ドクターサロン

大西

近視について、特に合併症や予防を中心に話をうかがいます。

まず近視の病態、診断等について教えていただけますか。

大野

最近、お子さんの近視がとみに増えていますが、その病態は主には眼球の長さ(眼軸長)が正常以上に長く伸びてしまうことで遠くのものを見ると網膜の前でピントが合ってしまい、ぼやけて見えてしまう現象です。したがって、眼軸長が伸びてしまう現象と言い換えることができます。

大西

診断に関してはいかがでしょうか。

大野

学校の検査で裸眼視力が低下していることで気がつかれることが多いですが、その上で眼科専門医を受診していただく。目の屈折の度数、ジオプターという単位でゼロが正常ですが、それがマイナスになっているものが近視となります。

大西

程度も幾つか分かれているのですか。

大野

ジオプターでマイナス3までを弱度の近視、マイナス3~6が中等度の近視、マイナス6を超えるような近視を強度近視と分類しています。

大西

近視の治療ですが、どのような治療が行われているのでしょうか。

大野

以前は学童の近視も、ただ眼鏡を処方して様子をみることが標準でした。最近は近視のほとんどが小児期に進行してしまうことから、小児の時期に必要以上に眼軸長が伸びないよう、アジア諸国を中心に積極的に治療することが推奨されるようになっています。

一番多く用いられている治療としては、いずれも自費診療になりますが、低濃度アトロピンという点眼薬を夜にさすもの、夜間にコンタクトレンズをつけるオルソケラトロジー、多焦点のコンタクトレンズなどがあります。

大西

屋外での活動等も重要だとうかがいましたが、その辺りはいかがですか。

大野

屋外活動が減っていることが最近の近視の増加につながっているということで、台湾、シンガポール等を中心に、できれば1日2時間の屋外活動を行うことが近視の抑制に効果的であることが報告されています。屋外活動は無料自費診療に併用できるので、ぜひ積極的に時間をとるとよいと思います。

大西

サプリメントも使われるかと思いますが、その辺りに関してはいかがですか。

大野

幾つかのサプリメントが出ています。広く推奨されるほどのエビデンスはないですが、何か気になるものがありましたら、一緒にとられるのもよいかと思います。

大西

近視の合併症にはどのようなものがあるか教えていただけますか。

大野

近視が強くなると網膜や視神経に様々な合併症が起きます。そのほかにも白内障といったわりと頻度の高い病気も、近視になると、さらにその頻度が増えてきて、比較的若い年齢から白内障の手術が必要になる人が増えてきます。

網膜の合併症としては、網膜剝離、網膜が萎縮した網膜脈絡膜萎縮、黄斑出血、このようなものが増えてきます。

さらに、近視とともに緑内障も増えてきます。これは弱い近視でも、緑内障の頻度が3倍程度増えることが報告されていますし、ほかの合併症と違い、自覚症状として出たときにはもう手遅れであることが多いですから、緑内障にもぜひ注意していただきたいと思います。

大西

様々な合併症があるということですね。

大野

そうです。

大西

最近、若い方でも白内障をお見受けしますが、そういう方はもともと近視が強かったのでしょうか。

大野

近視が強い方では、50代ぐらいで白内障になる方もいらっしゃいます。やはり近視が強いと、目の中の水分の組成が変わってきて、白内障になる率が高くなっています。

大西

予防についてうかがいます。どのようなことがなされていますか。

大野

近視に伴う眼軸長の伸びがいろいろな合併症の原因になっていると思われます。一つは必要以上に眼軸長が伸びるのを抑制する低濃度アトロピン、オルソケラトロジー、多焦点コンタクトレンズ、光治療といったものが考えられます。

白内障、網膜剝離といった合併症に対しては、症状が出たときに対応することになります。予防がなかなか難しいですが、緑内障に関しては、自覚症状が出づらい以上、早期診断、早期治療がとても重要になります。

一般の方でも40歳以上の20人に1人ぐらいが緑内障になるといわれています。近視があると頻度がそれよりも高くなるので、比較的若い段階からスクリーニングとしての検査を受けることが推奨されます。

大西

お子さんで近視がかなり増えてきているということですが、何か原因はあるのでしょうか。

大野

近視の発症には遺伝的な要因と環境要因が関与しますが、遺伝要因はそれほど短期間では変化してきません。やはり環境要因が主体であると考えられています。

屋外活動の減少と、近くでものを見る作業(近業)が非常に増えています。特にスマホが非常に重要な近業であると考えられています。

大西

学校での健診の重要性が増してきているのでしょうか。

大野

そうです。お子さんは日中の大半を学校で過ごします。また、学校での視力検査や眼科的な検査が近視の発見の糸口になるので、親御さんも重要ですが、学校との連携も重要になります。

大西

大人の場合、企業で健診が行われると思いますが、眼科検診は比較的少ないように思います。その辺りの課題はありますか。

大野

特に緑内障は眼底検査、眼底写真等で発見されることも多いので、眼底検査を組み込んでいただくこと。あとは眼科検査があると、眼圧、眼底写真、最近はOCTといって網膜の断層写真を検診に入れているところもあります。こういった非侵襲でできるような眼科検査は、ぜひ組み込んでいただきたいと思います。

大西

高齢の方で近視の合併症が今後かなり増えてくると考えてよいでしょうか。

大野

そう思います。近視全体の人口が増えてきています。その方が年齢とともにどんどん強度の近視になり、最近は成人になっても近視が止まらず進み続けてしまう成人進行近視も問題になっています。人生の後半に網膜の萎縮、黄斑出血といった合併症を引き起こすリスクも高くなっています。そういった合併症はほとんど後半のほうに起きてくるので、40歳を過ぎたら、ぜひ、特に近視の強い方を中心に、定期的なチェックを受けていただきたいと思います。

大西

お子さんはどのような生活をしていくと、近視の予防になるのでしょうか。スマホも随分使われていると思います。

大野

屋外活動はお子さんがメインかもしれませんが、スマホは大人も随分使っています。それが成人の近視の進行にも関与していると思われます。

連続しての近業が非常に強い刺激になります。できれば、30㎝ぐらい離していただく。あるいはスマホよりもタブレット、パソコンといった画面の大きいデバイスに替えていただく。連続した近業時間を30分以内に抑えていただき、30分で休憩を取り、遠くを見ていただく。連続して長時間近業を行わない対策が重要になると思います。

大西

パソコンも仕事では必須で、皆さん、使っていらっしゃると思います。

大野

そうですね。使わないわけにはいかないと思うので、可能であれば大きいモニターにしていただき、距離を取っていただくということでも、随分違ってくると思います。

大西

パソコンではブルーライトの問題もあるのでしょうか。

大野

ブルーライトに関してはアメリカ眼科学会から、あまり害はないという声明が出ています。それに対しては、あまり心配されなくても大丈夫だと思います。

大西

ありがとうございました。