藤城
堀先生、ドライアイは一般的に目が乾きやすいとされている病態に思いますが、その理解でよいでしょうか。
堀
ドライアイの定義は、目の表面の涙液が不安定になっている状態です。ですから、涙が少ないとか、目の表面から涙がすぐ乾燥してしまうような状況です。一般的には、目が乾燥しやすい状態で正しいかと思います。
藤城
疫学的に患者さんは増えていますか。
堀
最近ではコンピューターやスマートフォンをよく見たり、空調が整備されているので少し乾燥状態になっています。ですから、ドライアイの患者さんは世界的に増えています。
藤城
コンピューターを使う世代というと、若い年齢層が多いのでしょうか。
堀
以前は涙腺が低下するお年寄りの病気という概念でしたが、最近では、若い人がコンピューターやコンタクトレンズを使うことが多いです。コンタクトレンズをはめていると、どうしてもドライアイになりやすいので、そういった意味で、若い方のドライアイの患者さんの数は非常に増えています。
藤城
男性も女性も増えているのでしょうか。
堀
両方増えていますが、一般的にドライアイは女性に多いといわれています。あとは膠原病と涙腺の機能の低下症は関係しています。
藤城
もともと女性のほうが涙液の分泌が少ないとか、そういうことがあるのでしょうか。
堀
そこまで性差はありませんが、ホルモンの性周期により、涙液の分泌がコントロールされていることは確かなので、そういうことと性差は関連していると思います。
藤城
どうやって診断するのでしょうか。
堀
現在のドライアイの診断基準は、涙液層の不安定を見るために、涙液のBreak Up Time(BUT)を測ります。フルオレセイン染色という目薬をして、目を閉じてパッと目を開けてから、何秒間、涙液が目の表面を覆っているかを測りますが、それが5秒以下の場合はドライアイと診断されます。
藤城
いろいろな型があるのでしょうか。
堀
ドライアイは最近では涙液減少型、水濡れ性低下型、蒸発亢進型という3つのサブタイプがあるとされています。
涙液減少型は涙腺からの分泌量が減る状態です。水濡れ性低下型は、目の表面、角膜のムチンの発現が減ることで角膜の上に水が乗りにくいというか、水をはじくような状態になってしまいます。
もう一つ、蒸発亢進型は涙の中の油が減った状態です。油が表面に乗っていることで蒸発が抑えられていますが、油が減ることで蒸発が亢進してドライアイになる。この3つのパターンがあります。
眼科では、この3つのサブタイプに分け、それぞれに合った治療法を選択しています。
藤城
どれぐらいの割合でしょうか。
堀
蒸発亢進型と水濡れ性低下型の2つが多いです。涙液減少型は加齢によるものや全身疾患で涙腺が膠原病など、自己免疫でやられている人が多いので、数としてはそんなに多くはありません。
藤城
すると、サブタイプ別の治療法はどういう治療を選択していけばよいのでしょうか。
堀
基本的には目薬の治療になります。いま日本で処方されているもので、ファーストラインになるものがジクアホソルナトリウムです。これはP2Y2 receptorの作動薬で、角膜や結膜にあるP2Y2 receptorに作動することで目の表面の水の量を増やします。外から補充するだけではなく、浸透圧の関係で細胞の中の水が外に出るので、涙腺が衰えている方でも涙の量が増えることになります。
それと、ジクアホソルナトリウムはムチンの量を増やしてくれるので、水濡れ性低下型の患者さんにも非常に有効です。
藤城
P2Y12 receptorのantagonistとして抗血小板薬があるかと思いますが、そういうものを内服している人は起きやすいのでしょうか。それとはまた違うのでしょうか。
堀
それは局所のものなので、体に何かということはなく、我々の経験でも、そういった薬を使っている人に何か影響があるということはありません。
藤城
これは点眼薬として用いるのですね。
堀
はい。点眼薬です。
藤城
内服薬は特にないのですか。
堀
ムスカリン受容体に関する薬でピロカルピンといいますが、これはシェーグレン症候群の唾液腺を出す分泌をする薬です。シェーグレン症候群に対しては処方されますが、一般のドライアイには、基本的に内服薬として処方されません。
藤城
手術を必要とするような方もいるのでしょうか。
堀
涙の排水口、目頭のところに涙点という小さな穴があり、そこから涙が排水されますが、そこをふさぐ涙点プラグというものがあります。これは数分で終わるような処置ですが、局所麻酔の点眼をすることで目の表面の涙液量をすごく増やすことができます。
点眼がうまくできない方や、点眼をしても効果が不十分な方などは、このような涙点プラグという外科的な処置を行うこともあります。
藤城
よくわかりました。ここ5~10年、診断や治療の進歩はあるのですか。
堀
以前は検査用のフルオレセインの目薬でBUTを測っていましたが、最近では非侵襲的に涙液の状態を測る検査の機械が進歩しています。
ですから診断も早いですし、まだ承認はされていませんが、アプリでドライアイの診断ができるような研究もされています。
藤城
ドライアイを気にされ、薬局で市販の目薬を買われる方も多いのではないかと思いますが、その際の選び方のこつなどはあるのでしょうか。
堀
基本的には、まず人工涙液で水を補充するかたちでいいと思います。だいたい2週間から1カ月使ってみて、それでも症状が取れないようでしたら眼科を受診していただき、先ほどの処方薬を出していただくことがいいかと思います。
藤城
眼科といっても一般のクリニックから大学病院のような大病院もあると思いますが、どの辺りにかかるのがお勧めでしょうか。
堀
アクセスのしやすいクリニックの先生方で、しっかりと診断してくださいます。あとは、ドライアイだと思ってもほかの病気、アレルギーやもしかすると緑内障などの病気が隠れていることもあります。お近くのクリニックでけっこうなので、眼科を一度受診されることをお勧めします。
藤城
ドライアイで治療を行っている際の日常生活の注意点などはありますか。
堀
人間はまばたきをきちんとすることで、目の表面の涙を塗りつけています。ですから、長時間コンピューターを見続けたり、スマートフォンを暗いところで見続けたりということは避けたほうがいいと思います。
1時間そういうものを見たら5分ぐらい休むなどすることが大事です。あとは、まばたきをしっかりすることが大事かと思います。
藤城
若い方に増えているということですが人生が長いわけで、高齢になっていく、長期的な経過はどのように考えたらよいでしょうか。
堀
以前は例えばコンタクトレンズは若い方だけでしたが、最近では50歳、60歳の方もコンタクトレンズを装用されている方が多いです。コンタクトレンズはドライアイになりやすいので、最近はコンタクトレンズの上からでもできる目薬もあります。目のケアをしっかりしておくことが大事で、人生100年時代なので、長く目を健康に使っていただきたいと思います。
藤城
ドライアイは、何か大きな病気につながることはありますか。
堀
ドライアイがひどくなると目の表面に傷がつきやすく、角膜に障害が起こります。それにより感染症、こういう炎症などが起こりやすいというのがあります。重症になるおそれもあるので、たかがドライアイと思わないほうがいいかと思います。
藤城
早めの手当てというか、すごく気になることがあれば医療機関にかかっていただくことが重要なのですね。
堀
そうだと思います。
藤城
ドライアイについてたいへんわかりやすくお話しいただき、ありがとうございました。