ドクターサロン

大西

鼠径ヘルニアや腹壁ヘルニアの治療について、うかがいたいと思いますので、よろしくお願いします。ヘルニアとはどういうものか教えていただけますか。

竹村

一般の方はヘルニアといったら、どうしても整形外科の病気だと考えられると思います。整形外科でもそうですが、医学的に物が飛び出してしまう状況をヘルニアと呼んでいて、整形外科の場合は、背骨の間の椎間板が出ることを椎間板ヘルニアといいます。しかし、それは今回のテーマとは全く別の病気で、我々が扱うのは腹壁ヘルニアです。おなかの一部が弱くなって出てしまうものを、腹壁ヘルニアと呼んでいます。

大西

ヘルニアにも内ヘルニアと外ヘルニアがありますが、その辺りを教えていただけますか。

竹村

ヘルニアもたくさんあり、鼠径部が出てくるものを鼠径ヘルニア、太ももの内側が出てくるものを大腿ヘルニアといって、鼠径ヘルニアも内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニアがあります。あと、おへそのところの腹膜が弱くなって出てくるものを臍ヘルニアといいます。

あと全く別の疾患にはなりますが、おなかの中の一部の臓器がくっつき、その間に腸が入ってしまうものを腹腔内の内ヘルニアといっています。このようにヘルニアといっても、たくさんの病気があります。

大西

鼠径ヘルニアについて、教えていただけますか。

竹村

鼠径ヘルニアも大きく分け、小児の鼠径ヘルニアと、高齢者でおなかの壁が弱くなることから起こる成人の鼠径ヘルニアがあります。

男の子の場合は、胎児の間、お母さんのおなかの中にいるときは睾丸がおなかの中にあります。それが睾丸の位置に移動するときに、通り道が開いている腹膜鞘状突起といいますが、腹膜が伸びて睾丸が現在の位置まで移動します。腹膜鞘状突起が通常は閉じますが、閉じない状況で残ったものが小児のヘルニアになります。

一方、成人の場合は全く別で、加齢、年を取ることによって、筋肉、おなかの壁が弱くなり、鼠径部が出っ張ってしまうことを鼠径ヘルニアと呼びます。

大西

鼠径ヘルニアにも内鼠径とか外鼠径とか、幾つか分類があるのでしょうか。

竹村

患者さんは股のところが腫れるという自覚症状で、手術のやり方により、内、外と分類しています。おなかの血管の下腹壁動脈がありますが、その内側から出るヘルニアを内鼠径ヘルニア、外側から出るヘルニアを外鼠径ヘルニアと、治療上便宜的に分けています。患者さんにとってはヘルニアとして、ひとくくりでいいのではないかと思います。

大西

腹壁ヘルニアについて、教えていただけますか。

竹村

腹壁ヘルニアも主に2つあります。手術などの影響で傷口が弱くなり、そこでポコッと腸が出っ張ってしまうことを腹壁瘢痕ヘルニアといいます。

一方で、手術は関係なく、もともとの組織が弱くなって出るヘルニアがあり、その中でも大きく2つのヘルニアがあります。特に太った患者さんや肝臓が悪くて腹水などが大量にたまってくると、おなかの壁が伸び切ってしまい、へそのところが出てしまうものを臍ヘルニアと呼びます。

あとおなかの正中線、白線という靭帯組織がありますが、そこが弱くなりポコッと出てしまうことがまれにあります。それを白線ヘルニアといいます。

大西

横隔膜ヘルニアも消化器領域で問題になることもあるのでしょうか。

竹村

そうですね。鼠径ヘルニアの話と全く別になりますが、横隔膜、つまり腹腔・おなかと胸腔の境目の膜が、先天的並びに後天的に弱くなった状況で、生まれつき横隔膜が一部欠損しているものを先天的な横隔膜ヘルニア。何か治療が加わったり事故などで横隔膜が弱くなり、成人してから出る横隔膜のヘルニアを後天的な横隔膜ヘルニアといいます。

大西

診断の話に移りたいのですが、身体診察で気をつけなければいけない点はありますか。

竹村

ヘルニアの診察で特に大事なことが、膨隆した臓器が何であるかと、膨隆した臓器が診察でおなかの中に戻るかどうかです。出た臓器で一番心配なものは腸管です。腸管がヘルニア門というヘルニアの出入り口から外に出た状況がしばらく続き、腸の血流が悪くなってしまうことがあります。そうすると壊死といって、腸の血流が悪くなり、腸が腐ってしまいます。それが戻るかどうかが、我々が一番気にしている病態です。

大西

最初は立って診察したほうがいいと言いますが、寝かせた状態だとわかりにくいのですか。

竹村

横になって腹筋をするようなかたちをしていただくことがあります。それで腹圧をかけて膨隆するかどうかを確認します。嵌頓や脱出が大きくない場合は腹筋をするようなかたちや、先生がおっしゃったように、立位になって膨隆があるかどうか、さらに腹圧をかけていただくことが一番わかりやすいと思います。

大西

CTなど画像診断も非常に有用な場合もあるかと思いますが、どういう場合に撮影しますか。

竹村

CTで有用になるものは、特に腹腔内の横隔膜ヘルニアや特殊な疾患で閉鎖孔ヘルニアである場合です。高齢の女性に多いですが、閉鎖孔ヘルニアの嵌頓などを疑った場合はCTが非常に有用になります。

一方、鼠径ヘルニアの場合は、伏臥位、うつ伏せになりCTを撮ることもありますが、膨隆していない場合、CTではあまり写りません。腹腔内の特殊なヘルニアの診断にはCTが非常に有用かと思います。

大西

それでは、治療に移ります。ヘルニアは原則手術という気もしますが、場合によっては様子を見ることもあると思います。その辺の見極めは、どのようにしたらよいでしょうか。

竹村

ヘルニアで膨隆が軽度な場合、特に内鼠径ヘルニアは腹壁の脆弱性、腹壁が弱くなったことによる軽い膨隆であることがあります。大きなヘルニア門で少し軽い膨隆程度でしたら様子を見ればいいかと思いますが、もともとヘルニアは腹壁の脆弱性、つまり腹壁が弱くなった構造的な問題なので、治すには手術しかないと思います。

大西

手で修復することもあるかと思いますが、そういう場合は、あまり緊急事態ではないということですか。

竹村

しかし、嵌頓した状況が続くと阻血になるので、嵌頓している場合は必ず、まず用手整復して、それができない場合は緊急手術になります。

大西

手術の実際について、教えていただけますか。

竹村

手術は従来から行われている、鼠径部の皮膚を切開して修復する前方アプローチと、最近は腹腔鏡の手術が盛んになってきています。経腹的腹腔鏡修復術、TAPP(trans-abdominal pre-peri toneal approach)という手術、並びにTEP(totally extra-peritoneal repair)という、腹腔を開放せずに腹膜前腔を剝離する腹腔鏡手術の2つがありますが、どちらも比較的低侵襲でできるので、最近は腹腔鏡の手術が主流になっていると思います。

大西

メッシュを使って穴をふさいだりもするのでしょうか。

竹村

そうですね。過去には自己組織だけで修復していることもありましたが、再発率が高いので、今はメッシュを使うことがスタンダードかと思います。

メッシュを敷く位置により、いろいろ術式が分かれますが、前方法で脆弱部の腹側に入れる場合や脆弱部の背側、おなか側に入れる場合も、腹膜前腔に入れる場合もありますし、腹腔鏡の手術の場合は原則、腹膜前腔にメッシュを敷いていきます。

大西

最近ではロボット支援手術も行われるようになっているのでしょうか。

竹村

腹腔鏡のTAPP法、つまり経腹法と同じやり方でロボット支援手術も行われるようにはなっていますが、まだ保険適用にはなっていません。

大西

ヘルニアの手術は短期入院で帰宅できるのでしょうか。

竹村

日帰りでやっている施設もありますが、我々のところは安全のために、全身麻酔で1泊2日ないしは2泊3日で行うことが多いです。

大西

手術をすると再発はあまり起きないのでしょうか。

竹村

再発も数パーセントあります。もともと腹壁が脆弱になった病態で、周囲の組織が脆弱になるので、メッシュはできるだけ大きなものを入れたほうがよいとされています。

大西

高齢者が増えるとヘルニアの人も増えるのでしょうか。

竹村

増えています。やはり、高齢の方が多いです。ヘルニアの手術で一つ気にしないといけないことは、どんどん高齢になり、全身の組織の予備力が弱くなり、全身麻酔がかけられないような患者さんもいらっしゃることです。その場合は腰推麻酔や局所麻酔で行うこともあります。

大西

特に年齢の制限はないのでしょうか。

竹村

年齢制限はありません。ただ、寝たきりの患者さんにはさすがに行いませんが、通常の日常生活をされている患者さんで、ヘルニアでお困りの方は手術を行っています。

大西

患者さんにとっては、なかなか不快な病態ですね。

竹村

そうですね。しかし、簡単な手術で修復できます。

大西

ありがとうございました。