ドクターサロン

池田

ラズベリー型胃がんというがんについての質問です。この概念というか、この腫瘍については、いつごろから報告があるのでしょうか。

平澤

これは5年ほど前に島根大学の柴垣広太郎先生が報告したのが初めてです。ラズベリーという名前が付いたので、それがニックネームのようになり、見た目がラズベリーっぽく、名前がすごくファッショナブルなので、一気に広まった感じです。内視鏡で見ると、本当にキイチゴのラズベリーっぽく見える腫瘍です。

池田

少し盛り上がっていて、表面がブツブツしている感じですか。

平澤

はい、ブツブツしています。

池田

この胃がんについては、以前はどのように言われていたのですか。

平澤

5年前から言われていましたが、実は以前から存在していました。しかし、腫瘍としては認識されていませんでした。

ラズベリー型腫瘍は腺窩上皮に由来する腫瘍です。腺窩上皮とは胃の粘膜の最表層を覆っている上皮のことです。胃の中はペプシンという蛋白分解酵素があり、胃酸のpHは1とか2の強酸です。つまり、タンパク質を消化する強い消化液が存在しています。その消化液から胃を守るため、つまり自己消化しないために表層の上皮が粘液を出して守っている。それが腺窩上皮です。そして、その腺窩上皮に由来する腫瘍がラズベリー型腫瘍です。その大きさは5㎜以下の小さなものがほとんどです。

ラズベリー型腫瘍に似ているポリープとして、腫瘍ではない腺窩上皮の過形成性ポリープがあります。このポリープも赤く、同じようにラズベリーっぽく見えます。以前は、ラズベリー型腫瘍は腺窩上皮過形成性ポリープと誤認されていました。

ところが、その過形成性ポリープと思った中に一部、腺窩上皮に由来する腫瘍があった。それがラズベリー型腫瘍やラズベリー型胃がんと言われるようになりました。

池田

昔から過形成としての概念はあったけれども、よく調べるとがんと呼べるものが見つかったということですね。

平澤

そうです。過形成と思った中に一部腫瘍があったということです。

池田

では、バイオプシーをとり、診断するための診断基準のようなものはあるのでしょうか。

平澤

これは病理の総論ですが、日本では腫瘍かどうかは細胞異型と構造異型の2つで見ています。おおまかにいえば細胞異型、構造異型が強ければがん、少し弱ければ線腫です。そのような異型がないものが過形成です。ラズベリー型胃がんといわれる腫瘍の中でも、腺腫かがんかについては病理医によって意見が分かれるので、ここではラズベリー型腫瘍と表現します。

池田

では、見た目というよりも病理的診断名ということですね。

平澤

そうです。

池田

普通の方はがんと言われるとどうしたらいいかと悩みますが、この胃がんの悪性度は高いのでしょうか。

平澤

とても低いです。

池田

では、診断がついても放っておくのでしょうか。

平澤

5年前にこの疾患の概念が報告されたので、今のところは自然史もよくわかっていませんが、ほとんどが5㎜以下の小さなうちに発見されています。過去、これが粘膜下層に浸潤したという報告は論文ではありません。ましてや転移したとか、ラズベリー型腫瘍で命を落とすなどといった報告は全くないです。

ただ、15年ぐらい前から存在したラズベリー型腫瘍が、少しずつ大きくなり、最終的に粘膜下層に浸潤したという症例報告は、研究会で一つだけ聞いたことがあります。しかし、それ以外は粘膜下層に浸潤したという報告は、私は聞いたことがないし、論文でもありません。

池田

では、患者さんの考え方、あるいは医師の考え方にもよりますが、放置してもいいのでしょうか。

平澤

ただ、患者さん的に、がんと言われたら取ってほしいとなります。しかも、これは簡単に取れます。

池田

それは小さいからですか。

平澤

はい。実際、5㎜以下のラズベリー型腫瘍だと紹介を受け、がん研に来て胃カメラをすると、そこに腫瘍が残っていないことが多いです。

つまり、生検鉗子で少し削ると残った部分は胃酸で溶け、当院で精密検査をした際には腫瘍は消失していることを多く経験します。

池田

小さいにもかかわらず生検をとると、腺窩上皮型なので胃酸にさらされてなくなってしまうわけですね。そこは溶かされてしまうということですか。

平澤

そうだと思います。紹介状には確実に半分ぐらい残して生検した内視鏡画像があるのに、当院で再度内視鏡検査をすると、消えていることがよくあります。

もし3㎜ぐらい腫瘍が残っていても、外来の精密検査の際に生検鉗子で取ってしまう。その後、半年後か1年後に見ても再発していることはほとんど経験していません。つまり、外来で片がつくことが多いです。

もう少し大きい6㎜以上のものであれば1泊2日で、EMR(内視鏡的粘膜切除術)で取ってしまいます。このように侵襲の少ない治療ができるので、腫瘍といわれた以上は取ることが多いです。

池田

だいたい5㎜以下なので、1回取って消失することも多い。残っていれば、それも取るのですね。

平澤

外来で、鉗子で取ってしまえば消えてしまいます。

池田

そして、1㎝ぐらいになるとEMRで取ってしまい、入院も1泊だけで非常に楽な感じですね。

平澤

5年ぐらい前は私たちも少し大きめのラズベリー型腫瘍をESD(内視鏡的粘膜下層?離術)で切除していました。しかし、それは過大侵襲だと気がついて、今では簡単なEMRを1泊か2泊で行うのがいいのではないかと、考えています。

池田

興味深いのは、ピロリ菌陰性者に発生するということですね。

平澤

そうです。

池田

では、ピロリ菌の陽性者に出るがんとラズベリー型胃がんは、どのように違い、それぞれどのようにできるのでしょうか。

平澤

昔は胃がんの99%はピロリ菌関連といわれており、ピロリ菌未感染は1%ぐらいでした。ところが、最近、患者さんはピロリ菌に感染していないので、ピロリ菌未感染胃がんがけっこう増えてきています。

その中の一つにラズベリー型腫瘍があります。そのほかには胃底腺型胃がん、あとは印環細胞がんもピロリ菌未感染で起きることがあります。そういったものがどんどん増えてきました。ただ、それらのピロリ菌未感染の腫瘍は悪性度が一般的に低いです。

なぜピロリ菌がいないのにがんができるのかに関しては、いろいろな遺伝子が調べられていますが、まだ詳しくはわかっていません。喫煙と関連するのではないかという報告もあります。

池田

やはり、たばことお酒。あとは、日本人だと塩分が多いですね。

平澤

ピロリ菌感染の胃がんは塩分とけっこう関係しますが、ピロリ菌未感染の人とどこまで塩分が関係するかという、公衆衛生的なエビデンスはまだ少ないと思います。

池田

一方で、ピロリ菌により起こるがんは、どのようなパスウェイでなるのでしょうか。

平澤

ピロリ菌は5歳以下で感染し、慢性炎症を起こします。その慢性炎症により長い年月をかけ遺伝子異常が起き、その遺伝子異常から腫瘍ができると考えられています。

池田

ピロリ菌陽性胃がんの場合は、まず腸上皮化生を起こすのですか。

平澤

ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜は腸に似た粘膜に変化します。それが腸上皮化生です。その腸上皮化生から腸型の腫瘍が発生します。

池田

ラズベリー型胃がんは腺窩上皮型でしたね。

平澤

もともと正常な胃にある腺窩上皮に由来する腫瘍です。

池田

では、病理的にも全く違うものですね。

診断は確かにできるでしょうし、悪性度が低いこともわかりますが、なぜ起こるのか非常に不思議ですね。

平澤

その辺は、まだ詳しくわかっていません。自然史を含め、まだわかっていないけれども、胃がんといわれつつも、それほど命に関わるものではないことがわかってきています。

池田

良性に近いものだと思っても1回腫瘍ができたら次のフォローアップはどのくらいのインターバルで見ていくのでしょうか。

平澤

ラズベリー型の腫瘍は多発することがあります。私は最高で一度に9個ぐらい取ったことがあります。

池田

そんなにできるのですか。

平澤

だいたい1個か2個が多いですが、多発する方もいます。それは遺伝子異常があるとは思いますが、だいたい小さいので、鉗子でポンポンと切除します。ラズベリー摘みと私は名前を付けていますが、鉗子で簡単に取れてしまうのです。

1度取ったら、また1年後にあれば外来で、鉗子で取ってしまうかたちでいいと思います。年に1回、ラズベリー摘みのような感じです。

池田

では、1年おきぐらいにやればもう十分ということですね。

逆に言うと、1回できるとまた新しいものができることもあるのですね。その辺は、何か体質的あるいは遺伝的なものを考えるのですか。

平澤

それがまだ詳しくわかっていません。

池田

できやすい年齢とか性別とか、あるいは家族歴などはありますか。

平澤

ピロリ菌未感染の方に多く、だいたい症状がないので、健診を行う年代に見つかり始めることもあると思います。40~50代が多いです。

池田

若い人でピロリ菌がいなければ健診しないかもしれません。

平澤

症状がないから見つからないことはあります。

池田

家族歴はどうですか。

平澤

今のところ報告はないです。

池田

遺伝的な、家族性発生のようなものもないのですね。

平澤

ないです。同じ腺窩上皮型の腫瘍でも白っぽい腫瘍があります。FAP(家族性大腸腺腫症)では腺窩上皮型で白っぽい腫瘍ができることはあります。色も全然違うし、同じ腺窩上皮型でも違うタイプです。

池田

では、ラズベリー型はラズベリー型なのですね。そういった鑑別に見た目は非常に関係するのですね。

その他のピロリ菌陰性者の印環細胞がんで、あとは接合部がん。これはどのようなものでしょうか。

平澤

最近は接合部がん、食道と胃の接合部にできる腫瘍はけっこう多く、比較的若い30代、40代でも進行した状態で見つかることがあります。

進行してしまうと、もうどこから発生したかわからない。ひとまず接合部にあるがんとして、接合部がんと呼んでいますが、おそらくバレット食道から発生したと思われる、そういったものも最近増えてきています。接合部がんは進行が速いものが多いです。

池田

バレット食道というと逆流性の胃炎などのイメージですが、そういった炎症により、発がんするということでしょうか。

平澤

ピロリ菌が未感染だと胃酸がけっこう出るので逆流性食道炎も多いし、肥満の影響でも胃酸が逆流しやすくなります。そういったことで、食道に胃酸が逆流するとバレット食道ができ、そこが腫瘍化したものがバレット食道腺がんです。

池田

そちらも怖いですね。よくピロリ菌がいないから安心してしまい、もう胃がんは大丈夫だねという話も出ますが、逆にそういったバレット食道でも出てくるから注意が必要ということですね。どうもありがとうございました。