国際会議などで外国からのお客さんを招待する際には「盛大な拍手をお願いします」のような表現が必要となりますが、皆さんはこれをどのような英語で表現していますか?
「拍手する」には様々な英語表現がありますが、多くの人が「手を貸す=助ける」という意味だけで理解している“Let's give her a hand.”にも「拍手する」という意味があります。ただこれはカジュアルな表現ですので、招待客やゲストスピーカーなどには“Let's give a round of applause.”や“Please put your hands together for a warm round of applause.”のようなフォーマルな表現を使うようにしましょう。
このように「手」handに関する英語表現には、医師として知っておきたいものが数多くあります。
on handは「手元にある」という意味で、“We have flu vaccines on hand for the season.”のように使います。そしてout of handはout of controlと同じように「手に負えない」という意味になり、“Let's address this issue before it gets out of hand.”のように使います。
「総動員」という意味で使われる表現としてall hands on deckというものがあります。これはすべての「人手= hands」を船のdeck上に総動員して悪天候などを乗り切るというイメージから生まれた表現で、“We have an emergency, all hands on deck in the ER now.”のように使います。
また一見すると意味がよくわからない表現もあります。
“She is hands down the best nurse we have.”で使われているhands downとはどんな意味なのでしょう?これがhand downのように動詞として使われる場合は「手渡す」「伝える」という意味になるのですが、hands downとして複数形で使われる場合には「間違いなく」や「ぶっち切りで」という意味になります。これは競馬から生まれた表現であり、馬が大きくリードしている際には騎手はhands down、つまり手を下ろして余裕を持った状態でレースを終えることができます。このように非常に容易、またはほかの選択肢と比較して明らかに優れている場合にこのhands downという表現を使うのです。
“His clinic has been making money hand over fist since the expansion.”のhand over fistとはどんな意味でしょう?ロープを手繰り寄せる際、ロープをつかんだ拳の上に手を重ねますが、このhand over fistはまさにそのイメージの表現であり、「グイグイと自分側に引き込む」というイメージを与えます。ですからmaking money hand over fistという表現は、「どんどんとお金を稼ぐ=ボロ儲けする」という意味になるのです。
“We work hand in hand with the local pharmacy to manage prescriptions.”のhand in handは「手と手を取って=協力して」という意味ですが、これが“We work hand in glove with the local pharmacy to manage prescriptions.”のようにhand in gloveとなると「手袋に入った手が手袋と同じように動くように=密接に連携して」 という意味になります。
このようにhandにはこれ以外にも数多くのイディオムがあるのですが、「手の指(手指)」fingersにも実に様々な表現があります。
“Keep emergency contacts at the tip of your fingers.”で使われているat the tip of one's fingersとは「指先にある=いつでも思い出せる・取り出せる」という意味で、“Keep emergency contacts at your fingertips.”とも表現します。
“Be careful when handling the new lab equipment; we don't want any butterfingers in the examination room.” で使われているbutterfingersは、「バターがついた指=物をよく落とす指」 という意味になります。
日本でも人差し指を左右に振って「チッチッチ」と言えば「ダメだよ」 のような意味になりますが、英語圏でのfinger-waggingやfinger-wagには上から目線のニュアンスが強くなり、バスケットボールの試合などで相手を打ち負かした後に相手を侮辱するような場面で使われたりします。患者さんに対しては“I'm not here to wag my finger at you, but it's important to understand how smoking affects your respiratory health.”のように使うことができるので、「叱る」「厳しく指導する」という意味でwag one's finger at someoneという表現を覚えておきましょう。
「人差し指」はindex finger、「中指」 はmiddle finger、「薬指」は結婚指輪をつける指なのでring finger、そして「小指」はlittle fingerやpinkyと呼ばれますが、「親指」だけはthumbとなってfingerとは呼ばれません。
“As a rule of thumb, I recommend drinking at least eight glasses of water a day to maintain good hydration, especially during hot weather or if you're physically active.”で使われるrule of thumbというのはどういう意味なのでしょう?この表現は「親指の幅を基準として測定する」という古い習慣から生まれたと考えられています。欧米の成人男性の親指の幅は1inch=2.54cmとされ、様々なものを測定する際の便利な道具として使用されていました。これが転じてrule of thumbというのは「経験に基づく一般的な法則」という意味で使われるようになり、as a rule of thumbは「経験的に言うと」や「一般的に言うと」のような意味で使われています。日常会話でもよく使われる慣用表現ですので、知らなかった方はぜひ覚えておいてください。
ちなみにinch/inches(in)とfoot/feet(ft)の間には12in=1ftという関係があります。名前のとおりfootは欧米人の足の長さから生まれた尺度であり、1ft=30.48cmとなります。またyard(yd)とは3ft=1ydという関係もありますので、これらの長さの単位の関係を知らなかったという方は、これを機会にぜひ覚えてみてください。
“During my first few days at the clinic, I felt like I was all thumbs while using the electronic health record system, but now I'm getting the hang of it.”で使われているall thumbsはどんな意味になるのでしょう?「すべてが親指」と聞くと「すべての指でthumbs up=めっちゃイイね!」のように誤解してしまうかもしれませんが、これは「すべての指が親指=不器用」という意味になるのです。
日本語にもなっているthumbs upですが、これは両手の親指を上げているイメージがあるためにthumbsのように複数形になっています。一見するとカジュアルな場面でしか使えないと思われがちですが、“Once your lab results come back clear, it's a thumbs up to resume your normal activities.” のように患者さんに対して「大丈夫です」という意味で使うことも可能です。
これら「手の指(手指)」fingersと「足の指(足趾)」toesを総称してdigits と呼びます。日本語の「デジタル」は英語ではdigitalとなりますが、この本来の意味は「指の」というものであり、そこから「指で数える数字」、そして「0と1で置き換えられる情報」という意味で使われるようになりました。ただ医療現場で“Let's perform a digital.” と言えば、それはdigital rectal examination(DRE)「直腸指診」の意味になります。
「手指の爪」は単にnailと呼ばれるほか、「親指の爪」はthumbnailと、「母指以外の手指の爪」はfingernailと呼ばれます。日本語として定着した「サムネ」も、本来は「thumbnailの大きさの小さな画像」という意味なのです。これに対して「足趾の爪」はtoenailとなります。足趾に多い「巻き爪」は「内側に成長する足趾の爪」というイメージからingrown toenailsと呼ばれます。もちろん手指の巻き爪はingrown fingernailsとなります。
「関節軟骨」articular cartilageが「擦り減る」wear and tearすることで生じる「変形性関節症」osteoarthritis(OA)では、2つのinterphalangeal(IP)jointsに特有の「結節」nodesが生じますが、このうちproximal interphalangeal(PIP)jointに生じるものをBouchard's nodes「ブシャール結節」と、そしてdistal interphalangeal(DIP)jointに生じるものをHeberden's nodes「へバーデン結節」と呼んでいます。ただ英語での実際の発音はそれぞれ「ブシャーヅ」や「ヘバデンズ(もしくは「ヘバディンズ」)」のようになるので注意してください。
これに対して「関節滑膜」synoviumの炎症で生じる「関節リウマチ」rheumatoid arthritis(RA)では、屈曲したPIP jointの骨がその部位の腱にボタン状の穴を開けるという「ボタン穴変形」が生じます。英語ではこれをbuttonhole deformityではなく、boutonniere deformityと表現します。このboutonniereとは「上着の襟のボタン穴」という意味なのですが、そこから転じて「上着の襟のボタン穴につけるアクセサリー」という意味としても使われており、日本語でも「ブートニエール」 という表現で定着しています。ただ英語ではboutonniereは「ブートニィァ」 とフランス語のように発音されるので注意してください。またrheumatoid arthritisのrheumatoidも「リゥマトィド」ではなく、「ルゥマトィド」のような発音となります。多くの日本人が日本語の「リウマチ」に引きずられて「リゥマトィド」のように発音していますので、これを読んでいる皆さんは正しい「ルゥマトィド」のような発音をするようにしてくださいね。
知って楽しい「
第32回 手に関する英語表現
国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター教授
国際医療福祉大学大学院「医療通訳・国際医療マネジメント分野」分野責任者
日本医学英語教育学会理事
押味 貴之 先生