ドクターサロン

 池脇 結膜弛緩症とはどういう病態でしょうか。
 田  結膜弛緩症は文字どおり、結膜が緩んだ状態をいいますが、結膜は眼球の前から見たときの白目の部分のところです。目を動かしたり、まばたきをしたりするので、結膜にはある程度の生理的な緩みがあります。その結膜の生理的な緩みが年齢とともに強くなり、たるみが強くなった状態を結膜弛緩症と呼んでいます。
 池脇 これは緩むのであり、ずれるのではないのですね。
 田  組織学的な検討もなされていて、いわゆる肌と同じように張りをもたせる弾性線維がちぎれる、あるいは緩むことがわかっています。
 池脇 そうすると、加齢による生理的な現象と言ってもいいぐらい、ある程度、誰にでも起こりうる現象でしょうか。
 田  とてもありふれている、病気というよりは状態で、研究によっては40歳を過ぎると大なり小なり、みんなあると言われています。
 ただ、結膜弛緩症の程度、あるいは場所もあります。目は横に幅がありますが、中央の緩みが強い方、両サイドの緩みが強い方など緩みの場所によっては目の不快感や、ほかの目の病気を引き起こすことがあるので、症状のある方もいらっしゃいます。
 池脇 結膜弛緩症でたるんだところは、ひだ状の感じでしょうか。
 田  文字どおりひだ状で、ドレープ状とか、いろいろな言葉を使って説明しています。ひだも、一ひだ、二ひだ、丈が高い、たるみの多い方だと、三重ぐらいにひだひだとなっています。そうなるとけっこう自覚症状があり、うっとうしさにつながります。
 池脇 ひだができることが自覚症状にどう影響するのでしょうか。
 田  いろいろなパターン、いろいろな症状を起こしますが、一番よくある症状は、目を動かしたり、まばたきをするときに、ひだがよれてしまうもので、異物感の原因になります。ゴロゴロして痛い、しょぼしょぼしてうっとうしいとか、本当にありふれた症状になります。
 池脇 目には涙がありますから、それがひだに集中してしまうと、あまりよくないのでしょうか。
 田  おっしゃるとおりで、ひだの間に涙がたまってしまうので、涙目の大きな原因になります。
 池脇 そういう患者さんは、涙がよく出る、こぼれる、しょぼしょぼする、ゴロゴロする。そういう訴えで眼科を受診するという流れが多いですか。
 田  はい、多いです。しかし、年を取ってくると目がしょぼしょぼするのは当たり前です、などという説明をされることが多く、結膜弛緩症と正しく診断されることは少ないようです。医学的には不定愁訴といったりしますが、何となくうっとうしさを感じる大きな原因になっていることが多いです。
 池脇 それを誰に訴えるかにより、眼科だと「結膜弛緩症かな」となりますが、その他の科で受診した患者さんは「様子を見ましょう」となるのですね。そんなに明確な訴えではないので、ある程度、結膜弛緩症が頭にないと、その病気にまで行かないですね。
 田  そうですね。きちんと診て診断してあげるのは、患者さんのために必要だと思います。
 池脇 皮膚の老化と同じことが結膜にも出ているのですね。これは片方に出る人は、もう片方も、両側性という傾向でしょうか。
 田  基本的には両眼、同じようになる方が多いですが、ひだの多さには左右差が多少ある場合もあります。丈がすごく高い場合は外見上、下まぶたに沿ってゼリー状のものがくっついているように見えることもあります。
 池脇 質問には、結膜弛緩症はドライアイと関係があるとありますが、関係があるというのは、ドライアイを悪化させるという意味でしょうか。
 田  両方の意味があります。先ほど、結膜弛緩症があると涙目になりやすいと申し上げましたが、涙目になるけれども、ドライアイ、乾き目にもなるという、少し不思議な病態になります。程度が強い方は、自覚症状がなかなか強いことがあります。
 先ほど申し上げたように、ひだの間に涙がたまる、涙が吸い込まれてしまうので、角膜といって真ん中の黒目のところが知覚、感覚が鋭敏で、乾くとすぐにゴロゴロしますが、角膜上の涙が結膜弛緩症のひだの間に引き込まれてしまい、結膜のひだの中には涙があるけれども、角膜上の涙は少ないという現象が起こってしまいます。
 池脇 目の全体の涙をひだのところが吸収してしまい、ほかの部位が足りずにドライアイになる。わかりやすいですね。
 そうすると、ドライアイで来られた方の中にも結膜弛緩症の方がいるかどうか、先生方はきちんとチェックされるのですね。
 田  必ず両方の観点から診断する必要があります。人間は年とともに涙が多少減る傾向があります。肌が渇きがちになるのと同じです。
 ですから、もともと涙が少なくなりがちなところに結膜弛緩症があると、ドライアイの症状、所見が強くなり、ひどい場合には角膜に傷ができたりすることがあるので、そのあたりは診断が非常に重要になります。
 池脇 先生方のところに結膜弛緩症の疑いで、本人、あるいは紹介来院したという場合は、1回で診断をつけられるのでしょうか。
 田  眼科で一般的にまず行う細隙灯顕微鏡検査で、だいたいわかります。ひだが少ないと、まばたきのときに出たり引っ込んだりするので、結膜弛緩症があるのではないかという視点で診察をするのが大事です。
 また、フルオレセイン染色といって、黄色い染色液で涙を染めて観察する診察方法があります。ドライアイが疑われる場合は、フルオレセイン染色がとても重要になってきます。
 池脇 点眼薬のように、目にさして観察するだけですか。
 田  はい。怖くはありません。
 池脇 そして結膜弛緩症の診断まで至り、症状がある場合、そのまま手術なのか、その他の方法なのか、このあたりはいかがでしょうか。
 田  物理的にひだがあるので、手術的なことで取ってしまい、結膜、白目をピタピタと伸ばしてあげるのが一番よいですが、ひだが少なかったりすると手術に抵抗感のある方もいらっしゃいます。まずドライアイに準じた潤いの目薬などを使い、症状を和らげることをやってみます。
 池脇 これはいったん起こってしまうと、元に戻るものではないので、様子を見るにしても、どこかで手術が必要になってくる時期がきますか。
 田  まず、目薬を使ってみて、合う目薬が見つかれば、それでいいですし、それでも緩和されなければ、単純切除で、それほど怖いものではありませんので、手術もいいかと思います。
 池脇 手術は局所麻酔で、時間はそんなにかからないでしょうか。
 田  10分、15分ぐらいの局所麻酔の手術になります。
 池脇 白内障のように、手術をしたら翌日からパッと見える手術もあります。この場合はどういう術後の経過でしょうか。
 田  白目の手術なので、手術により、視力が落ちたりする危険性は全くありません。切除して、ときには少し縫い合わせることをするので、1週間ほどは異物感が多少ありますが、そこを過ぎてしまえばきれいになります。
 池脇 基本的にはそう難度の高い手術ではないので、医師も必要となれば、自信を持って患者さんにお勧めできる手術ですね。
 田  ぜひ勧めていただきたいと思います。
 池脇 そういう患者さんは増えていますか。
 田  加齢に伴う現象が大きいですから、増えているかどうかは定かではないですが、最近、認知されてきているので、多くの方が正しく診断されるようになってきていると思います。
 池脇 日常診療で、高齢者の方を中心に目をのぞいてもらい、たるみがないかどうか確認するだけでも、その方の目の違和感等がだいぶ解消されるのなら、臨床実地医の役割もありそうですね。
 田  そう思います。
 池脇 どうもありがとうございました。