山内
一般の医家にとって、心筋症はややとっつきにくい印象がある病気です。おそらく、この質問のケースも、専門医の通院を中断していたり、どこかにコンサルトして診断がついた後に、軽いからそちらで診てほしいといわれたりした患者さんへの対応だと思われます。そういった方を念頭に、教えていただきたいと思います。
まず、心筋症には何種類かありますが、実際に重症度などはどういったものを念頭に置いたらよいでしょうか。
家田
心筋症は一般的に、肥大型心筋症という心臓の筋肉が分厚くなってしまうタイプと、拡張型心筋症という心臓が拡大して収縮力が落ちてくるタイプの大きく2つに分かれます。
肥大型心筋症の場合、収縮力は保たれていますが、拡張障害といって広がりが悪いタイプです。拡張型心筋症の場合は逆に収縮が悪いタイプで、皆さんがイメージする心不全というタイプは拡張型心筋症かと思います。
よくある拡張型心筋症で心臓が拡大するタイプだと、まずは収縮力、左室駆出率のejection fractionが一つのメルクマールになります。一般的には40%以下、あるいは35%以下が重症の部類に入ってくると思います。それ以上のものは軽症という言い方も違いますが、拡大はしていても、まだ比較的収縮力が保たれたタイプの心筋症だと思います。
肥大型心筋症は、厚みが非常に分厚くなってくるタイプが重症型といわれています。通常、心臓の筋肉は1㎝ぐらいですが、それが2㎝を超えたり、遺伝性だと3㎝を超えることもあります。
そのように、かなり分厚くなってくるタイプは当然、拡張も悪くなってしまうので重症なタイプが多く、不整脈、突然死を起こしたり、心不全の症状も出やすくなります。ですから、厚みがどのくらいかで、重症、軽症と判断できるのかもしれません。
山内
基本的には心臓のエコーなどをやらないとわからないので、その辺りは専門医の世界になるかと思います。
一般医家が「ひょっとして心筋症があるかな」と疑うときのポイントは何かありますか。
家田
心筋症は、まず心電図異常を確認します。心電図を取れる施設は多いと思いますので、まず心電図異常があるかが一つのメルクマールで最初の検査です。あとは胸部レントゲンで心拡大があるかなどです。
そして、もう一つのメルクマールに症状があります。息切れをしたり、下腿浮腫、足のむくみがけっこう出てくるなどの症状がある場合は心筋症、もしくは心不全を疑う所見だと思います。
山内
今のような症状が出た場合、息切れは、さすがに専門医にお願いするかもしれませんが、例えばむくみはわりとよく見かけると思います。むくみの場合はいかがでしょうか。
家田
確かにおっしゃるとおり、むくみはいろいろな理由で起きます。命にかかわる意味では心筋症、心不全が非常に大事な病気です。
ですから、それを除外するために外来でできる検査のひとつに採血があります。採血でBNPやNT-proBNPといった心臓のホルモンの検査があり、これが非常にいい検査になります。
BNP値が正常値であれば、心筋症や心不全が原因でむくんでいるのは否定できると思います。一方、それが正常値よりもかなり高い場合は、心臓の病気が原因でむくんでいるのではないかと考えればよいと思います。
山内
専門医に紹介してほしいカットオフラインはあるのでしょうか。
家田
BNPでいうと、正常値はだいたい20以下ですが、100を超えてくる場合は心臓の病気がかなり疑われるので、その辺りでは紹介いただくといいと思います。200を超えたら間違いなく心不全なので、その前ぐらいから治療介入したほうがよいです。
あとは原因を調べなければいけないので、BNP 100を超えたら、ぜひ専門医に一度、相談するといいと思います。
山内
最近はNT-proBNPよりもBNP自体が使われる傾向にありますね。高齢者で比較的上がりやすいといった話も聞きますが、いかがでしょうか。
家田
腎機能が悪いせいでNT-proBNPが上がってしまったりします。高齢者になると腎機能も悪くなるので、その場合、BNPを見ることが多いです。
採血のしやすさという意味ではNT-proBNPもよいですが、その場合はだいたい400をカットオフとします。NT-proBNPが120以下であれば心不全の可能性は低いですが、その約4倍の400以上だと専門医に紹介いただけるといいのではないかと思います。
山内
フォローアップのときも、血液検査を見ていきながらのほうが間違いないと考えてよいでしょうか。
家田
おっしゃるとおりです。BNP、NT-proBNPは心臓の状態を反映した数値なので、治療がうまくいっているのか、どんどん悪くなっているのか、傾向がわかります。例えば、数値が高くてもずっと安定していれば「この方は安定しているな」。一方、軽症と思っている心筋症でもどんどん上がっている場合には「これはちょっと、何かおかしなことが起きているな」と考えていただき、専門医に紹介していただくといいと思います。
山内
どちらかというと心筋症というよりは、結果としての心不全の重症度を見ていると考えてよいのですね。
家田
そのとおりです。心臓にかかるプレッシャーというか、心臓にかかるストレスの値がBNPになります。
ただ、先ほどお話しした肥大型心筋症、もしくは拡張型心筋症は、常に心臓にストレッチ、圧がかかっている状況なので、どちらの病気でもBNPは上がってきます。心不全の原因として心筋症があるかたちになります。BNPは治療効果、重症度の判断にも使えると思います。
山内
話が少し変わりますが、入り口の診断のところで最近、いろいろな病気に絡み、こういったものが起こるなどがわかってきたようです。この辺りを教えていただけますか。
家田
いま心筋症のトピックで、アミロイドーシスという病気があります。この病気を聞いたことがある方が多いと思いますが、以前は不治の病だったものの10年前と違っていまは治る病気になりつつあることです。今はその診断を早期に行い、早期治療介入すると、予後がとても改善しています。ですから、そこを見逃さないのが非常に大事です。
アミロイドーシスによく効く薬で、普通の心不全では使わないような薬もあります。そういったものも今は続々と出ていますから、そこは大事な心筋症のトピックになります。
山内
治療に関しては根治薬に近いものが出てきていると考えてよいのでしょうか。
家田
そうですね。心臓のアミロイドーシスは、昔からいわれているAL型アミロイドーシスです。形質細胞などの異常で起きるようなAL型アミロイドーシスが腎臓や心臓、いろいろな臓器にアミロイドがたまるというタイプと、もう一つ、昔は老人性アミロイドーシスといわれ、今はトランスサイレチン型心アミロイドーシスと名前が変わりましたが、大きくその2種類があります。いずれも特異的治療薬があり、効果があることが最近わかってきています。
皆さんも経験があると思いますが、特にAL型アミロイドーシスの場合は診断が遅れると、あっという間に1年ぐらいで亡くなってしまいます。今では早く発見し、早く治療すると、アミロイドーシスを患っても5年、10年生きることがあります。正しい診断、まずその入り口がすごく大事です。
山内
これに気がつくコツはありますか。
家田
AL型アミロイドーシスの場合、昔は舌が厚くなったり蛋白尿が出現したり、全身の病気なので、心臓以外、心肥大以外にも様々な全身所見が出やすいです。
一方、トランスサイレチン型心アミロイドーシスは、非常に特徴的なのが、両手首の靭帯にアミロイドがついて手根管症候群を起こすことが知られています。手根管症候群の両手というのは珍しく、両手手根管症候群で、例えば65歳以上の男性で、手がしびれる、心臓も苦しいといった場合には、アミロイドを疑ったほうがよいと思います。トランスサイレチン型心アミロイドーシスの場合には、腎臓やほかの臓器には出にくく、手根管症候群は非常に特異的な所見として知られています。
山内
特に両側という点ですね。
家田
はい。両側がひとつキーポイントで、それが、心臓が悪くなる数年前から出るといわれているので、早期発見にもつながります。アミロイドがたくさんたまり、最重症になる前に、早く発見できるひとつのコツが手根管症候群です。最近では整形外科医からの紹介もあります。
山内
我々が少し気になるのは、生活指導です。特に運動はいかがでしょうか。
家田
基本的に普通に生活できる方は、ぜひ運動をしていただいたほうがいいといわれています。ウォーキング、ジョギングでかまわないかもしれません。基本的には少し息が弾む程度ぐらいのところでやめていただく。それ以上は無理しないでやっていただくといいと思います。週3回30分以上が推奨されています。
無理は絶対にしないほうがよく、それで翌日むくんできたり息切れがひどい場合、それはやりすぎなので、それは少し控えてもらうかたちでも、運動はぜひやっていただくとよいと思います。
山内
どうもありがとうございました。