ドクターサロン

多田

角膜移植・再生医療についてお話をいただきます。

まず、角膜移植の意義と角膜移植が必要となる角膜の病変について教えてください。

外園

まず角膜がどこにあるかというと、いわゆる黒目といわれている部分です。透明なので目の中の色を反映して黒く見えます。カメラと一緒で、その表面にあるレンズ、透明な膜が濁ると見えにくくなります。そこを入れ替えて透明な角膜と替えるのが角膜移植です。

角膜は5層構造をとっていて、上皮、そして膜があり、90%以上がその次の実質というコラーゲンでできた層で占められています。そして、また膜があり、内皮という細胞からなる一層の膜があります。

角膜移植は日本では約100年前に始まっていて、60年ぐらい前からアイバンクが角膜をあっせんしていますが、最初は全層移植と呼ばれる5層全部を入れ替える手術が始まりました。角膜は、1㎝ぐらいの直径があり、中央の直径7㎜ぐらいを入れ替えるだけで、濁っていた角膜が透明になって見えるというのが全層移植です。

現在では上皮だけを入れ替える上皮移植や、内皮を入れ替える内皮移植など部分移植も普及しています。

多田

全層移植が基本ですか。

外園

角膜移植のうち全層移植が半分ぐらいですが、裏の内皮が悪いことで角膜の水分代謝がうまくいかなくて腫れる水疱性角膜症という病気が増えています。内皮移植が3~4割、全層移植が5割、上皮移植が5%ぐらいです。

多田

適応となる疾患では、先天性の病態や角膜ヘルペス、感染症、あとは外園先生のご専門のスティーブンス・ジョンソン症候群もあると思いますが、どういう病気ですか。

外園

角膜はいろいろな病気で濁ります。感染症、ヘルペスや若い人ではコンタクトレンズの使い方が悪くて菌がつき、真っ白になったりすることがあります。あるいは変形する病気として、円錐角膜という角膜がとがってくる病気などいろいろな病気が角膜を替えることで治ります。

多田

実際にそこで移植をするわけですが、どのような手術が行われていて、どういう手法を取るのでしょうか。

外園

全層角膜移植はシンプルで、麻酔がかかった状態でトレパンという角膜の真ん中を直径7~7.5㎜できれいに切り取る専用のメスで角膜を外し、ドナーからほぼ同じサイズで移植する1時間ぐらいの手術です。

上皮移植は上皮のステムセルというものが角膜の周辺部にあるので、そこをドナーからいただき、濁っている上皮を取って入れ替えます。内皮移植は傷んだ角膜内皮、裏面にタイルのように存在する内皮細胞が減ってしまっているのが、角膜内皮が悪い人の状態です。それをはぎ、ドナーからつくった50~100μほどの内皮を含んだ薄い層を入れるのが内皮移植です。

多田

これは100年前から始まったということで、その中で困難事例もたくさんあったと思いますが、特に外園先生や大阪大学が行われている再生医療の実用化が、ここのところ非常に進んできています。これとの関連性も教えていただければと思います。

外園

角膜移植が普及する中で、普通の角膜移植では最も表面の上皮の病気が治らないことがわかってきました。角膜上皮ステムセル疲弊症というようにカテゴリーが分けられていますが、白目と黒目の境目には角膜上皮の元になるステムセルがあります。それはやけどなど、薬品が目に入ったりすると損傷されます。病気でいうと重症薬疹は、目の粘膜もただれてびらんになり、ステムセルがなくなります。

そういう角膜上皮ステムセル疲弊症では、ドナーからステムセルを移植して治ることもありますが、スティーブンス・ジョンソン症候群と粘膜天疱瘡と熱傷、化学外傷の場合はうまくいかないので、それを何とかするために再生医療が開発されてきました。

多田

実際に再生医療に関しては、幾つかパターンがあることもお聞きしていますが、どういうことかを具体的に教えてください。

外園

眼科では、有効性・安全性を見て、治験をして、3製品が承認されています。いずれも上皮が原因の病気で、先ほど申しました角膜上皮ステムセル疲弊症が適応となります。中でも化学外傷は片目だけの場合があるので、その場合は健康な受傷していない目からほんのわずかな細胞を採ってきて、それを人工的に増やし、病気のほうの目に移植をする。これがネピックという製品の、自家の角膜上皮シートの移植になります。

口腔粘膜を使った製品が2種類ありますが、これは両眼性の病気が適応になる自家移植で、患者さんの口の粘膜細胞を採り、人工的な上皮シートにして、病気の目に傷んだ上皮を外して移植します。

多田

羊膜を使うということですか。

外園

はい。羊膜を使わない細胞だけの製品がオキュラルというもので、羊膜を使って羊膜の上に細胞が多層化したものがサクラシーと呼ばれます。

サクラシーは羊膜という膜があるので、白目も黒目もいろいろな場所に置くことができ、切ってデザインして3つぐらいに分けて移植することができます。オキュラルとサクラシー、すなわち羊膜がないものとあるものは、適応も今は少し違うことがわかってきているところです。

多田

実際に角膜移植をしてもうまくいかない場合もあると聞きますが、どのぐらい持つのでしょうか。

外園

角膜移植が順調にいく場合、最初に申し上げた全層移植は、若い方だと円錐角膜で20歳ぐらいで移植をされますが、一生いける方もあり、一生いける方のほうが多いです。3割ぐらいが再移植かと思います。

多田

再移植は何度もできるということですか。

外園

できます。拒絶反応を起こしやすいタイプの病気もありますが、私の経験では右目を5回、左目を5回された方もいます。回数が重なると免疫抑制剤のシクロスポリン50㎎を1~2錠程度、数カ月内服しますが、5回目に成功することはあるので、移植の回数が何回だから駄目ということはありません。

多田

とりわけ先生のグループが開始された自家移植のようなものですから、免疫的に排除機能が無視できるわけですね。

外園

自家移植では、免疫抑制剤はもう要りません。ステロイドも最初だけで少なくていいですが、口腔粘膜上皮シート移植を必要とする難しい病気は自己免疫的な要素があります。病気により、角膜がまた濁ってくるところが、これから解決しないといけない課題になってくると思います。

多田

手術の年齢制限や所要時間は、手術の仕方によっても違うと思いますが、入院期間や費用などを教えていただければと思います。

外園

まず、角膜移植の手術を受ける方の年齢制限ですが、子どもは拒絶反応や薬の副作用が出やすいので、小児はよほど悪い方だけということで慎重になっています。上限はなく、99歳でも受けることができます。その理由として免疫抑制剤も少なくて短期で済むことがあります。入院は通常1週間ぐらいで、1時間ぐらいの手術で角膜移植ができます。

多田

費用に関してはどうでしょうか。

外園

費用はすべて保険でカバーできるので、自己負担に上限があります。再生医療製品は数百万から1,000万円を超えるものもありますが、対象患者が希少疾患ということで保険収載されました。患者さんは高額医療制度を使う中で、1,000万円は全く負担せずに受けられるので、海外の研究者からは日本はいい国だと言われています。

多田

そういうわけで、日本では、こういった再生医療が今後期待を持てますが、もともとのドナーというか、アイバンクも大切ではないかと思います。

外園

アイバンクは最も長いところで60年以上の歴史があり、各都道府県に最低1つのアイバンクがあります。しかし、ドナーの数にすごく差があり、0~1眼のところから年間100眼のところもあります。実は、ドナーになりたいという気持ちを十分に拾えていない可能性もあります。それをどうするかが今は課題になっています。

多田

ドナーは我々国民が応募しないとなれないわけで、骨髄のドナーと違い、アイバンクのドナーの場合は何歳でもよいのですね。

外園

90歳代でもドナーになることができます。保存角膜といって、表層移植は子どもにもできますし、いろいろと適応があり無駄になることはなく、ドナーはまだまだ足りません。少しでも興味がある方がいたらアイバンクに連絡いただき、詳しくお話をさせていただけたらいいと思います。

多田

眼科医にこれを相談して、そこに応募することになりますか。

外園

今はホームページもあるので、アイバンクのホームページからアクセスして聞いていただくこともあります。

多田

インターネットから入っていただくこともできるということですか。

外園

可能だと思います。

多田

最先端の非常に興味深い話をお聞きできたと思います。ありがとうございました。