山内
まず、薬剤性肺障害を生じる薬剤としては抗がん剤がすぐにピンときます。あと、一部の漢方薬がありますが、この辺りが多いと考えてよいでしょうか。
齋藤
私たちが普段診ている薬剤性肺障害で一番多いものは抗がん剤によるものです。抗がん剤もいろいろな種類がありますが、その中でもわりと発症頻度の高いものもよく知られています。
特に、最近よく使われている免疫チェックポイント阻害薬は肺障害をしばしば起こします。あとは分子標的治療薬です。今、かなりの数がありますが、その中でもわりと肺障害を起こしやすいもの、それほど起こさないもの、いろいろあります。今までの日本を中心としたいろいろな疫学調査の結果から、だいたいこの辺が起こしやすいということはわかってきています。
山内
大ざっぱにですが、頻度的にはどのくらいありますか。
齋藤
先ほど申しました免疫チェックポイント阻害薬だと、おそらく少なくとも10%ぐらいは起こすのではないかと思います。PD-1やPD-L1などに作用する薬で、現場ではけっこうな頻度で起こっています。
山内
一方で、この質問のDOACはあまり多くはないのですか。
齋藤
私もDOACによる肺障害の経験はほとんどありませんが、調べてみると症例報告は幾つかあります。何パーセントかはわかりませんが、電子添文を見ても頻度不明と書かれているので、かなり低いだろうと思います。
山内
一般論として、薬剤性の肺障害は基本的には間質性の変化が中心と考えてよいですか。
齋藤
薬剤性肺障害というと一番多い病型としては、間質性肺炎、間質性肺疾患と呼ばれるものです。その他、まれに気道病変、胸膜炎などもありますが、薬剤性肺障害というと、ほぼイコール間質性肺炎といっていいと思います。
山内
発症時期ですが、投与開始から見て比較的早い時点で起こるものでしょうか。それとも、ゆっくりとじわじわ来るものもあるのでしょうか。
齋藤
比較的早い時期に起こりやすいと言われているものもありますが、いつ起こるかは患者さんによってもまちまちですし、中には1年以上使用して起きるケースもあります。実際、DOACの症例報告を見ていても、1年以上たってから発症したという報告もあります。
山内
抗がん剤を含めて投与した薬剤のdose dependencyはあるものでしょうか。
齋藤
実際、臨床試験の中でも用量依存性に発現することが確認されているものもありますが、逆に投与のごく初期に発現してしまうものもあるので、必ずしも用量依存というわけではないと思います。
山内
質問に戻ります。DOACによる肺胞マクロファージや好中球に対する影響があるようですが、これとの関連に関してはいかがでしょう。
齋藤
非常に難しい質問で、まだわかっていません。
一般的な薬剤性肺障害のメカニズムも実はあまり解明されていませんが、2つのパターンが想定されています。一つは細胞障害性の機序。もう一つは免疫系細胞の活性化。DOACに関してどちらが当てはまっているのかは、まだわかっていません。
山内
その辺りの一般論からいって、抗がん剤が主軸になると思いますが、抗がん剤の場合はどのような機序が中心と考えられていますか。
齋藤
抗がん剤も細胞障害性機序が主体のものもあるでしょうし、免疫細胞の活性化が主体のものもあるでしょうし、両方関与していることもありうると思います。
山内
ただ、普通に考えて、マクロファージ、好中球は全身の臓器に関与するし、作用すると思われるので、なぜ肺だけが、なぜ肝臓だけがという疑問も出てきます。肺という臓器に関しては、こういった免疫一連のものに独特の反応で、何か知られているものがあるのでしょうか。
齋藤
そこは本当に難しいところで、よくわかりません。薬の副作用として肺だけに出てくるものもありますし、肺に出て皮膚にも同時に出てくるケースもあるので、なぜ肺だけがというのも、まだ本当にわかりません。
山内
DOACは非常にまれということなので、抗がん剤も含めて、こういったものを使うときは、何かでモニターするのでしょうか。
齋藤
DOACの肺に対しての副作用、特に間質性肺炎の副作用は非常に少ないと思います。ただ、時に血痰が出るとか、喀血を経験することはあります。
そういった患者さんの中には、例えば気管支拡張症や気道病変など肺にもともと病気があり血痰が出やすい人もいます。必ずしも薬剤性肺障害という意味ではありませんが、そういったケースがあるということです。
ただ、多くの患者さんは肺の状態がよくわからないまま使っています。血痰、あるいは喀血、それから風邪や肺炎にしてはおかしいような咳が長引くとか、何か変化があったときは詳しく調べる必要があると思います。
山内
抗がん剤の場合だと頻度もわりに高いようですから、定期的に肺のCTを撮ることもモニターとしてありと考えてよいですか。
齋藤
抗がん剤の中でも特に肺障害を起こしやすい、かなり高い頻度で起こす薬剤を使っている場合には、定期的な胸部X線やCTでのモニタリングは有効だと思います。肺障害も中には症状がない状態もありうるので、画像で初めてわかることがあります。DOACに関しては、頻度はおそらくかなり低いと思うので、特に画像でモニタリングする必要性まではないかと思います。
山内
症状が出てきてからの確認でいいですか。
齋藤
はい。そう思います。
山内
基本的には咳、血痰といった話もありましたが、あとは息苦しさ、発熱といった感じですか。
齋藤
そうですね。呼吸困難や発熱があります。
山内
急に出てきた場合は、比較的気づきやすいですが、使い始めて1年もたってからでは、診断がなかなか難しいですね。
齋藤
そうですね。そこはピットフォールというか、なかなかすぐ副作用だと想定できないこともあります。ただ、症状が長引いたり強い場合は詳しい検査をします。例えば胸部CTを撮ってみるとか、専門医にそのまま紹介するとか、そういった対応をしていただければよいと思います。
山内
DOACの場合、もし万一、肺に陰影が出たら、中止してワルファリンに変更してよいのでしょうね。
齋藤
ただ、影が出たイコール間質性肺炎とも限りませんので、まず影の性状やほかの自覚症状などを総合的に考えます。よく鑑別の対象になるのは、一般的な細菌性肺炎や感染性の肺炎なので、どちらがより疑わしいかをまず考えていただきます。感染性の肺炎が疑わしければ、まず抗菌薬投与で様子を見てもいいと思いますし、それらしくなければ専門医に紹介していただくことがよいかと思います。
山内
最後に一般論でけっこうですが、薬剤性間質性肺炎の予後ないし治療に関してうかがいたいと思います。
齋藤
予後は間質性肺炎のタイプにより、大きく違います。予後が最も悪いものは、例えばARDS(急性呼吸窮迫症候群)と同じような、びまん性肺胞障害というパターンで発症するとかなり悪く、半分ぐらいの方は亡くなってしまいます。
逆に、アレルギー反応のようなパターン、過敏性肺炎や好酸球性肺炎にはステロイドがよく効くので、そういったパターンで発症した患者さんに関しては、予後はよいということが言えると思います。
山内
この場合には、パルスのような、かなり高用量のステロイド治療になるのでしょうか。
齋藤
例えば、呼吸不全があるとか症状が強い場合にはステロイドパルス療法がよく用いられます。ただ、症状が軽い、あるいは無症状ということもありますが、予後がよさそうで症状が軽い場合には、パルス療法まで行わずに、経口のステロイドで治療することもあります。
山内
中には、薬なしで自然に消えていくこともありうるのでしょうか。
齋藤
もちろん、そうです。例えば無症状で影の程度も軽い場合に関しては、薬をいったんお休みして、慎重に経過観察しながらということもありますし、それで治っていく方もいます。
山内
抗がん剤だといろいろな種類がありますから、別の抗がん剤にするかたちで乗り切るということでしょうか。
齋藤
原則として、原因となった薬剤は使わない、避けるのが昔からの考え方です。ただ、最近の抗がん剤を見ていると、比較的軽い薬剤性肺障害の場合は、いったん休薬して治ったら、もう一回使うことが許容されているものもあります。その辺は薬剤ごとに適正使用ガイドがあるので、そちらの説明を確認して使っていただくとよいと思います。
山内
ありがとうございました。