ドクターサロン

山内

高齢者の手指変形関節症の診断・治療等についての質問ですが、時間の関係でリウマチは除き、原則、リウマチ反応がない手指の変形が見られる方をどうするかということにいたします。まず、ヘバーデン結節がありますが、これも手指変形関節症に属すると考えてよいですか。

三浦

手指の変形性関節症は、DIP関節に起こるものがヘバーデン結節と呼ばれていて、PIP関節に起こるものをブシャール結節といいます。あと、多いものとしては親指の根元、母指CM 関節に起こるCM関節症が、代表的な手指の変形性関節症になります。

山内

いま言ったものは人の名前が付いていますが、現代的に見ればすべて一つの疾患概念でくくってかまわないですか。

三浦

名前が付いたのは、ニックネームとしてわかりやすい意味もありますが、もともとレントゲンが発見される以前からこの病態はわかっていて、ヘバーデンやブシャールという人の名前が付いたという歴史的な経緯があります。

レントゲン上は膝に起こる変形性関節症と同じで、軟骨が摩耗し、それに対し軟骨下骨や関節の辺縁のところに反応性の骨硬化、骨棘が生じてくる病態になります。

山内

症状の出現は、いきなり変形するわけではなく、じわじわとおかしくなってきますね。痛みのほうはいかがですか。

三浦

痛みは個人差があるので、変形に伴い痛みが強くなるかといわれると、必ずしもそうではないです。ですから、痛みが出た方はもう変形がかなり進んでいて、おそらくもっと前からあっただろうという方もいますし、逆のパターンもあると思います。

山内

必ずしも変形がひどいから痛いともいえないのですか。

三浦

そうです。

山内

リウマチとの鑑別も出てくると思いますが、どういった違いがありますか。

三浦

まず、発症する部位です。変形性関節症の代表的なへバーデン結節はDIP関節に起こりますが、ここはリウマチでは炎症があまり起こりません。レントゲン所見としては、変形性関節症は軟骨の摩耗に加え、反応性の骨増殖が起こりますが、リウマチでは起こらないところが2つ目の違いになると思います。

山内

手指というと、ばね指がよく出てきますが、ばね指は腱鞘炎ということで、基本的にはまた別のものと考えてよいですか。

三浦

別の疾患ですが、中高年になってくると2つが併存した症状がある方もいます。

山内

ばね指が両方の手に、広くある方もいますか。

三浦

ばね指にしても変形性関節症にしても、特に利き手にしか起こらないとかそういうことはないので、いろいろな指に起こってきます。

糖尿病のある方などは腱鞘炎などが非常に起こりやすいので、複数の指に症状が出てくることが多いです。

山内

筋力、握力の低下といったものはいかがですか。

三浦

痛みがある方は痛みのために握力が入らなくなってきます。変形があっても痛みが比較的落ち着いている方は、関節が安定していれば力は意外と入ります。

山内

全般的に徐々に進行すると考えてよいですか。

三浦

レントゲン上の変化は徐々に進行していき、軟骨がまったく消失して骨棘も大きくなってきますが、痛みがどうかというと、レントゲンとは必ずしも比例しません。

半数強の方はその痛みが数年の期間あり、そのままある一定の時期を超えると痛みがなくなってしまうようなことを多く経験します。

山内

逆に、急性に変化が進むケースはありますか。

三浦

変形性関節症の痛みの原因は、いろいろありますが、物理的に骨と骨がぶつかって痛いことがあります。なかにはリウマチと同じような感じで炎症が起こり、急性に痛みが出てくることもあります。

山内

その場合は、かなり進行が早いのですか。

三浦

はい。所見として、関節の炎症が強い場合には滑膜炎が起こっていて、非常に柔らかい関節の腫れがみられます。触診上、骨の肥厚だけの固い結節と違い、柔らかい腫脹が急に起こっている場合には、炎症が強いと考えられます。

山内

そうした場合、圧痛がかなり目立つと考えてよいですか。

三浦

炎症に伴い、圧痛が強いと思います。

山内

逆に、押すとマッサージ効果ではないですが、痛みが和らぐこともあります。この場合はマッサージしてもかまわないですか。

三浦

マッサージ自体が悪いことはないと思います。マッサージすることで血流がある程度改善し、痛みを緩和する効果は十分期待はできると思いますが、炎症が強い場合にあまり強くマッサージすると炎症をさらに強くしてしまいます。そういう場合には、あまり触らないほうがよいかと思います。

山内

性差はありますか。

三浦

女性のほうが若干多いかと思いますし、痛みが強い場合は女性のほうが多いように感じますが、男女とも年齢とともに有病率は上がってくるので、男女どちらとも多い疾患です。

山内

生活歴として現在ないし過去、手指を非常によく使う方に多いということはありますか。

三浦

変形性関節症の発症は多因子で起こってくるので、職業的に手を酷使することも一つの要因になってくると思います。一方で、手を全然酷使していないのに変形が強い方もいて、一般的には遺伝的な背景・体質が半分近く含まれているのではないかと考えられています。

山内

確かに、利き手だけがひどいことはあまりないようですね。これは進行性で、予後はあまりよくないと見ていいでしょうか。

三浦

変形性関節症の場合、selflimiting diseaseといわれることも多いですが、数年の経過で痛みが落ち着いてしまうことはよく経験します。ですから、そのまま経過を見ることが多いですが、2割ぐらいは10年たっても痛みが続く方もいますし、変形が徐々に進行していく方もいます。

山内

痛みが強い場合、治療はいかがですか。

三浦

痛みの程度にもよりますが、NSAIDsの外用薬を使うのが最初の段階で、痛みが強い場合には内服に切り替えます。さらに、炎症が強い場合にはステロイドの関節内注射を行うこともあります。

山内

これはかなり有効ですか。

三浦

ステロイドの関節内注射は、腫脹が強い場合や疼痛が強い場合には非常に有効ですが、あまり頻回にはできないので、年に2回ぐらい、半年ぐらいの間隔は空けて投与することになります。

山内

1回投与すると、かなり長期間効く感じですか。

三浦

3カ月ぐらいは効いている印象があります。

山内

手術になるケースはほぼないですか。

三浦

完治させる手術がないので、手術の比率は非常に低いです。DIP関節の場合、手術は一般的には関節固定術といって、まったく動かない関節にしてしまいます。痛みがなくなり変形が改善する代わりに、動かなくなります。

PIP関節の場合は関節を固定してしまうと不便になるので、ここには最近だと、人工関節を使います。ただ、膝や股関節で現在使われている人工関節に比べると、まだまだ長期的な耐久性がわかっていないので、これも症例を限って行っています。

手術を行う中では母指のCM関節が一番多いと思いますが、こちらも人工関節は日本で使えるものがまだあまりないので、関節形成術や関節固定術を行うことになります。

山内

最後に予防ないし悪化の防止ですが、生活上、注意することはありますか。

三浦

関節の安定性が予後に影響してくるので、DIP関節なら横を向いてしまうとか、CM関節なら亜脱臼するような非常に緩い関節の方は、装具をつけたりテーピングをしたり、関節を保護することが進行の予防になってくると思います。

山内

あまり手作業をしないほうがいいということはありますか。

三浦

手を使うなといっても使わないわけにいかないので、使いながらどうやって悪化させないかを考えることになるかと思います。

山内

ありがとうございました。