池脇
味覚障害についての質問をいただきました。私はあまり詳しくないのですが、味をあまり感じなくなることが味覚障害というイメージがあります。味覚障害もいろいろなタイプの障害があるのですね。
木村
先生のおっしゃるとおり、味覚障害といっても、味が薄い、しないのほかに、例えば甘いものを苦く感じてしまったり、逆に味に過敏になってしまったり、違う味がするものもあります。最初にお話ししたのは量的味覚障害に分類されますが、後者は質的味覚障害という、味の質が変わってくる味覚障害です。
池脇
患者さんの訴えを聞けば、量的なものか、質的なものかはある程度は区別がつくにしても、どうしてそういう障害が起きるのか。味覚は感覚器なので加齢でも衰えていくとは思います。その辺りの原因は、どの程度明らかになっているのでしょうか。
木村
原因として最も有名なのが亜鉛欠乏によるものです。味覚の細胞、味細胞はターンオーバーの早い細胞で、平均10日ぐらいで入れ替わるといわれていますが、亜鉛はターンオーバーにすごく大事な微量元素となっています。ですから、一番大きく働くのは亜鉛の欠乏です。
その他の原因として考えられるものは、Plummer-Vinson症候群という鉄の欠乏や舌炎がベースにあるような場合です。ハンター舌炎というビタミンB12の欠乏症もあります。その他は口腔の乾燥です。味は唾液に味物質が溶け、それが味細胞に提示されていきます。口腔乾燥で唾液がなかったり、例えば舌苔が多く付着しているような方であれば、そういった伝達物質が味細胞に伝わっていきません。そのような背景疾患により、味覚障害は起こってきます。
池脇
味細胞が味覚をキャッチしたり、味細胞の新陳代謝に特に亜鉛が重要なのですね。以前、亜鉛の話をうかがったときに、高齢施設の方々の亜鉛濃度を調べたら、確か7~8割ぐらいの方が欠乏と言えるぐらいのレベルだと聞いたことがあります。けっこう多いのでしょうか。
木村
吸収の問題と、あとは併用薬剤の問題もあります。併用薬剤によっては、亜鉛の吸収を阻害してしまうようなタイプのものもあります。ご高齢の方だと、どうしても薬を飲んでいる方が多いので、そのようなことがあります。
池脇
そうですね。確かに唾液が十分出ていないと、味細胞まで到達しなければ味を感じようもないということで、口腔内の環境も大事なのですね。
木村
非常に大切です。
池脇
においが欠けると味にも影響してくるのでしょうか。
木村
風味障害という言葉を聞かれたことがあるのではないかと思いますが、においがわからないと味覚も当然弱ってきます。今回COVID-19の流行初期に行われた嗅覚味覚障害に関する全国調査に私も参加させていただいたのですが、多くは味覚の障害というよりは嗅覚の障害がメインで、味も感じにくいと感じられている方が多かったという結果が出ています。
池脇
確かにコロナは、味覚障害、嗅覚障害が話題になりました。それまでそうした症状が全然なかった人が急になったら、それこそコロナを疑ったほうがいいのではないかというぐらいでしたよね。私は何となくウイルスが味細胞を攻撃したのかとも思いましたが、ターンオーバーが早ければ回復しそうなものです。しかし、まだはっきりとした原因まではわかっていないのですか。
木村
ウイルスが口腔粘膜あるいは嗅細胞に侵入して起こるというメカニズムはだいぶわかってきていますが、どちらかというと嗅覚障害のほうがポイントで、風味障害がメインといったところかと思います。
池脇
我々は味覚障害検査はやったことがありませんが、耳鼻咽喉科や口腔外科の医師は味覚障害に対し検査をされていると思います。どういう検査がありますか。
木村
先ほどもお話ししましたように、例えば亜鉛です。それに関連したアルカリフォスファターゼ、銅を検査します。また、鉄、ビタミンB12や口腔乾燥のある方では抗SS-A、抗SS-Bといったシェーグレン症候群などの血液生化学的検査を行います。
あと、前後してしまいますが、ガムテストという唾液の分泌を見る検査があります。シェーグレン症候群のときに行う検査ですが、唾液の分泌を調べることができます。
実際の味覚の検査としては電気味覚検査と、ろ紙ディスク法という検査があります。電気味覚検査は電気的刺激で味を感じるかを見る検査になります。味覚は顔面神経由来の鼓索神経と舌咽神経由来の神経が感覚を支配していますが、2つの神経の支配領域を刺激して閾値を見るのが電気味覚検査です。
もう一つ、ろ紙ディスク法は、各支配領域に味の5大要素のうちの塩味、甘味、苦味、酸味の4つを染み込ませたろ紙の丸いディスクを置き、それぞれ濃度を変え、感じるか感じないかを患者さんに答えていただくという、少し時間と手間がかかる検査です。
しかし残念ながら、薬剤が販売中止になってしまいました。院内製剤でそういったものをつくっている熱心な施設はありますが、いまは検査が滞っているような状況で、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会でも何とかしなくてはならないと動いているところです。
池脇
確かに最後に言われた、ろ紙ディスク法は味の成分をろ紙に染み込ませ、どう感じるかという、すごくたいへんなものですが、それがないと、どこの味覚が障害されているかは、なかなかわからない。
最初の電気味覚検査は、味細胞ではなく神経の顔面神経、舌咽神経のところに問題がないかというアプローチですね。
木村
そうですね。
池脇
最終的にはどうやって味覚障害から患者さんを救うかということですが、おそらく今まで話に出てきた中で、もし亜鉛が低いということになれば、亜鉛を補充するという辺りから始まるのでしょうか。
木村
はい。亜鉛を補充します。採血で80μg/dLが正常値とされていますが、60μg/dLが亜鉛欠乏、60~80μg/dLぐらいが潜在的亜鉛欠乏となるので、60~80μg/dLぐらいであれば亜鉛補充の治療を開始します。
いろいろ薬がありますが、ポラプレジンクという薬は本来、胃潰瘍の薬で、味覚障害に対する適応はありませんが、保険上は通ることが厚生労働省から通達されています。
もう一つは酢酸亜鉛の薬です。こちらのほうが亜鉛の含有量がずっと多いのですが、薬価が非常に高いため、私はポラプレジンクを最初に使うようにしています。
池脇
原因とすると、亜鉛欠乏が多いですか。
木村
圧倒的に多いと思います。最初に味覚障害を訴えられる患者さんがいらしたら、まずは亜鉛の補充を行ってみるのがよいかと思います。
池脇
話は戻りますが、亜鉛欠乏の場合の味覚障害は、質的、量的ではどちらのタイプが多いでしょうか。
木村
どちらも起こしうると言われています。
池脇
漢方薬も時々使われているようですが、先生も亜鉛欠乏に漢方薬を使うことはありますか。
木村
もちろん使っています。例えば食欲減退に対しては補中益気湯や十全大補湯を使っていますし、異常味覚があれば八味地黄丸、口腔乾燥がある方に対しては麦門冬湯や白虎加人参湯を使っています。
池脇
亜鉛から始まり漢方薬まで先生方は幅広く対応されているということで、勉強になりました。ありがとうございました。