ドクターサロン

池田

大久保先生、抗IL-4受容体抗体を使用する際、検査項目や身体的所見で「これは効く」という症例を見分ける方法はあるのでしょうか、という質問です。

まず、デュピルマブに関して、気管支喘息やアトピー性皮膚炎で何か目安のようなものはあるのでしょうか。

大久保

これは核心をついた非常に重要な質問ですが、まだなかなか解明できていないという状況です。ただし、気管支喘息については、多くの知見からこういった方に有効性があるのではないかと、分類ができています。

つまり、喘息にもフェノタイプがあり、アトピー型と非アトピー型がありますが、ご存じのように、アレルギーの場合はヘルパーT細胞やInnate Lymphoid Cell(自然リンパ球)のタイプ2からタイプ2サイトカインが分泌されています。IL-4、IL-5、IL-13がタイプ2サイトカインといわれています。

そのタイプ2の炎症が高い群と低い群で、喘息のフェノタイプがあります。それにより、IL-4の受容体抗体であるデュピルマブやほかのIL-5の抗体や受容体抗体の有効性が分類されるのではないかと、最近言われています。

タイプ2の炎症が高い喘息は比較的若い方が多くて7割を占め、アレルゲンの感作が非常に高く、好酸球性の気道炎症があります。つまり、好酸球が血中や喀痰、気道内で増えているということです。

もう一つ、喘息の重症度を調べるときには、呼気中の一酸化窒素(NO)の濃度を測定し、気道の炎症状態を評価することがあります。好酸球性の気道炎症を反映する指標の一つにFeNO(一酸化窒素濃度)があります。FeNOと末梢血中の好酸球数の高低により、デュピルマブの効果のあるなしがわかってきています。

もう少し具体的に申し上げると、血中の好酸球数が高い人のほうがIL-5抗体、IL-5レセプター抗体、IL-4レセプター抗体(デュピルマブ)は効果があるのではないか。それから、FeNOは高い人のほうが、重症度が高く、そういう人のほうがIL-4のレセプター抗体の効果があるのではないかと言われています。

それ以外の抗IgE抗体、抗TSLP抗体は、好酸球数やFeNOが高くても低くても、どちらでもある程度効果があるというデータが出ています。

バイオマーカーによる有効性の違い、薬剤の選択制については、まだまだ課題があり、これからの患者さんのデータの蓄積が必要だと思います。

池田

アトピー性皮膚炎では、まだわかっていないのでしょうか。

大久保

アトピー性皮膚炎については、日本でも多施設でスタディを行いましたが、有効性に絡むようなバイオマーカーは、残念ながら今の時点では見つかっていません。

ただし、アトピー性皮膚炎については、イタリアや台湾でもスタディが少しあります。例えば発症年齢が若い方、アレルギー性結膜炎、アレルギー性の喘息を合併している方が、有効性が高いのではないか。多くの患者さんのデータ、患者背景とデュピルマブの有効性からそういうことがいわれています。

LDHといったバイオマーカーでは、LDHが高いほうが、有効性が高いのではないかともいわれていますが、一つのスタディだけでは、まだ確実なことは言えません。

池田

ほかにもサイトカインが関与する疾患で、分子標的薬を選択するにあたっての質問ですが、一番有名なのが乾癬、乾癬性関節炎、掌蹠膿疱症だと思います。これらの疾患で身体的所見、検査項目から見分けられる、効きやすい症例はあるのでしょうか。

大久保

乾癬もアトピー性皮膚炎と同様に、重症度、有効性を正しく予測するバイオマーカーははっきりしていません。もちろん、IL-17やS100蛋白などが高いということはわかっていますが、それにより有効性を判断できるかというと、そういうものは見つかっていません。

おおまかに言うと、例えば乾癬だと、皮膚症状をメインで治したいのであればIL-17阻害薬をまず使います。関節症状をメインで治したいときはTNF阻害薬を使います。ただ、IL-17阻害薬は、乾癬に限っては関節にも皮膚症状にも効果があることが非常に優れた点だと思います。

もう一つ、大きな抗体の種類としてIL-23阻害薬があります。IL-23阻害薬はIL-17の上流で抑えるといわれていますが、比較的マイルドに徐々に抑えながら、長期の寛解が得られるのが特徴で、有害事象が比較的少ないという利点があります。したがって、高齢の方、糖尿病があり感染症を起こしやすい方には、IL-23阻害薬を選ぶことが一般的に行われていると思います。

IL-17阻害薬やTNF阻害薬は、効果は高いですが、感染症のリスクがあります。細菌性や真菌性の感染症を誘発することがあるので、十分気をつけながら投与することが必要です。

また、ご存じだと思いますが、IBD(炎症性腸疾患)を合併している場合、IL-17阻害薬は避けたほうがよいです。IL-17は腸管においてはタイトジャンクションなど、腸管の保護にかかわっていることから、それを阻害してしまうことにより、腸炎を悪化させる可能性があります。

乾癬の場合は、そういった患者さんの背景により、どのサイトカインの阻害薬を使うかを決定していくことが、現状行われていると思います。

池田

罹患期間の長短は、サイトカインに対する阻害薬の使い分けに関係してくるのでしょうか。

大久保

アトピー性皮膚炎については、罹病期間が長いほうが、デュピルマブの効果があったというデータも、確か台湾から出ていたと思いますが、日本ではそういうデータは調べてはいないようです。そのあたりは、まだわかっていないのではないでしょうか。

乾癬についても、私が知っている限りは、罹病期間の長短で効果に違いがあることはないようです。ただ、最近言われていることは、早期介入することにより、早く乾癬の皮疹をクリアにする。乾癬性関節炎については、診断がとても難しいですが、半年、1年と診断が遅れれば遅れるほど、そして治療が遅れれば遅れるほど、変形あるいは重症度が高くなると言われているので、早期介入の必要性がうたわれています。

したがって、乾癬性関節炎の場合は、罹病期間が短いほうが、効果が早く出て、進行を抑えられる点では早期介入が必要かと考えます。

池田

それは古くからの臨床経験で得られたことと一致していますね。

大久保

そうですね。一番の基本は、どのような病気を持っているか、身体症状がどうなのか、患者さんの背景をしっかり診ることが大切だと思います。

池田

最後に、掌蹠膿疱症ではいかがですか。

大久保

掌蹠膿疱症も、IL-23阻害薬とIL-17阻害薬が生物製剤では認可されています。どちらも有効性はありますが、掌蹠膿疱症は自然経過の中で良くなったり悪くなったりを繰り返すものですから、プラセボとの有効性の差が出にくいのと、効果が出るのが遅い。乾癬のような効果を掌蹠膿疱症に、生物製剤に求めると、それは異なると言ってよいでしょう。

ですから掌蹠膿疱症については、乾癬のようには早く効果は得られません。16~24週ぐらいかけ、効果がゆっくり出て、1年ぐらい使い続けることにより、効果がしっかりと安定し、患者さんにとって満足度が高くなると考えたほうがよいと思います。

ただし、乾癬のときにも申し上げましたが、IL-17阻害薬については、感染症の合併に注意が必要です。もともと病巣感染が原因として重きがある掌蹠膿疱症です。しかし、病巣感染が十分に治っていない状態で、気づかない、あるいは調べたのに病巣感染がない、大丈夫だと言われていることもあるのです。気づかないでIL-17阻害薬を投与してしまい、扁桃、歯牙感染が悪化したといったこともあります。この点については十分注意していただいたほうがよいと思います。

サイトカインが阻害されたときに起こる有害事象を医師がきちんと想像し、それを考えながら患者さんを選択していくことが大切だと思います。

したがって、まずは病巣感染を治療し、生物製剤が必要な時には比較的安全性の高いIL-23阻害薬を第一選択として使い、その効果が不十分な場合にIL-17阻害薬を使用することをお薦めします。

池田

どうもありがとうございました。