齊藤
眼科領域で、検査法、診断法がたいへん進歩しているということですが、まず全体的に見ると、どういう変化でしょうか。
瓶井
眼科は画像診断が多いです。透明組織なので、目の表面から網膜まで写真、あるいは断層撮影を行いますが、画像診断が非常に進みました。この30年で、昭和のころにはなかった画像診断がたくさん出てきました。
あとは機械がだんだん小さくなってきて、ハンディ化したことで、小児、寝たきりの方などなかなか動けない患者さんにもいろいろな検査ができるようになったことが大きな2つの流れかと思います。
齊藤
画像でいうと、まず、我々は眼底写真を考えますが、これはどうでしょうか。
瓶井
眼底写真の大きな進歩は、まず広角で撮れるようになったことです。今までは目の中心から50度ぐらいの範囲でした。今は120度まで撮れるようになったので、網膜の端のほうまで撮れるようになりました。これは造影撮影にも同じように応用されるので、診断の精度が高くなりました。
齊藤
幅広く見えるので周辺領域の問題がわかるということですか。
瓶井
はい。わかりやすいです。
齊藤
そういう画像の進歩があっても、これは解析あるいは診る医師の技術が伴わないとならないですね。
瓶井
はい。間もなく、AIによって注目すべき点や正常からずれているところを全部示してくれるようになってくると思いますが、現在のところは医師の力量にかかっています。
しかし、眼底を非接触レンズを用いて端まで見てきちんと病変を見つけることは、網膜の専門医ならできます。眼科医の8割以上を占める網膜非専門医はなかなか難しいですが、広角写真を撮ると、はっきりした異常はすぐわかります。微細なものはこれからAIに頼っていかないといけないかもしれませんが、開業医から紹介されてくるものも診断精度が高くなっていると思います。
齊藤
それからほかはどうでしょうか。
瓶井
あとはOCT(光干渉断層計)が画期的な検査です。1990年代半ばに初めて学会で見たときは黒山の人だかりで、これはうそだ、ラップフィルムを撮っても同じような像になる(うそ)という話まで出たぐらいでした。それからあっという間に広がり、今は開業医もほぼ持っていますし、逆にOCT、断層撮影がないと、私たちも診断能力がガタ落ちになってしまうぐらいです。
眼は透明で網膜までずっと光が通り、光の反射でまるで本当に網膜の組織片を切っているような感じで出てくるので、網膜が腫れている、浮腫があることもわかります。昔は定量できなかったのですごく腫れてくるまでわからず、「視力が落ちているから腫れているだろうな」と言っていました。少し腫れている人や、治療をしてよくなったか悪くなったかも判定がつきませんでした。しかし今は厚みは何μmとすぐに数字で出てきます。どこの部分が腫れているか、立体構造も表示されるようになったので、むくみだけではなく、網膜の表面に薄いセロファンのような膜が張っているとか、黄斑、孔が開いているなどもわかります。
さらにOCTが広角化して、今は端のほうまで断層が撮れるようになってきたので、診断が非常に進歩しています。さらにこの10年、15年ぐらいで、造影剤なしで血管撮影ができるようになりました。OCT angiographyという、動くもの(赤血球)だけを捉えるものが出てきて、これで随分と進歩しました。ただ、OCT angiographyは開業医まではあまり行き渡っていないところです。
齊藤
今、疾患を想定しながらお話しされていたのだと思いますが、Common Diseaseでいくと緑内障や加齢黄斑変性がありますがいかがでしょうか。
瓶井
緑内障もOCTを使用します。緑内障は視神経が減ってくる疾患ですが、減り具合も数字で出せるようになり、デジタル化していることも非常に大きいです。緑内障、黄斑疾患の診断には抜群の効果を出しますし、糖尿病の患者さんも随分その恩恵を受けています。静脈閉塞症など循環器系も先ほどのOCT angiography(OCTA)が非常に役立っているところです。
齊藤
OCTAは、以前は造影剤で見ていたのですよね。
瓶井
そうですが、造影剤はどうしても敬遠されがちです。いいこともあり、時間経過で造影剤がだんだん漏れてくるので活動性がわかりましたが、逆に漏れた造影剤の液で隠れてしまい、解像度が悪かったり、何よりも怖いのはショックを起こす場合があることです。眼科でも全国で10年に1人ぐらい亡くなっています。
死亡までいかなくてもアレルギー反応で蕁麻疹が出たり、嘔吐したりということは頻繁に起こるので、それが怖くて開業医では全く行っていませんでした。大学病院の救急があるところでしか行わなかったのでハードルが少し高かったですが、非侵襲でできることに加えてデジタルなので数値化もできます。なおかつOCTAは頻繁に繰り返しできます。造影剤の検査は1回行うと次できるのはせいぜい1カ月、通常は3カ月空けないと患者さんに負担がありました。OCTAは診察ごとに撮れますし、レーザー治療などの前後で1日に2回撮ることもできます。
そのようなメリットが大きな機械であることから、OCTAなしでは網膜診療はほぼできなくなっているところまできています。
齊藤
それもテクノロジーの進歩が著しいということですね。
瓶井
そうですね。
齊藤
ハンディ化についてはどうですか。
瓶井
眼圧を測るのも昔は患者さんを台の上に乗せたり、ベッドに寝かせたりしてけっこう手間でしたが、今はすぐに測定ができます。眼科に行くと風でピュッとやるものもありますが、風でまばたきをしてしまいます。今は細い、まつ毛のようなピンがピッピッと出てきて測ってくれるようなハンディタイプのものが主流になっています。それだと寝ていても、どの格好でも測れます。それこそ赤ちゃんでも、寝たきりの方、あるいは整形外科疾患があり、高齢の方で検査の台の上に顎を乗せられない方もハンディタイプなら検査できます。
眼圧だけではなく眼底の撮影も子ども、未熟児や赤ちゃんを撮るときには機械に顔を持ってこられなかったですが、それをハンディに撮れるようになりました。
あるいは網膜電図(ERG)も暗い部屋の中に入らないといけませんでしたが、シールを貼るだけで検査できるようにハンディ化されています。精度が少し落ちますが、簡易に撮るハンディ化は患者さんのメリットになっていると思います。
齊藤
自己眼圧測定などもありますか。
瓶井
そのうち出てくると思いますが、一般には今はまだありません。実験レベルのようなことで行っている会社があるとは聞いています。
齊藤
日内変動を見ることはできますか。
瓶井
それができるといいですね。コンタクトレンズに圧センサーを埋め込んで測るという治験は行われています。間もなく一般診療にまで来るのではないかと思います。
齊藤
いろいろな技術の進歩で、コンピューターを使って厚さを測ったり、OCTも網膜だけではなく前眼部もやっていますよね。
瓶井
はい。それで緑内障、白内障、屈折、角膜などの評価をしています。白内障の術後の視力の精度が上がったことも前眼部のOCTや波面センサーといわれるようなもののおかげで、すごく細かな視力を評価できます。
術後の眼がすごくきれいなのに視力が出ない人は目の表面が少し波を打った状態で、涙が乾き、いわゆる雨が降ったときのフロントガラスに水滴が少し残っているような状態で見えないのです。そのようなものを全部評価できるようになったことが大きいですね。前眼部のウェーブフロント、波面センサー、前眼部のOCT、あるいは緑内障の水の排泄溝の部分も判定できるようになったことが大きな進歩かと思います。
齊藤
たいへんな進歩がありますが、これがどこまで均てん化というか、患者さんレベルでいけるかということが、先生のような立場になると重要な課題でしょうね。
瓶井
そうですね。将来的には患者さんがスマートフォンなりで異常を検出して、「ちょっとおかしいから、眼科へ行こう」というようなことができるようになると、患者さん、市民の健康にはすごく役立つようになると思います。
齊藤
クオリティ・オブ・ビジョンを皆さんに行き渡らせていくということでしょうか。それが赤ちゃん、高齢者も含め、認知症になっても保っていくということでしょうか。
瓶井
その前に、一般に目に関心を持ってもらいたいです。目は2つあるので、片目が悪くなっても案外気づかなくて、片目をふさいで初めて気がついたという方がいらっしゃるので、たまに片目を隠して見ていただくことを推奨しています。
眼科医会はアイフレイルという言葉をつくって関心を持ってもらい、少しでも違和感があったら、とりあえず受診をしてほしいと啓発しています。そして先生がおっしゃるように、10年、20年すると、違和感があったらスマホで自分の目を撮ってみようというような時代が来ると思います。
齊藤
ありがとうございました。