ドクターサロン

池田

人間ドックなどでヘリコバクターピロリ菌に対するIgG抗体陽性による追加の検査依頼があり、お困りのようです。IgG抗体を調べるとは何を意味するのでしょうか。

小林

人間ドックなどではよく行われている、血液を採ってピロリ菌の有無を見る検査です。当然、抗体を見ているので、ピロリ菌自体というよりは間接所見を拾っていることから、簡単にピロリ菌の有無を判定できる検査という位置づけになっていると思います。

ただ、今回の指摘にあるように、簡便ですが当然どの検査もそうで、100%の精度とはいえない検査です。ヘリコバクター学会などでも、こういった間接所見だけ、抗体検査だけで、すぐに除菌をしましょうというよりは、慎重に次の検査を追加したりといった対応をしたほうがいいのではないかと言われています。

池田

IgG抗体陽性となると、患者さんのほうも、では自分の体の中に菌がいるのだなと受け取ると思いますが、抗体の評価をする際の数字としては、どのような評価をされるのでしょうか。

小林

一番多く使われている栄研化学のEプレートというEIA法を用いた抗体の判定方法があります。そちらだと、カットオフが10で、10以上であれば基本的にはピロリ菌の感染を疑うという対応になっています。

質問とは少し逆の話になりますが、実は偽陰性がなかなか問題になっていて、10をカットオフとしたときに10未満の方の中にも実はピロリ菌陽性だった方がいた。あるいは過去に除菌治療をしたといった方も多く見られています。

いま特に、3以上10未満に関しては陰性高値という位置づけにして、見過ごすようなことはせず、もしかしたらピロリ菌に感染しているかもしれないと考えてみるようにといわれています。

3未満であれば基本的には陰性という扱いでいいと思います。

池田

一方、最近ではラテックス法で判定されていますが、この方法だとそういうカットオフ等はどのようになっているのでしょうか。

小林

こちらに関しては、今だんだん置き換わってきているようで、ラテックス法のほうが費用もかからないですし、判定がすぐに出るという利便性もあります。特に健康診断などでは採血したその日に結果がわかることから使い勝手が良く、ラテックス法の割合が増えているのだと思います。

ただ、もともとのEIA法と比べてみると、ラテックス法のほうが偽陽性が出やすいということが報告されています。先ほど区切りとしてお伝えした3を超えている、あるいは10を超えている方は、従来の方法に比べると頻度が高いという報告が出ています。今後、ラテックス法が普及してくると、偽陽性がますます増えていく可能性があることは否めず、気をつけなければいけないと思います。

池田

あるいは、また偽陰性が増えるということもあるでしょうか。

小林

それぞれのキットに偽陰性の適切なカットオフの推奨値がありますが、本当にそこが最適な値なのかに関しては、まだ検討が必要な状況だと思います。

抗体法全般にいえることですが、この結果だけですぐ除菌するのではなく、もう一つ追加の検査を入れる。あるいは理想的には内視鏡検査をやっていただき、本当に萎縮やピロリ菌陽性の所見があるかどうかを併せて判断していくことが大事だと思います。

池田

質問にも書いてありますが、IgG抗体陽性になり、専門医に患者さんが紹介されてきますよね。このような場合は追加の検査としては、もちろん内視鏡で粘膜の所見を見ますが、そのほかにどのような検査をされるのでしょうか。

小林

今度は人間ドックから診療に移ってくる状況だと思うので、その場合には、まずは内視鏡検査を行っていただくのが一番です。もし結果的にピロリ菌が本当に陽性だった場合には、基本的には内視鏡検査と併せて除菌治療を行うと定められています。

内視鏡検査を行えばピロリ菌感染が疑われるかどうかは、経験のある医師であればほとんどの場合、判断できます。例えば、抗体検査陽性で内視鏡検査をやって明らかに萎縮があるのであれば次は除菌というステップでもいいと思います。内視鏡所見がそれに合致しない可能性があり、もしかしたらピロリ菌がいないかもしれないということを疑うときの方法に関しては、質問いただいている迅速ウレアーゼ検査が挙がっています。

そういった方法を使い、本当にピロリ菌がいるかいないかの確認を、次のモダリティでやっておくのが大事だと思います。

池田

迅速ウレアーゼ検査と尿素呼気テストは違うのでしょうか。

小林

内視鏡検査を行うという前提でいくと、迅速ウレアーゼ検査を行ってしまったほうが、その一連の流れで進められるところがあります。実際の運用の話も入ってくるとは思いますが、尿素呼気テストをやろうと思うと、基本的には別の日に絶食をしたりいろいろ準備をして、また少し時間をいただくことになります。

せっかく内視鏡検査を行ったのであれば、できる施設であれば迅速ウレアーゼ検査でもいいと思います。その辺りは、その施設のいろいろな都合で変わってくるとは思いますが、精度という意味ではどちらの検査でも悪くはないと思います。

ただ、ほかの方法もそうですが、尿素呼気テストはいろいろ制限があり、ピロリ菌の静菌作用があるPPIや抗生剤は事前に2週間ぐらいは中止しなければいけないなどの制限もあります。人間ドックではその辺りの準備が難しいところもあるので、その必要がない抗体検査が普及しているような状況だと思います。

池田

人間ドックで、ルーティンでヘリコバクターピロリ菌に対するIgG抗体を検査すると、少し混乱が起きてしまいそうですね。

小林

そうですね。簡便さはもちろんいいことですが、本来であれば対象の方をきちんと選び、除菌歴などをきちんと確認した上で評価をするべきだと思います。あとはどうしても人間ドックのセットで使われていることが多いので、繰り返し測ってしまう方も出てきます。それ自体はあまり意味のないことだと思うので、運用上の問題点はこれから整理していく必要があると思います。

池田

日本は胃薬も抗生剤もよく処方していますよね。そういった意図せぬところで、ピロリ菌の除菌が起こってしまうことはあるのでしょうか。

小林

実はそういう方がいらっしゃるようです。もちろん証拠はありませんが、何か別の目的で抗生剤を飲んでいるような方が、ピロリ菌に感染していたはずなのに、内視鏡検査をしたときには除菌後の状態になっているケースが一定数あるようです。

池田

そういう方もピロリ菌に対するIgG抗体が残ってしまうものでしょうか。

小林

除菌された時期にもよりますが、除菌して時間がたっていない方であれば陽性と判定されることもありますし、時間がたっている場合でも陰性高値と呼ばれる、陰性だけれど高い数値として残ってしまう場合があります。そういったところの見分けは、最終的には何か画像の検査を入れなければ正確にはできないと思います。

池田

一方、諸検査あるいは迅速ウレアーゼ検査も尿素呼気テストも陽性で、完全に除菌しなければいけないという方を除菌しますよね。その後、IgG抗体の値はどう推移していくのでしょうか。

小林

当然、下がるのに時間がかかってしまいます。目安としては、半年ぐらいで半分ぐらいに減れば、うまくいっているといわれています。

しかし、正確性には欠けますし、5年ぐらいたってもまだ陰性にならない方も見えるので、基本的に下がるには下がりますが、抗体の値で除菌が成功したかどうか判定をするのは、不正確になってしまいます。尿素呼気テストなどほかの検査で行うほうがいいと思います。

池田

除菌の成功を評価する方法は尿素呼気テストのほかには何かありますか。

小林

やり方も含め、尿素呼気テストが一番いいとは思います。ほかにも便中のピロリ菌抗原を見るなどの方法もありますが、おそらくいま一番普及しているのはこの方法ではないかと思います。

池田

便中の抗原を見つける方法が行われていると聞きましたが、精度や感度を含め、尿素呼気テストが今のところは信頼性が高いということでしょうか。

小林

便中のピロリ菌抗原を見るのは、精度が高くいい検査だと思いますが、当然、便を採ってきてもらうなど運用上のところで若干敬遠される施設があると思います。

池田

これも偽陽性とか偽陰性があるのでしょうか。

小林

もちろん、どの方法をやったとしてもそれぞれ数%だと思いますが、偽陽性、偽陰性は出る可能性があります。そういった場合、臨床所見と合致しない場合には必ずもう一つ検査を追加してみる。2つまでの検査であれば保険も適用されるので、きっちり確実な診断をしていくことが推奨されています。

池田

それで、確実にピロリ菌に感染しているのがわかった時点で除菌を始めるということですね。ですから、IgG抗体陽性だからといって安易に除菌することは絶対に行わず、まずは専門医で内視鏡検査、適宜迅速ウレアーゼ検査や尿素呼気テストを受け、確定診断をした上で除菌をしていくのですね。

小林

それが大事だと思います。

池田

どうもありがとうございました。