ドクターサロン

池田

村上先生、看護師の特定行為は歴史的にいつごろからこういう考え方があるのでしょうか。

村上

取っかかりは厚生労働省で立ち上がり、2009~2010年にかけて行われた「チーム医療の推進に関する検討会」です。そこでいろいろなコメディカルの方々が、医師の医療行為も含めチーム医療としてどうにかタスクシェア、タスクシフトしながら、現状の医療を2025年問題となる高齢化が進む時代においても提供するためにどうしたらよいかを検討していました。

その後、2014年6月に保健師助産師看護師法の一部改正を含む「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)というものが成立し、保助看法の中に特定行為が加えられることとなり、現在に至っています。だいたい10年前に設立された制度です。

厚生労働省の最初のうたい文句では、この研修制度は2025年までに看護師の特定行為の研修を受けた看護師を10万人以上養成すると言っていました。しかし、研修を行う学校となる指定研修機関や研修に参加できる看護師の数が確保できず、伸び悩んでいる状況が続いていたことも事実かと思います。

現在は、指定研修機関は全国で412校に増えましたが、まだまだ県による差が大きく、1つの県に1校しか指定研修機関がない県も多数あります。その一方で、東京都や大阪府のような大都市圏に関しては40校近い数がある都道府県もあります。

ですから、修了生の分布も全国バラバラで、2、3人しか修了生がいない県もあれば、3桁に近い修了生が存在している都市部もあるような状況です。

実際に修了した看護師の特定行為は医行為で、研修を受けた後、手順書という医師から出される包括的指示に基づき、医師がその場にいなくてもタイムリーに医行為ができるところが特徴です。行える医行為は保助看法の中で38行為提示されています。

その38行為を21の区分と関連するものごとにグループをつくっていて、21の区分で研修をします。各指定研修機関はそれぞれ自由選択で区分を選び、開講している状況なので、全国に412校ありますが、全部の指定研修機関がすべての特定行為の研修ができる状況ではありません。

修了生の数がばらついている上に、研修生が修得できる区分も指定研修機関により違うので、特定行為の研修を修了した看護師が修得している特定行為区分も、とても差があります。

そんな状況で、研修生が現実的に一緒に働く医師や医療者の方々に理解していただくことが難しい制度というかたちで、この10年間は進んでいます。

池田

主なものでけっこうですが、どのような行為を特定行為としているのでしょうか。

村上

基本的には21区分あるので、全部挙げるとたいへんなことになりますが、呼吸器関連やドレーン関連。あとは褥瘡などの創傷管理関連のように急性期のものから、在宅に向けてのものもあります。栄養および水分の補液のようなものから、精神および神経症状にかかる薬剤投与という、急性期にかかる精神疾患の患者さんに対応するものまで、多種多様なものが特定行為の中にはあります。

かつ、令和元年から6つのパッケージというものが出来上がりました。21の区分を幾つか組み合わせ、免除される行為も含め、在宅慢性期領域や術中麻酔管理領域など、研修生が現場で使いやすいような組み合わせで受講ができるパッケージがあります。

池田

けっこう多岐にわたりますね。教育システムはどのようになっているのでしょうか。

村上

基本的に研修を修了する看護師になるまでには、共通科目といわれる約250時間を要するeラーニング+筆記試験を受けていただいた上に、区分別科目では21個の区分+6個ほどのパッケージがあり、それぞれの指定研修機関が開講しているものの中から、研修生が希望する区分もしくはパッケージを選択して受講していくことになります。

区分別科目も授業内容と筆記試験、そして実習に進んでいくかたちになります。おおむね共通科目は、どこの指定研修機関も約250時間を半年ぐらいで受講できるめどで受講計画を立てています。区分別科目もパッケージは、一つのパッケージが半年ぐらいで終わるかたちで、1年かけて修了者になる指定研修機関が多い調査結果になっています。

池田

特に興味があるのが実習のところですが、教育が終わった後にすぐに実地の練習をしていくのでしょうか。

村上

例えば気管カニューレ交換や褥瘡のデブリードマン、PICCの挿入のような侵襲性の高い特定行為に関しては、授業が終わり筆記試験に合格した後、実際の患者さんに実施する前にシミュレーター等で手技試験といわれるOSCEというものを受けます。そこで一連の実技がきちんとできるという確認が取れてから、実際の患者さんに実習として実施させていただく流れになります。

実習を終了するためには、ほとんどの指定研修機関が最低5症例以上の経験があり、かつ評価表で合格といわれる手技や判断を習得している保証が取れて、初めてその区分を修了できる流れになっています。決して楽な内容ではないかと思います。

池田

確かにたいへんですね。そういった項目を全部網羅して実習も終わり、特定行為研修修了証というものが出ると思いますが、これはライセンスのようなものでしょうか。

村上

とても残念なことですが、国では研修制度を定めているだけです。看護師の資格としては、認定看護師や専門看護師という日本看護協会で認定しているものがあります。この特定行為の研修の修了者に関しては、あくまでも研修を修了した者ということで指定研修機関が修了証を発行し、修了した者のリストを厚生労働省に報告をして、看護師免許とひも付けて報告内容が累積されている状況だけで、それ以上の資格認証が現状はありません。

唯一、日本NP教育大学院協議会というところが、大学院まで修了して特定行為の研修も終えている人たちに対して学会をつくっており、その協議会でNP(診療看護師)資格という認証をしています。しかし、保助看法の範疇では現在のところ、特定行為の修了者という扱いだけになるので、現在は修了した者が認定をされるシステムは、特段ありません。

池田

一方、特定行為の修了証をいただいて登録した場合、看護師本人あるいは所属機関に診療報酬も含めアドバンテージは何かあるのでしょうか。

村上

この研修を修了した者で幾つかの区分を終えたものに関しては、診療報酬につながるようになってきています。つまり、幾つかの診療報酬の中には研修を修了した看護師が関わっているもので該当しているものがありますが、修了生自身に診療報酬で直接手当が付くことは、なかなかありません。ほとんどの病院が研修を修了した後、5,000円程度の手当を出すくらいが今のところ多いと聞いています。

もちろん、2万円や7万円などもらっている方がいることも聞こえてはきますが、現状として国の何かの補助があって、制度を修了した者が所属機関から手当等の上乗せをしてもらえるような話は聞いていません。

池田

今後、修了して登録された方がライセンス保持者とみなされるためには、今後どのようにしていけばよいのでしょうか。

村上

NP協議会のように称号を出していくことも一つとは思いますが、現在はあくまでも国の省令の中で法的には研修制度しか認められていない状況なので、簡単なことではないと思います。

ただ、この特定行為の研修を担う指定研修機関で協議会を立ち上げており、その協議会でも修了生のフォローアップや指定研修機関のフォローアップもしつつ、修了生のフォローアップの一つとして、報酬なども含め、彼らが働きやすい環境を国に提言していく立場を今後は取っていこうと思います。

様々な調査をしたり現状の把握をした上で提言につなげるようにしていき、ライセンスのかたちがいいのか、何か違うかたちがいいのかを模索することにはなると思います。社会的に認められていくための働きかけをできればいいと思っています。

池田

話をうかがっていて、法律がまだ付いていっていない状態だと感じています。ぜひ頑張っていただき、正式にライセンスとして認められるような状態になることを本当に希望しています。ありがとうございました。