多田 まず、潰瘍性大腸炎の病態について教えていただけますか。
加藤 潰瘍性大腸炎は、肛門に一番近い消化管である大腸に炎症を起こし、そのために下痢、血便を生じる疾患です。若い人に比較的起こりやすく、慢性的に下痢、血便が起こるものですから、若い人が仕事や勉強をする際に、日常生活のQOLをかなり損なう疾患です。
多田 そういった症状を訴えてきた患者さんの診断法は、どういったものがあるのでしょうか。
加藤 基本的には、2週間以上止まらない下痢、血便の患者さんが来院された場合には、少し疑って大腸内視鏡検査をします。この検査で、ほぼ診断をつけることが可能だと思います。
多田 次に治療法です。これまで多くの方策が取られてきましたが、歴史的流れも含め、治療について教えていただけますか。
加藤 基本的には免疫が悪さをする病気なので、昔から免疫を抑える治療、すなわちステロイドが使われてきました。ご存じのとおり、ステロイドはずっと使っていると副作用がけっこうあります。ステロイドをずっと使うべきではないということから、ステロイドで抑え、その後、5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)という副作用が少ない、粘膜を保護するような薬で寛解を維持することが行われてきました。5-ASA製剤はメサラジンとも呼ばれますが、寛解を維持するためにずっと飲み続けます。
多田 それが基本なのでしょうか。
加藤 はい。それが基本です。
多田 病態が激しいときは、病態を寛解しなければいけませんが、寛解導入療法と寛解維持療法はどう違うのでしょうか。
加藤 寛解導入療法は、病勢の本当に軽い人は5-ASA製剤でも可能です。一方、病勢のやや強い方は、まずステロイドを使い、その後、5-ASA製剤で維持治療するのが基本的な流れです。
病勢のもっと強い人や、ステロイドを減らしてきて5-ASA製剤だけにするとすぐ再燃してしまうような人の治療に難渋することが、これまで多々あり問題でした。最近は生物学的製剤、JAK阻害薬といわれる分子標的薬が非常にたくさん上市されてきて、ステロイド依存など治療の難しい方に対しても、そういった新しい治療薬で治療ができるようになってきています。
多田 サイトカインの嵐のようなものが腸管に起こったと理解すればよいでしょうか。
加藤 おっしゃるとおりです。いろいろなサイトカインが暴れているかたちになっています。代表的な薬として抗TNF-α抗体などを使うことがありますが、TNF-α、その他多くのサイトカインがいろいろ暴れ回っているような状態です。しかし、TNF-α抗体がよく効く人もいれば、同じような病態なのに、あまり反応しない方もいます。
ほかのサイトカイン製剤として、インターロイキン(IL)-12、IL-23といったものをターゲットとした分子標的薬、ヤヌスキナーゼ(JAK)といったタンパクを抑えるような分子標的薬も出ています。
どの患者さんにどれが効くのか、どの患者さんはどのサイトカインがメインに暴れているのか、事前になかなか予測がつかないところが、まだ少し治療の難しいところになっています。
多田 一つの病態ではなく、幾つか異なる原因による病態が同じようなパターンを出している。基盤としてはサイトカインがあるということですね。
加藤 おっしゃるとおりです。内視鏡などで同じように腸の炎症を起こしているように見えても、また、同じような病態でも、ベースで起こっているサイトカインの組成などは一人一人違うので、病態が多様で一筋縄ではいかない。まだ潰瘍性大腸炎が難病というくくりに入ってしまう一つの原因であるかと思います。
多田 病態が複雑であることも、最近様々な薬が出てきたことによりわかってきたのですね。
加藤 おっしゃるとおりです。
多田 古典的にはメサラジンやサラゾスルファピリジンなどを使って治し、それで駄目な場合は今もステロイドの注腸も使うのですか。
加藤 もちろん、あります。5-ASA製剤の注腸もありますし、ステロイド系の注腸もあります。注腸は液体で、お尻から入れると違和感を覚えることがあるので、最近はフォーム剤というヘアムースの泡のようなものに薬を溶かし込み、お尻から入れる、といった薬剤も開発されています。
多田 非常に便利ですね。
加藤 違和感が少ないので、患者さんの受け入れは非常によいです。
多田 なかなか治りにくい患者さんの場合、様々な免疫調節剤を使います。こういった薬は血液の専門医が得意な部分もあると思いますが、そういった薬も扱うことがありますか。
加藤 あります。一番よく使われるのはアザチオプリンやメルカプトプリン、昔からある免疫調節薬といわれるものですが、そういった薬を上手に使い、うまく維持していくことが可能な方もいます。
多田 まずどういう薬を使っていこうかという順序のようなものがあるのでしょうか。
加藤 おおむね、悪いときにはステロイドを使い、その後5-ASA製剤で維持し、それで維持できないときはアザチオプリン等を使うというところまでは、一つの流れとしてあります。
それ以上に難治な場合が、サイトカインをターゲットにした分子標的薬になります。先ほど述べましたように、いろいろなものをターゲットとした薬剤が開発されていますが、どの患者さんにどれが効くのか予測がつかないので、今のところ、そこにうまい順序がありません。これをやり、効いたらいいけれど、効かなかったら次に行こうかとせざるをえない状況です。
多田 TNF-αに対する治療法がいっときすごくはやりましたが、なかなかうまくいかない症例もあったのですね。今もそういう考えでやっておられますか。
加藤 もちろん、TNF-α抗体も使いますし、それに反応しないものはIL-23に対する抗体に変えてみたり、JAK阻害薬に変えてみたり、試行錯誤というか、そういったかたちでやっていくことが多いです。
多田 血球成分除去療法もあると聞きました。
加藤 血球成分除去療法は、体外循環を回して顆粒球等を除去する治療で、二十数年前からありますが、今でも有効に行われます。薬剤ではなく体外循環を回すので副作用がほとんどなく、そういった意味では非常に良い治療です。
ただし、最近はサイトカイン製剤にだんだん押されてきて、昔ほどは使われなくなりました。施行するのが若干面倒で時間もかかります。1回では終わらず、1時間ぐらいの体外循環を5回、6回とやることになるので、昔ほど多くは行われなくなってきています。
多田 そうすると、急性期にはむしろ生物学的製剤を使う、その前には5-ASA製剤を使うということでしょうか。
加藤 5-ASA製剤でうまくいかず、ステロイドを使っても依存になってしまう人は、今は生物学的製剤のような抗体薬を比較的使うようになっています。
多田 免疫抑制剤も使う話をされましたが、適応になっている場合となっていない場合があるので、気をつけなければいけません。その辺りはどのようにすればよいのでしょうか。
加藤 アザチオプリンは保険適用になっていますが、メルカプトプリンはなっていません。それほど高い薬ではないので、基本的にはそれほど厳しく査定されるようなこともないと思います。
ただし、アザチオプリンなどは比較的古い薬なので、副作用頻度が比較的高く、その辺が専門医でないと若干使いにくい面があります。
多田 軽症から中等度の病態についてお話をうかがいましたが、重症の場合はほかにどういう治療法があるのでしょうか。
加藤 シクロスポリン、タクロリムスといった非常に強い免疫抑制薬を使うこともあります。それでもどうしても駄目な場合は手術、全大腸切除になります。薬が進歩したとはいえ、今でも手術をしなければならない患者さんはいらっしゃいます。
多田 以前は全腸管を取ることもありましたが、今はそういう患者さんは少なくなっているのでしょうか。
加藤 割合は少なくなっています。ただ、潰瘍性大腸炎患者さんの絶対数が増えているので、一定の数として、手術を受けざるをえない方はいまだにいます。
潰瘍性大腸炎患者さんは増えているので、一般医師も、昔より比較的よく見かけるようになっていると思います。今はステロイドだけではない治療もたくさんありますから、ステロイドが切れないとか、難治のような状態であった場合、専門医の意見を聞いていただいたほうがよいかと思います。
多田 メンタルケアに関しては、どうすればよいでしょうか。
加藤 若いうちになる慢性的な病気で、もう治らないと言われると、けっこう落ち込んだり、精神的にまいってしまう患者さんもいます。なかなか難しい問題ですが、医師側が「こういった病気を持っているけれども、みんな元気にしているよ」というメッセージを常に発し、病気をしっかりコントロールして日常生活に困らないよう、医療者として支えてあげる。そういうスタンスで気持ちも支えてあげるしかないのかと思います。
多田 潰瘍性大腸炎の治療について丁寧なお話をいただきました。ありがとうございました。
消化管疾患治療の最新情報(Ⅴ)
潰瘍性大腸炎に対する治療
千葉大学医学部附属病院内視鏡センター長
加藤 順 先生
(聞き手多田 紀夫先生)