置が、網膜より手前にある状態を指しています。凹レンズという中央が薄いレンズで光線の屈折を弱め、ピントの合う位置を網膜面上に合わせることで鮮明に見えるようになります。網膜から離れれば離れるほど近視が強くなるので、手元にしかピントが合わなくなります。

近視には2つの種類があります。屈折性近視といって角膜や水晶体の屈折力が高い近視と、軸性近視といって眼軸長が長い近視の2つのパターンがあり、どちらも網膜上では光が広がっていくので、ぼやけて見えてしまうことになります。

多田

近視の方の割合は、今どうなっているのでしょうか。

神谷

現代の日本人は4割ほどが近視ではないかと推定されています。スマートフォンやパソコン、タブレット端末の普及に加え、コロナ禍になりオンライン授業、リモートワークも広く行われているので、目の健康環境にとっては決してよい状況ではないと思います。

世界的に見ても近視人口は確実に増加し続けています。2050年には人口の約半数に達するのではないかともいわれています。近視は、年を取ってから白内障や緑内障、黄斑変性といった目の病気を合併しやすくなるので、近視による社会的な損失は決して少なくないのが現状だと思います。

多田

昔のように、我々が野に出て外を見ることが少なくなったことも近視が多くなった理由でしょうか。

神谷

おっしゃるとおりです。

多田

近視の治療について、お話しいただきたいと思います。

神谷

近視に対する保存的な治療として一般によく知られているのは眼鏡、コンタクトレンズがあります。もう一つ、オルソケラトロジーという特殊なコンタクトレンズを使う方法もあります。また、外科的な治療としてはレーシック、眼内コンタクトレンズ手術などが考えられます。

多田

多くの手術、治療は保険が利かないものがあるようです。屈折矯正の種類と、それぞれの適用、選択、位置づけ、費用についてはいかがでしょうか。

神谷

実際には屈折矯正手術、近視矯正の手術は保険が適用されません。

様々なメリット、デメリットがあると思いますが、まずレーシックに関していうと、角膜に薄く切れ目を入れ、フラップという小さなふたを開けた後にエキシマレーザーを照射することで角膜を削っていきます。最後にフラップを元に戻すのですが、一般に軽度から中等度近視が適応となっています。術翌日から視力も改善しますし、痛みも少ないという特徴があるので、世界的に見ると、最も普及した術式といわれています。

日本国内では、以前、手術件数が急増していましたが、様々な理由により、手術を受ける患者さんが減っています。長期的な観点から、近視を治した後にリバウンド、つまり近視が少し戻ってくるような状態、あるいはグレア・ハローという光の見え方の不具合、ドライアイ、コントラスト感度低下ということが報告されています。

多田

思ったより危険度が少なく手術ができるという認識でよいのですね。

神谷

はい。世界的に見ても、屈折矯正手術、近視矯正の手術は、安全性や有効性が十分確立された術式だと考えられています。

多田

そのほかにはどういう方法がありますか。

神谷

日本では眼内コンタクトレンズの手術がかなり普及しています。これは後房といって、虹彩の後ろ側にソフトコンタクトレンズのような柔らかいコラマーという素材のレンズを埋め込むことで近視を治します。

当初はレーシックが適応とならないような強度近視の患者さんのみに行っていましたが、レーシックと比べ、見え方の質がとても優れていて、満足度も非常に高いことがわかり、今ではわが国の近視矯正手術の主役となっています。中等度の近視まで手術がされるようになってきているのが現状として挙げられます。

多田

費用はいかがでしょうか。

神谷

実際には自由診療になるのでまちまちですが、レーシックは両眼で30万~40万円ぐらいです。一方、眼内コンタクトレンズ手術はレーシックに比べかなり高くなり両眼で60万~80万円程度です。

多田

これら以外の治療法はいかがでしょうか。

神谷

保存的な治療としては、一般的に眼鏡やコンタクトレンズがあると思います。眼鏡装用は基本中の基本だと思います。手軽にかけたり外したりでき、手入れも簡単です。ただ、眼鏡は激しい運動をするような人には向いていませんし、マスクなどをするとレンズが曇ったり、視野が狭くなることがあります。

一方、コンタクトレンズもかなり広く使われていますが、これは角膜、正確に言うと涙液の表面に乗せるプラスチックレンズの一種になります。眼鏡をかけたくない人にはとても好まれています。

ソフト、ハードのコンタクトレンズがありますが、最近では使い捨てコンタクトレンズもよく使われています。眼鏡のように曇ったりせず、視野も広いままですが、慣れるまで一定の時間がかかること、異物感を生じたり、角膜に傷をつけるようなリスクもあります。

特にコンタクトレンズは不同視といって、左右の視力に差がありすぎて眼鏡が装用できないような人に有用だと思います。

多田

それら以外の治療法はいかがでしょうか。

神谷

先ほど申し上げましたが、オルソケラトロジーはコンタクトレンズの一種で、特殊なコンタクトレンズになります。夜、寝る前に専用のオルソレンズをつけることで、寝ている間に強制的に角膜を平坦化させることで、一時的に近視を矯正するものになります。日中、裸眼で快適に過ごせるというメリットがあります。

一般的には学童期に使われることが多く、中止すると2週間程度で元の角膜形状に戻ってしまいます。強度近視などは現時点では矯正がなかなか難しいところがあると思います。

多田

いま先生が開発されているSMILE手術について、教えていただけますか。

神谷

SMILE手術は新しい世代の角膜レーザー手術で、2023年に厚生労働省の認可を受けています。

これはフェムトセカンドレーザーを用いて角膜をミシン目状にカットします。そこで円形の角膜シート、レンチクルといいますが、近視矯正部位をシート状に取り、これを2~3㎜の小さな切開創から引き抜く。削らずに引き抜く手術が注目されています。創口も小さいですし、ドライアイにもなりにくいといわれているので、海外、特にアジアでは普及が進んでいます。

多田

将来的に日本でも期待できるということですね。

神谷

はい。

多田

改めて学童、生活習慣病を患っている方、高齢者に対して助言をいただきたいと思います。

神谷

もともと近視は眼鏡やコンタクトレンズをつければよく見える状態なので、ほかの目の手術に比べ、手術に対するハードルは高く、安全性に関しては特に細心の注意が必要だと思います。眼鏡やコンタクトレンズで快適に過ごしているのであれば、あえて手術を受ける必要はないと思います。

例えば、眼鏡をかけると頭痛がする、鼻の付け根が痛くなる、コンタクトレンズをしているとドライアイがひどくなる、目の異物感が強くなるなど、眼鏡やコンタクトレンズに対し一定の不便さ、不満を感じている方のレスキュー手段というような位置づけではないかと思います。

先ほど申し上げたとおり、いずれの手術も安全性や有効性が高く、安心して受けていただける手術だと思いますが、もちろんリスクがゼロというわけではありません。ですから、近視矯正手術のメリットとデメリットをよく理解し、経験豊富で信頼できる医師と相談した上で、あくまで慎重な姿勢で検討することが、正しく普及に向けていく意味では重要だと思います。

多田

たいへん大切な話をいただいたと思います。ありがとうございました。