池田
小児の5種混合ワクチンについての質問です。5種混合ワクチンは、いつごろからあったのでしょうか。
星野
5種混合ワクチンの前に3種混合ワクチンがあり、これは1968年から用いられています。ですから、歴史としては、混合ワクチンはけっこう長いものかと思います。
池田
おそらく3種から4種、4種から5種となってきたと思いますが、これはなぜ混ぜるのでしょうか。
星野
混ぜることの大きなメリットとしては、子どもの痛みに対する負担、痛みを感じる回数を減らせることが一つあると思います。
また、ワクチンの同時接種は一度に何本も小さいお子さんに打つことになるので、その本数を減らすこともできます。ワクチンスケジュールが過密になっているので受診の機会を減らすことにもつながり、スケジュールのずれをなくす効果もあると思います。
池田
聞き慣れませんが、ワクチンスケジュールとは、どういうものでしょうか。
星野
ワクチンは、大きなくくりで定期予防接種と任意接種に分けられています。定期予防接種に関しては標準的な接種期間が定められていて、その間に行わなければいけません。ワクチンによってその期間は異なりますが、疾患を予防するためにワクチンを打つ適切な時期は決まっているので、それをスケジューリングしたものがワクチンスケジュールです。
池田
各疾患の罹患年齢がベースにあり、その前に打っていくということですね。
星野
そうです。例えば生ワクチンに関していうと、ロタワクチンとBCGがあります。これは例外的に乳児期、1歳前に打つものです。それ以外のはしかを予防するワクチン、風疹を予防するワクチンなどは、1歳よりも後に打つことになっています。このようにワクチンの種類によっても打てる時期が違うこともあります。
今回取り上げられている5種混合ワクチンは不活化ワクチンに該当し、乳児期に重症化するような疾患が含まれているものなので、生後2カ月から接種を始めます。
池田
先ほど同時接種とおっしゃっていましたが、これは違う種類のワクチンを一度に打つという意味でしょうか。
星野
先ほど申し上げたように、スケジュールがかなり過密になっているので、同じタイミングで複数種類のワクチンを打たなければいけないという事情があります。例えば、外来に生後3カ月の赤ちゃんが来たときに、5種混合ワクチンと肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチンを同じ日に打つことになります。
混ぜて打ってはいけなくて、それぞれのワクチンを別の箇所に、部位を変えて打ちます。
池田
少なくとも部位を分けて打たなければいけないのは、混合した臨床試験のようなものはされていないという理解でしょうか。
星野
そういったこともあるかもしれませんし、別のワクチンを混合してしまうと、そのワクチンの成分の効果が保証できないということがあるのかと思います。
池田
手足で別の箇所に何カ所も打つというと、親御さんもそうですが、医師にも心の負担がありますね。
星野
同時接種も日本で導入されて10年以上経過したので、打つ側としてはだいぶ慣れましたが、親御さんとしては若干抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。ただ、同じ日に済んでしまうのは、受診の回数を減らせるメリットもありますし、それはそれで大きなことかと思います。
池田
もう一つ疑問なのが、同時接種を行っていい組み合わせ、行ってはいけない組み合わせはあるのでしょうか。
星野
定期で打っているようなワクチンに関しては、組み合わせに関してだめなものはありません。
池田
では、「また違う日に来てください」というパターンはないのですね。
星野
それはありません。
池田
それは安心ですね。
質問に戻り、5種混合ワクチンの使い分けとありますが、これは何種類かあるのでしょうか。
星野
5種混合ワクチンは2024年4月から定期接種になりましたが、2種類の製剤が出ています。製品名で言うと、ゴービックとクイントバックです。これまでそれぞれのメーカーが4種混合ワクチンを出していましたが、それにHibワクチンが加わったものになります。
池田
両方のワクチンとも臨床試験が行われているのでしょうか。
星野
5種混合ワクチンは、これまでの4種混合ワクチンとHibワクチン、これを打った群と、新たな5種混合ワクチンを打った群で比較し、その効果や副反応に関しての評価が行われています。もちろん、効果に関しては非劣性が証明されて、今回、定期接種になったという経緯があります。
池田
その効果判定はどのようにされるのですか。
星野
主に免疫原性といって血液の抗体を見て判断します。
池田
4種混合ワクチンプラスHibワクチンと5種混合ワクチンを接種し、同じような抗体産生、免疫応答が起こることを確認するのでしょうか。
星野
そうですね。5種ですから、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、Hibです。これに対し免疫原性を見て、それが非劣性だと証明されることになります。
池田
相手は赤ちゃんで、なかなかたいへんな試験だと思います。
質問に、使い分けと注意点についてとありますが、どのように使い分けられるのでしょうか。
星野
まず、両社の違いに関して説明すると、Hibの部分が若干異なります。Hibワクチンは、Hibの抗原成分をそのまま打っても赤ちゃんに免疫を誘導できません。抗体が誘導できないので、キャリア蛋白といって、ほかの蛋白と結合した結合型ワクチンというかたちを取っています。
その結合している蛋白が両社の製剤で少し異なります。ただ、それが実際に効果の違いとして表れるかというと、そんなことはありません。使う側として、そこはあまり気にしなくてもよいのかもしれませんが、そういった違いがあります。
あとは、2種類の製剤を交互に使うような打ち方ができないという注意点があります。交互接種と言いますが、例えば生後2カ月のときにゴービックで始めた方が、生後3カ月のときにクイントバックを打つとか、その逆もありますが、現状、こういったことは許されていません。これは交互に打ったときの効果の判定がしっかりなされていないためです。
池田
患者さん、家族の状況により、転居することがあります。市町村で同じものが打てない場合はどうするのでしょうか。
星野
交互接種が駄目なのは「原則」という言葉が付いているので、転居等で定期の予防接種、市町村により使われる製剤が異なるのはよくあることです。A市がゴービック、B市がクイントバックを使っているとすると、A市からB市に引っ越したときに、どうしてもワクチンが変わってしまう。そういったケースは起こりえますが、こういったものは許容されています。
池田
混合のパターンも家庭により違います。例えば1回目はゴービック、あとの3回はクイントバックで行うとか、そういう複雑なこともありうるのでしょうか。
星野
転居を繰り返せばありうるかもしれません。市町村によっては、時期により使用するワクチンが異なるようなケースもあるようですから、もしかしたら、そういったことも起こりうるかもしれません。
現在、そういったことも見越し、2種類の5種混合ワクチンをいろいろな打ち方で接種し、効果がどう出るかを見るような観察研究が行われていると聞いています。
池田
それは具体的にはどういうイメージでしょうか。片方を最初に打ち、もう一方を3回打つとか、そういったものをランダムに行っていく研究でしょうか。
星野
詳細まで調べることができなかったのですが、5種混合ワクチンは、初回免疫で3回打ち、追加免疫で1回打ちます。その初回免疫の3回に関して、例えばゴービック・ゴービック・クイントバック、クイントバック・ゴービック・ゴービックといった幾つかの組み合わせがあると思いますが、そういった複数の組み合わせに関して研究をしていると聞いています。
池田
それはすごくいいですね。リアルワールドのワクチン接種のパターンにすごく似てきています。それで効果がはっきりすれば、交互接種しないことにあまり固執することはないですね。
星野
そういった研究を通じて、おそらく交互接種が今後、認められてくるのかもしれません。
池田
定期接種のスケジュールがずれてしまった方たちのほかのスケジュールはあるのでしょうか。
星野
今回、5種混合ワクチンは4種混合ワクチンとHibワクチンが合わさったものだと言いましたが、今までHibワクチンに関してはキャッチアップスケジュールが定められていました。
標準的には生後2~7カ月でワクチンを始めますが、こういったお子さんに関しては合計4回の接種を行っていました。これが生後7カ月を超えると1回減り3回になったとか、ワクチンの開始年齢により接種回数も変わっていました。
ただ、5種混合ワクチンに変わり、接種回数の違いがなくなりました。そもそも5種混合ワクチンはHibワクチンよりも接種の年齢の幅が広がり、Hibワクチンは生後2カ月から5歳未満が対象年齢でしたが、5種混合ワクチンは生後2カ月から7歳半(90カ月)まで打てるようになりました。
どういうことかというと、これまでの4種混合ワクチンの接種期間に合わせたかたちになります。4種混合ワクチンは、もともと生後2カ月から90カ月まで打てるものでしたが、これに合わせて5種混合ワクチンも設定されました。
5種混合ワクチンはHibワクチンと異なり、生後2カ月から90カ月の間に4回打てばよいことになっているので、開始年齢による接種回数の差はなくなっています。
池田
では、今までのHibワクチン単独とは様相がだいぶ変わってきているのですね。
星野
そうですね。ここは注意点の一つになるかと思います。
池田
どうもありがとうございました。