池田
非アレルギー性鼻炎とはいったいどのような疾患でしょうか。
菊田
非アレルギー性鼻炎は、幾つかのタイプに分かれます。例えば、風邪をひいたときに鼻水が出る場合も非アレルギー性鼻炎の一つになります。それから、市販の点鼻薬を使いすぎても鼻炎が起きる場合がありますが、これも広い意味で非アレルギー性鼻炎に含まれています。
質問にありますが、寒暖差、たばこのにおいなどの刺激が発症の誘因になっているので、その中でも血管運動性鼻炎を第一に疑っています。
池田
血管運動性鼻炎も私は聞き慣れないですが、これはどういった疾患でしょうか。
菊田
血管運動性鼻炎は鼻粘膜の血管が腫れることで、くしゃみ、鼻水、水様性の鼻汁、鼻づまりといった症状が現れる慢性鼻炎の一つです。
池田
病態はわかっているのでしょうか。
菊田
血管運動性鼻炎は鼻粘膜の血管の腫れにより引き起こされますが、血管の腫れは自律神経活動が大きくかかわっています。自律神経は交感神経と副交感神経があり、日中活動しているときや緊張しているときは交感神経が優位になり、逆にリラックスしているとき、安静時は副交感神経が優位になります。
副交感神経と交感神経の切り替えがうまくできれば問題ありませんが、どちらかの状態に傾いてしまう場合、こういったアレルギー性鼻炎に似たような症状が強く起こります。
血管運動性鼻炎は周囲の環境変化に対し、鼻粘膜に分布する自律神経が過敏に反応して、交感神経と副交感神経の切り替えが上手にできていない状態ということになると思います。
池田
そういった神経系の反応の異常ということですね。それで、よく刺激になるものが寒暖差、たばこのにおい。質問にも書いてありますが、ほかに何かあげられる刺激はありますか。
菊田
血管運動性鼻炎の原因は複数あり、特に外気温の変化が引き金となり発症することが多いです。この鼻炎は寒暖差アレルギーと呼ばれることもあります。
外気温の変化以外にも、例えば洗剤やヘアスプレーのにおいで誘発されたり、たばこの煙、車の排気ガスで誘発されることもあります。
また、こういった環境要因以外にも精神的なストレス、アルコール、妊娠がきっかけとなり、自律神経の働きが制御できなくなり、鼻症状が引き起こされることもあります。
血管運動性鼻炎は季節の変わり目の春や秋、新年度の疲れが出始めるような、5月や6月、梅雨の時期、寒くなる季節に強く起こる方が多いのが特徴です。
池田
背景も誘因も複雑でいろいろあるということで、この状態の方たちの治療の第一歩の原則はどのようにされるのでしょうか。
菊田
誘因として、例えばアレルギー性鼻炎の場合はハウスダストや花粉といったアレルゲンがありますが、血管運動性鼻炎にはアレルゲンがありません。出現した症状を抑えるための対症療法が主な治療法になります。
鼻症状の誘因となるものがはっきりしていれば、その誘因を除去することが大切になります。例えば特定のにおいやたばこの煙がある場合には、そういった誘因を避けることが発症予防になるかと思います。
また、生活習慣の改善も重要になるかと思います。症状が悪化したときは自律神経の不均衡をきたしていることが多いので、そうした原因がないかを考えるようにします。
例えば多忙であるとか、睡眠不足の場合は休養を取るように心掛けます。それから、入浴や睡眠も十分取るようにします。また、栄養バランスも重要です。体調を整えること、生活習慣を改善することで、こういった鼻症状の軽減も期待できると思います。
池田
生活習慣を改めるということですが、それでも駄目な場合は、どのように治療をされるのでしょうか。
菊田
生活習慣の改善は重要ですが、それ以外の薬物治療法として点鼻ステロイド薬が有効かと思います。ステロイドは鼻内の炎症の軽減が期待できます。
点鼻ステロイドは局所に効果を発揮する薬で、全身に効果、影響を及ぼすことはなく長期間使用できる安全な薬なので、最初に出す第一選択として点鼻ステロイド薬になると思います。
また、内服になりますが、交感神経を刺激する薬剤も有効になるかと思います。要は、副交感神経と交感神経のバランスですが、交感神経を刺激することにより、鼻粘膜の血管の収縮が起こるので、これにより鼻症状の軽減が期待できます。
ただ、内服で交感神経を刺激すると心血管系にも影響を及ぼし、脈が速くなったり、神経過敏を引き起こす場合があるので、内服に関しては医師に相談するほうがいいとは思います。
池田
そのほかは何かありますか。
菊田
あとは抗ヒスタミン剤があります。抗ヒスタミン剤は、もともとアレルギー性鼻炎に対し有効な薬ですが、抗ヒスタミン剤は抗コリン作用という副交感神経を抑制する作用も持っています。
本来意図するものではありませんが、副交感神経を抑制するために抗コリン作用を期待して、点鼻薬性鼻炎に対し抗ヒスタミン剤を投与することもあります。
池田
その際は第一世代とか古いタイプですね。
菊田
第一世代と第二世代がありますが、第一世代の抗ヒスタミン剤のほうが抗コリン作用は強いので、第一世代、古いタイプの抗ヒスタミン剤のほうが有効かと思います。
池田
しかし、中にはそういった薬物治療に十分に反応しない患者さんもいらっしゃると思いますが、その際は次にどのようなことが行われるのでしょうか。
菊田
薬物療法が無効、あるいは生活習慣の改善によっても十分な効果が得られない方には、外科的な治療を選択する場合があります。
例えば、代表的なものはCO2レーザーといって、鼻粘膜を焼灼するような手術です。比較的手軽にできる手術で、開業のクリニックから大学病院レベルまで広く行われています。これにより鼻汁の分泌も抑えられますし、鼻閉の改善も期待できます。
池田
CO2レーザーは1回でどのくらいの有効期間があるのでしょうか。
菊田
個人差がありますが、だいたい1年以上は有効かと思います。
池田
では、繰り返し実施可能なのでしょうか。
菊田
そうですね。中には毎年CO2レーザーを受けに来る方もいます。
池田
それはいいですね。イリバーシブルな変化がなく元に戻るのは患者さんにとっても非常に安心かと思います。
CO2レーザーでもあまり反応しない場合はどのように手術をされるのでしょうか。
菊田
鼻炎の病変の首座は下鼻甲介という鼻の前方にある組織がかかわっていて、下鼻甲介の容積を減らすような手術を行っています。
具体的に言うと、下鼻甲介の容積を減らすために下鼻甲介を構成する骨の部分を切除したり、下鼻甲介を構成する粘膜下の組織の部分を少し減量したりすることにより、容積が減るので鼻づまりが改善しますし、鼻汁改善効果も期待できます。
池田
だいたいの方は、そこまでの手術でコントロールがうまくできるのでしょうか。
菊田
これが基本的な主な手術療法になりますが、こういった治療でも改善、十分な効果が得られない場合には、鼻汁の分泌にかかわる鼻腔の後方から出てきている、後鼻神経という神経を選択的に切断する手術もあります。
後鼻神経は鼻汁分泌にかかわるので、この手術を行うと鼻汁の改善、あるいは鼻閉の改善効果が期待できます。
池田
鼻汁を出さなくしてしまうということですから、これはファイナルな手段だということですね。
菊田
そうですね。
池田
神経切断をする手術はすごく慎重にならざるを得ないような判断だと思いますが、特に重大な副作用はあるのでしょうか。
菊田
私は重大な副作用は経験していませんが、鼻汁分泌にかかわる神経なので、この神経を切ることにより、逆に鼻内の乾燥感が出てくる場合があります。今までは鼻汁分泌で、鼻水で困っていたのが、逆に乾燥してつらくなるリスクはあるので、この辺は手術前に説明して了承を得てから手術を行うようにしています。
ただ、頻度はそんなに多いものではないので、この点については過度に心配する必要はないと考えています。
池田
万が一、乾燥感が強い方がいらしたら、その際はどのように対処されるのですか。
菊田
例えば、生理食塩水を少し点鼻して鼻の中を湿潤環境にしていただくといったことを行っていきます。
池田
イメージとしてはドライアイに対する点眼と似たような感じですね。
菊田
似ていると思います。
池田
いろいろ話を聞きましたが、だいたいここまですればコントロールは可能ということでしょうか。
菊田
薬物治療を中心に生活習慣の改善と手術治療を組み合わせれば、多くの症例で鼻症状のコントロールは可能かと思います。
池田
どうもありがとうございました。