ドクターサロン

池脇

感冒(風邪)の質問をいただきましたが、質問の冒頭は、総合感冒薬としてなじみ深い薬のPLが、今はあまり推奨されていないと聞いていますということです。そもそもPLとは、どういう薬でしょうか。

櫻井

PLはなじみのある薬で、ご存じの医師が多いかと思います。この薬にはサリチルアミド、アセトアミノフェン、抗ヒスタミン薬のプロメタジン、カフェインが配合されています。主な成分はこの4つですが、これらの成分にそれぞれ、いろいろなデメリットがあります。有名なのは眠気を催すことで、例えば体調の悪い方が車を運転され、事故を起こすような危ないことが起き得ます。

それから、サリチル酸の関係で、アスピリン喘息のある方には使えない、アセトアミノフェン配合で、肝臓が悪い方には使えない、抗コリン作用があるので、緑内障、眼圧の高い方は避けるべき、お小水が出づらい方、前立腺肥大を含むような方には使えないという事情が入ってきます。実は予想以上に副作用の報告があり、処方が推奨されないことが多いと思います。

池脇

副作用がまったくない薬はないにしても、第一世代の抗ヒスタミン薬の眠気を打ち消そうとして、カフェインを入れています。副作用が発現することを想定した総合感冒薬という意味では、本当に重い症例で眠気でうとうとして事故を起こしてしまうとなると、風邪が大問題になってしまいますね。

櫻井

本当にただの風邪で済みません。そういったところもよく説明いただいたうえで、患者さんが承諾すれば処方するというところかと思います。

池脇

患者さんが今までの経験で「先生、私は風邪のときにPLを飲むとすごく効きます。眠気もそんなにありません」と言えば、もちろんそれは「どうぞ」でいいのでしょう。しかし、初めて診る患者さんに対しては、抗コリン作用や副作用が大丈夫かどうかを念頭に置いて処方することになるのでしょうか。

櫻井

注意が必要だということです。

池脇

12歳未満の子どもには米国でも日本でも使えなくなりました。特に若年者で使ってはいけないのは、どういう理由でしょうか。

櫻井

薬剤の副作用の関係で、ライ症候群をみることはなかなかないかもしれませんが、報告が挙がっています。それで使わないほうがよいという結論になったかと思います。

最近のお子さんは、12歳前後といっても非常に大きい方もいらっしゃるので、線引きはなかなか難しいところですが、ここはルールとして線が引かれたと理解してよいと思います。

池脇

そうなると、感冒の様々な症状に対し、適正な薬を出していくのは、そのとおりだなという感じがします。

質問の中盤あたりは、感冒時の鼻炎、鼻汁、鼻づまり、咽頭炎、咽頭痛。もう一つ大事なものが、その後に出てくる上気道症状の咳、痰に対し推奨する薬は何でしょうかということです。

この質問の流れで、鼻炎に対しては抗ヒスタミン薬でしょうが、どうでしょうか。

櫻井

抗ヒスタミン薬は、先ほど眠気の話もありましたので、やや抵抗がありますが、鼻炎症状に対しては有効であることは、感染症の一番大きな教科書『Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases』にも記載され、そこには第一世代に限ってという話が出ています。

抗ヒスタミン薬が推奨と言えるかどうかですが、使い方に注意しながらですが効果はありそうだということになります。注意点は先ほどのPLと同じになります。

池脇

感染症の鼻炎に対して抗ヒスタミン薬を出すとなると、処方する薬は、アレルギー性鼻炎の薬と重なるという考えでよいでしょうか。

櫻井

よく使われる薬でフェキソフェナジンがありますが、こちらは鼻粘膜の充血を取る作用があるともいわれているので、抗ヒスタミン剤の位置づけというよりも、充血除去の目的で使われます。そうすると、患者さんが意外に楽になるという報告もけっこうあるので、こういう使い方はありかと思います。

池脇

一般的には抗ヒスタミン薬ですが、どのような鼻炎の症状かにより血管収縮薬も効果があるようです。そういったものも入れるのは、どういう症状でしょうか。

櫻井

粘膜がむくんでいて鼻づまりがつらい、鼻が詰まってしまうと苦しくて夜、寝られなくなります。風邪のときには睡眠を多くとるように私も指導しますが、横になると苦しくて寝られないと言われます。

どうしたのですかとお尋ねすると、鼻が詰まってくると言われます。そういうことであれば、思い切って夜、眠くなってもいい時間に、こういった薬を使い、粘膜の浮腫を取りながらお休みいただくと回復が早まるのではないかと説明できます。

池脇

次に感冒の咽頭炎、咽頭痛は、必ず出てくるといってもいい症状で、確かにトラネキサム酸がよく使われていますが、どうでしょうか。

櫻井

トラネキサム酸は抗線溶作用を持っている薬なので、外傷のときの出血のコントロールに使われるような薬です。最近になり、この観点のデータが多く出ています。抗線溶作用が抗炎症作用につながり、喉の炎症が引くというのが理屈になっています。

臨床的な効果の証明はデータがほとんどなく、一番それらしいデータは1969年までにさかのぼります。これは日本から出ている二重盲検試験です。これを調べた医師が当時の医局員を動員し、二重盲検をしたというデータです。自覚的には改善があるということでしたが、いかんせんデータが古いですから、エビデンスという意味では難しいところがあります。

血栓形成や脳梗塞等の副作用の可能性もあり安易には用いにくいので、こちらも喉の症状がどのくらいつらいか。痛みが引くのであれば、例えばアセトアミノフェンで対応できるのかといった観点から比べて、メリットがあればお出しするというところかと思います。

池脇

私などは「トラネキサム酸、はい、どうぞ」というような感じでしたが、考えて必要があれば、ということですね。

櫻井

情報提供は必要かと思います。

池脇

質問には書いてありませんが、咳、痰は大事なことの一つではないかと思います。これが長引いてしまうと本当に厄介なので、いかに急性期にこれを治療するかですが、先生はどうされていますか。

櫻井

たいへん難しい問題です。風邪のときの咳は、肺や気管支からくるケースよりも、上気道の炎症や鼻汁の垂れ込みから発生するケースが多いです。ですから、鼻汁が治まってこないと咳がうまく治まらなかったり、無理やり咳を抑えこもうとすると、かえって流れ込みがうまく出せなくて苦しくなったりします。

これも夜、咳で眠れないという方に関しては、咳止めを使って少しでも抑えていくのが基本的なスタンスになるかと思います。私は呼吸器内科医としての仕事もあるので、デキストロメトルファンや、症状の強い方はコデインなどを用意することもあります。無理やり咳を抑え込んだ結果、特にコデインなどだと便秘につながったり、眠気がひどくなるケースもあるので、患者さんと相談しながらになるかと思います。

特に喉の炎症が引いた後、空咳が続くようになるので、こういった方には咳止めをお出しすると、喜ばれるケースもあると思います。私も臨床医なので、困っている患者さんがいらっしゃると、いろいろ理屈をつけ、あれは効かない、これは効かないというのも、それはそれで一つです。しかし、「こういうデータもあり、効きにくいかもしれないけれども、せめてこれだけでも飲んでくれれば、いくらかでも良くなります」と言って、副作用の説明をしたうえで薬をお渡しするのは、患者さんに対する優しさで、それだけでも患者さんが救われることはあるだろうと思います。

池脇

個人的に、咳止めを出すときには、ほぼほぼ一緒にカルボシステインを出します。それが粘膜の修復作用、去痰作用として、いいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

櫻井

これは意味がありそうです。粘膜の調整薬、修復薬ということで、小児のデータにはなりますが、あったほうがいいという報告もあります。どのくらい効くかは、個人差もかなりあると思いますが、副作用の報告もあまりない。まれにありますが、そこはほかの薬剤と一緒なので、一緒に飲んでいただく選択肢はあってもいいかと思います。

池脇

最後に漢方ですが、正直、私はときどき葛根湯を出すかなというぐらいで、どういうときにこの漢方かというのは、頭の中でまったく整理されていません。漢方に関してお願いします。

櫻井

東洋医学を専門にされている医師は、漢方薬をお出しするときに証を大事にされると思います。私もそれほど詳しくはないですが、風邪のひき始めのときに使うのがいいのかと思います。それで効果を実感されている医師、患者さんは意外と多いのではないかと思います。

初期に葛根湯を少し多めに使っていただいたり、発熱した場合には麻黄湯をお使いいただくと、特にインフルエンザのときなどは解熱効果が発揮されるというデータがあります。

また、新型コロナでも葛根湯と小柴胡湯(桔梗湯)を混ぜたものを使うと、症状が1日早く良くなるという報告もあるようなので、うまく使っていただければと思います。

池脇

漢方のいろいろなデータを見ると、炎症を抑える、サイトカインや免疫機能を増強するといった、しっかりしたデータもあるので、タイミングよく、その人に合った漢方を使えば効くという理解でよいでしょうか。

櫻井

そのように理解してよいかと思います。

池脇

ありがとうございました。