多田
まず、大腸憩室関連疾患とはどういう病態をいうのでしょうか。患者さんは、どういう状態で先生のもとを訪れるのでしょうか。
新倉
実際に合併症を起こした状態で患者さんに会うことが多いです。例えば、大腸憩室炎、大腸憩室出血を発症した状態で来院されたり、腹痛、発熱等でいらっしゃることもあります。
また、内視鏡検査で無症候性のasymptomaticな大腸憩室症を診断される患者さんが多いので、大腸内視鏡検査の説明のときに、「このようなものがありますよ」と患者さんにお伝えすることが、患者さんとの接点になります。
多田
改めて、大腸憩室関連疾患についてお聞きします。まず、憩室症が発生する原因は何でしょうか。
新倉
これは正直なところ、まだよくわかっていないことが多いのです。しかし、疫学研究からわかっていることもあり、人種差があることが一つの特徴になっています。日本人をはじめとしたアジア人は、大腸の深部、右側結腸に憩室が診断されることが多いですが、欧米では左側結腸、S状結腸で診断される患者さんが多いことがわかっています。
そして、最近わかってきたことですが、食生活が大腸憩室症の発症と関連があるかもしれないということです。日本における食の欧米化に伴い、日本人の患者さんも右側だけではなく左側、または両側に憩室を持つ患者さんが増えていることがわかっています。
また、高齢化が著しいのも日本人の患者さんの特徴です。高齢の患者さんで大腸憩室症が多く見つかっていることも、疫学研究で新たにわかるようになりました。食物繊維の摂取が少ない患者さんで多いという疫学調査もあり、食生活が密接に関係している可能性があります。
多田
これは加齢現象とも関係するのでしょうか。
新倉
その中に、まだ発見されていないような真の因子が隠れている可能性はありますが、高齢の患者さん、食物繊維の摂取が少ない患者さんにおいて、多発する大腸憩室症が診断される機会が多く、加齢現象との関連はありうると考えます。
多田
そのほかに生活習慣の中で関連するようなものはありますか。
新倉
生活習慣に関することでは肥満があります。内臓脂肪は大腸憩室症との関連が報告されています。欧米型のライフスタイルで肥満、BMIが上がってきたような方には、大腸憩室症と診断される患者さんが多くなっていることもわかってきています。
多田
先生のところには、こういった患者さんが出血や炎症を起こしたことで訪れるわけですが、どのように診断するのでしょうか。
新倉
炎症と出血で異なりますが、同じ憩室から発生している点では、病態を考える上では同じ疾患を診療することになります。憩室炎というと炎症に伴う腹痛がメインの病態になりますので、診断のゴールドスタンダードはCT検査になります。
一方、憩室出血は血便という症状で患者さんが来院されるので、大腸の内視鏡検査が選択の検査、診療になります。
多田
私が医師になったころは注腸、バリウムを使ったり、いろいろなことで見つかることが多かったと思います。今はCTがベストな診断法でしょうか。
新倉
憩室炎の診断において、CTはゴールドスタンダードとしての検査の地位を確立しています。先ほど申し上げた憩室の部位や、ほかの急性腹症の鑑別診断を行うために有用になっています。例えば、左側の結腸のS状結腸に近い憩室炎だと、鑑別診断には虚血性腸炎が挙がります。盲腸に近いところだと虫垂炎が鑑別診断に挙がります。CTを撮ることにより、鑑別診断を進めることができます。
多田
憩室を持った方が様々な症状で先生のもとを訪れていますが、実際に憩室からの出血もあります。どのようにすればよいでしょうか。
新倉
憩室出血の場合、最近は内視鏡治療が普及しています。おなかを切らずに、まず内視鏡での止血治療が可能となっています。
大腸内視鏡は、診断と同時に処置ができることが大きな利点です。大腸内視鏡を行い、大腸憩室内の責任血管、直動脈の末端の動脈を同定し、その血管に対し金属クリップ、またはBand Ligationといった結紮術を内視鏡下で行うことにより、一次止血を得ることができるようになっています。
多田
再発はどうでしょうか。
新倉
再発が大きな課題です。特に憩室出血の再出血率が非常に高いことが、日本においても欧米においても明らかになっています。日本の患者さんのデータでは1年で20%近い再発率、再出血があることがわかっていて、こちらが非常に大きな課題になっています。
多田
憩室炎に対しては、どういうアプローチをしていけばよいでしょうか。
新倉
憩室炎は日本ではCTの診断環境が全国で整っていますので、軽症のうちに診断される患者さんが多いのが一つの特徴です。軽症の状態だと、炎症を起こしてしまった憩室のごく周囲のみに小さな膿瘍が限局した状態になります。このような状態なら、食事を止めたり、経過を見るだけで、状態は自然によくなることが多いです。
多田
必ずしも感染とは関係ない場合もあるのでしょうか。
新倉
一次感染は起こしていないと考えられています。ただし、膿瘍の程度がひどくなったり、二次感染を起こしてしまう場合、腹膜炎の状態になると、抗菌剤での治療が必要になります。内科的に治療がうまくいかないのであれば、外科医は腹膜炎としての治療を考える必要が出てきます。
多田
場合によっては入院のうえでの治療もあるのでしょうか。
新倉
はい。抗生剤投与でうまくいかない場合は手術も考えることになります。
多田
スペクトラムが広い疾患であり、再発率も高いので、難しい病態ですね。われわれは軽く考えてしまいますが、実際はもっと重症な例も出てくるのでしょうか。
新倉
重症度も多岐にわたるのが一つの特徴です。必ずしも重症の方ばかりではないのですが、診断を適切、早期にすることにより早期に治療介入ができると、アウトカムがより良くなります。
プライマリ・ケアの場所であっても、内科、外科であっても、患者さんに遭遇する可能性の高い疾患なので、多くの先生方に病気についての理解を深めていただく、あるいは最新のエビデンスについて触れていただくことが、患者さんのより良い診療につながるのではないかと考えています。
多田
潰瘍性大腸炎とのかかわりなどもありますか。
新倉
それほど強くは言われてはいません。しかし、潰瘍性大腸炎の患者さんが、ライフスタイルの変化により憩室を発症するリスクはあります。潰瘍性大腸炎の患者さんにおいても、大腸憩室を合併する可能性はあると考えます。
多田
特殊な関連疾患などあれば、教えていただきたいと思います。
新倉
大腸憩室出血の場合、結腸からの出血になりますが、なかには小腸からの出血の患者さんが含まれることがあります。場合によっては、より高次医療機関で深部小腸の検査が必要になる患者さんも5~10%ぐらいいらっしゃることもわかっています。その場合、医療機関の間の連携を密にして、高次医療機関にすぐ相談することがよいと思います。
多田
ずっと重篤な病態があるのですね。
新倉
繰り返してしまうことで、患者さんも主治医も悩まれることが多いです。特に、大腸憩室出血は仮性憩室ですが、その深部に行くと、回腸の末端のほうにはメッケル憩室という真性憩室からの出血も病態として隠れていることがあります。どちらからの出血なのか、見極めることはなかなか難しく、高次医療機関で小腸の専門の検査が必要になることもあります。
繰り返す病態で悩まれていることがありましたら、その際はお近くの大学病院や高次医療機関に相談されると、解決につながることがあると思います。
多田
身近な病態ですが、スペクトラムの広い病態である大腸憩室関連疾患について、お話しいただきました。非常にわかりやすいお話をありがとうございました。