池脇
治療抵抗性高血圧についての質問です。私の専門は脂質異常症、動脈硬化ですが、診ている患者さんで一番多いのは高血圧です。内科医でしたら、高血圧の患者さんを本当にたくさん診ておられて、その中でこの質問のような患者さんは年に何人かはいらっしゃるかと思います。
まず、確認したいのは、治療抵抗性高血圧とありますが、難治性高血圧という表現もときどき目にします。これは同じと考えてよいのでしょうか。
下澤
概念的には同じです。「きちんと治療をしているにもかかわらず、降圧目標値を達成できない人たち」と考えていただければと思います。
「きちんと治療をしている」とは、生活習慣の改善も含まれますし、薬の投与量の問題、組み合わせの問題なども含めて考えていただければと思います。
池脇
薬だけではなく、塩分摂取、生活習慣、その方が自宅で血圧をきちんと測っているか。まずは、その辺りをチェックすることが大事ですね。
下澤
すごく大事だと思います。血圧は、まず患者さんに家で測っていただくものですから、きちんと測れているのかをチェックします。血圧計によっては、指先や手首で測定するものは上腕で測定するものより少し高めに出てしまうことがあります。不整脈のある患者さんなどは、家庭血圧計で正確に測れないこともあるので、その評価には注意が必要です。
また、医師が外来で測るときもカフの幅に気をつける必要があります。肥満患者を普通の細いカフで測ってしまうと、血圧が高めに出てしまいます。きちんと大腿用の太いカフを使って測っていただくといった基本的なところを一度確認してください。
あるいはカフェインをとった直後や、たばこを吸った直後は避けていただく。そういったところから、まずはチェックしていただくというところでしょうか。
池脇
あとは、薬をきちんと飲んでいるかどうか。アドヒアランスがいいかどうか。正しい申告をしていただけるかどうかわかりませんが、それもチェックが必要ですね。
高血圧の方は減塩も大事ですが、「少し味を濃いめにしていませんか?」と言われても、患者さんとのやりとりとしては難しくなります。私は、随時尿でナトリウムとクレアチニンが何グラムというのが出ると、1日の食塩摂取量の推定式に年齢や身長、体重を入れて、ときどき使っています。正確性はともかく、何か数値にするのは大事ですよね。
下澤
そうですね。患者さんにとって、数値化されるのは見える化につながるので、私もよく尿中のナトリウム、クレアチニンは測らせてもらっています。ガイドライン上は早朝第二尿となっていますが、実際の臨床の中では難しいので、いつでもいいと思います。
また、図の推定式も非常に複雑なので、簡単にするには、塩1gがナトリウム17mEqですから、ナトリウムをグラムクレアチニンで補正して17で割っていただくと、だいたいの塩分摂取量になります。それが170を超えていると、10gを超えていると考えてよいと思います。
池脇
解熱剤や、経口避妊薬のほかにも、漢方でも血圧に悪影響を及ぼすものもあるので、念のため、その確認も必要ですね。
下澤
そうですね。特に甘草はいろいろな漢方の中に入っているので、お薬手帳などを一度チェックされるとよいかと思います。NSAIDsも長い間使っていると、血圧を上げてしまう副作用があるので、その辺は気をつけていただきたいと思います。
池脇
そのうえで、どうもその辺りは問題がなく、治療抵抗性のため3剤ぐらい薬を使っている。日本の今の降圧剤の使用割合はカルシウム拮抗薬とARB、そして利尿剤が一番多いと思います。それらを使っているけれども血圧が高いときはどうしたらよいのでしょうか。
下澤
まずは、きちんと保険で認められている最高用量まで使っているかを確認します。
例えば日本で一番よく使われているのは、アムロジピンですが、10㎎までは使っていただきたいと思います。ARBもそれぞれ最高用量が決まっているので、そこまできちんと使っているかをご確認ください。
サイアザイドに関しては、昔は確かに50㎎や25㎎を使っていました。今はさすがにそこまでは必要ないと思いますが、12.5㎎をしっかり使っているかの確認が必要です。
あるいはサイアザイドの場合、腎機能に依存するところが多少あり、eGFRが30を切ってくるとサイアザイドの効きが悪くなります。その場合にはループ利尿薬で、特に長時間作用型のものをお使いいただき、それが十分用量入っているのか、確認いただきたいと思います。
池脇
例えば、アムロジピンを朝5㎎飲んでいる方で、増量しなければいけないというときに、朝を10㎎にするのか。それとも患者さんの手間にはなっても、朝と夕方に分けるのか。どちらがいいのでしょうか。
下澤
これは一時期、夜飲ませたほうがいいのではないかという論文がスペインから出ましたが、どうもデータが怪しいということでretraction(取り下げ)になりました。
今のところ、クロノロジカルに薬を飲む時間を決めるのは、特に早朝高血圧の患者さんなどではそういうことがありますが、一般的には、アムロジピンの半減期は36時間ありますから、普通の患者さんでしたら朝1回でよいかと思います。
池脇
そこもオーケーだとなったら、いよいよ何を追加するかという話になりますが、今はどういう薬を使う傾向があるでしょうか。
下澤
まず、二次性高血圧が隠れていないかが非常に重要です。特に原発性アルドステロン症は頻度が高く、我々の経験だと10%ぐらいの患者さんが原発性アルドステロン症ですから、そこで1回、レニンとアルドステロンを評価していただきたいです。
日本だと、リドル症候群のように両方とも低いという方はあまりいらっしゃらないので、アルドステロンが高かったら、抗アルドステロン薬(MRA)がサイアザイドの上にさらに乗せる薬として有効だと、よく言われています。
池脇
いま私はその一番大事なところを飛ばしてしまいましたが、ARBも投与されている状況で、原発性アルドステロン症を疑う。しかし、薬が少し投与されていると、偽陽性の可能性もあり、一般的にはちょっとやめなさいとか、CCBで何とかしなさいと書いてありますが、現実問題、なかなかできません。
下澤
休薬は考えなくていいです。ARBが投与されていれば、アルドステロンは、普通は抑制されるはずですが、原発性アルドステロン症の場合、そもそも高いので抑制が効きません。レニンは抑制されているから大丈夫です。
池脇
では、そのうえで診ても、誤診につながることはないのでしょうか。
下澤
そんなことはないと思います。
池脇
そうすると、そういう場合にはMRAがいいのですね。確かに最近、MRAを加えると比較的落ち着くような症例を経験しました。いわゆる治療抵抗性で何かプラスアルファするときに、MRAはよく使われているのですか。
下澤
MRAもよく使われます。もちろん、βブロッカーもαブロッカーもお使いいただいて全く問題ないと思います。
それでも駄目なときには、中枢性降圧薬、昔使っていたレセルピンのようなものを少量だけ加えたりしています。交感神経の関与はすごく大きいので、交感神経を抑制するところで使ったりします。
池脇
これはMRAでいくのか、βブロッカー、要するに交感神経を少し落とす方向でいくのか。患者さんにより「この人にはこちら」という判断材料は何かあるのですか。
下澤
アルドステロンが高い方はMRAになりますが、心拍数が高く、若い方だとβブロッカーがよいかと思います。
ただ、ここで気をつけなければいけないのは、褐色細胞腫が隠れていたときにβブロッカーから投与を始めると、逆に血圧が上がってしまいますから、αブロッカーを一緒に投与する必要があります。あるいはαβが1対1のブロッカーを使っていただくこともよいと思います。ただし褐色細胞腫は非常にまれです。
池脇
血中のアルドステロンは上がり下がりがけっこうあるので、少し高いのをどう判断するのかは難しいですね。
下澤
はい、難しいです。特に最近、測定方法が変わったので、難しいと思います。60を超えてきて、レニンが完全に抑制されているような状況だと、MRAを先に投与しようかと考えます。
池脇
今までの先生のお話は、MRAとβ、あるいはαβ、そして私は最近使った記憶がないですが、中枢性を考えるということでした。
それでもという場合、何か新たに開発された、あるいは開発中の薬はありますか。
下澤
あります。世界ではエンドセリンのデュアルブロッカー、エンドセリンの受容体AとBがありますが、両方をブロックするのがいいのではないかとか、アルドステロンの合成薬の開発も行われています。
それから、今はもう日本で使われていますが、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)がどうなのかはまだ不明な点も多いです。ARNIを高血圧に対して使える国は限られています。データが少ないですので今後わが国からエビデンスが出るといいですね。
あと日本では、いま腎臓の除神経の治験が行われています。最初の報告は治療抵抗性の人たちによいと海外から出ましたが、その後いろいろと行ってみると必ずしもそうでもないので、日本でどうなのか、進行中です。ヨーロッパやアメリカでは認可されているので、今後いろいろなデータが出てくるのではないかと思います。
池脇
腎デナベーションは放射線の医師が行うのですか。
下澤
循環器の医師も行います。そこは施設で違うと思います。
池脇
エンドセリン受容体拮抗薬は肺高血圧の治療薬ではなかったかと思いました。
下澤
糖尿病性腎症などを含めてエンドセリン受容体拮抗薬は、今いろいろな治験が進んでいます。
池脇
新しい情報までお話しいただき、ありがとうございました。