大西
腸閉塞に対する治療というテーマでお話をうかがいます。腸閉塞の病態から教えていただけますか。
斉田
消化管は、口から胃、小腸、大腸とあり、肛門に出るまでつながっている1本の管ですから、どこかが詰まると、そこが滞ってしまい問題が起こる。そして主に腸が何かの原因で詰まってしまうことが腸閉塞です。
大西
機械的腸閉塞、機能性腸閉塞という分類があると思いますが、その辺を教えていただけますか。
斉田
腸が動かない、滞るという原因の一つは、麻痺をして腸が動かないことがあります。主に手術後、もしくは炎症などで腸が動かなくなる、いわゆる腸が麻痺している状況で、一般的にはイレウスと呼んでいます。それが機能的腸閉塞です。
多くは詰まってしまうことで起きる機械的腸閉塞です。昔はこれもイレウスと呼んでいましたが、最近は英語ではイレウスと言わなくなりました。
大西
原因を幾つか挙げていただきましたが、頻度から多いのは手術後の癒着等でしょうか。
斉田
一番多いのは癒着による機械的腸閉塞です。
大西
そのほかに何か気をつけなければいけない原因はありますか。
斉田
やはり炎症でしょうか。虫垂炎もしくは憩室炎などの炎症により、腸閉塞が起こります。ただ腸閉塞が起こっているのか、もしくはその前に原因があるのか、きちんと見極める必要があると思います。
大西
循環障害が起きると緊急性がかなり高いと思いますが、そういった原因もあるのでしょうか。
斉田
腸閉塞、特に腸がねじれてしまう、いわゆる癒着性の腸閉塞に多いのですが、その中の一部が絞扼性、いわゆる複雑性の腸閉塞になります。絞扼、要は血流障害が起こってくるので、そのときには全身状態が悪くなります。外科的手術を緊急に行わないと命にかかわるので、それをどうやって見逃さないで診断するか、治療するかが重要になると思います。
大西
どういった症状があり、どういったことに気をつけたらよいでしょうか。
斉田
腹痛でいらっしゃることが多いと思いますが、いわゆる絞扼性でない腸閉塞の場合、腹痛はそれほど強くないと思います。おなかを触って少し張っているかどうかで診断します。あとはレントゲンと採血等で絞扼性でない腸閉塞は診断がつくことが多いでしょうか。
大西
腹部レントゲンを撮るときはどういった点に気をつければよいでしょうか。
斉田
所見としては、小腸、大腸のガスがどの程度あるかです(図1)。正常では小腸ガスはそれほど多くありません。2~3㎝ぐらいまではいいですが、それ以上になると拡張です。大腸ガスはあっても、拡張がそれほどないのが一般的で、6㎝を超えてしまうと拡張しているので、そうするとどこに原因があるのか、診ていただくことになります。
大西
循環障害などの場合、造影CTなども必要になるのでしょうか。
斉田
絞扼性の腸閉塞の場合、何といっても腹痛がかなりあります。人間、虚血が一番痛いので、それが起こってくると強い腹痛があります。ですから、患者さんの顔色が一番重要かもしれません。顔色と腹痛の状況やレントゲンを見て、絞扼性の腸閉塞を疑ったら、できるだけ早く、できれば造影のCT を撮っていただくのが一番いいと思います。
大西
緊急手術が必要なケースが一番大事かと思います。循環障害の場合は、緊急性が高いと考えてよいのでしょうか。
斉田
一番怖いのは絞扼性の腸閉塞を見逃すことです。それをいかに早く診断し、いかに早く治療するかが患者さんの予後にかかわってきます。それがたいへん重要だと思います。
大西
診断や判断に当たっては、どういう点に気をつけるとよいでしょうか。
斉田
何といっても最初に疑うことが重要です。麻痺や絞扼性でない腸閉塞は、腹痛はそれほどないですが、絞扼性の場合、顔色が悪く、痛がるので緊急性が高く、いわゆる急性腹症という状況が見受けられます。それをまず判断していただき、これは疑わなければいけないと思ったら、緊急でCTを撮る。これが一番重要だと思います。
大西
時間がたってしまうと、敗血症になったり、ショックになることも考えなければいけないのでしょうか。
斉田
絞扼性腸閉塞を放ってしまい、6~8時間たってしまうと、完全に壊死に陥ってしまい、敗血症、菌血症になり、全身状態が非常に悪くなるので、命にかかわることになります。
大西
経鼻胃管やイレウス管の適用はどのように考えたらよいでしょうか。
斉田
最初に絞扼性の腸閉塞を除外していただくことです(図2)。絞扼性腸閉塞、特にCTで、最近ではclosed loopといいますが、腸管がつながり、同じ腸管の2カ所で狭窄しているものを見たら、緊急手術の対象です。それがないことをきちんと見ていただければ、あとは保存的に治療することになります。
保存的治療は、まず胃管が一番多いかもしれませんが、胃管は24時間または48時間をめどに、効くか効かないかを見ていただき、その次、多くはイレウス管という長いチューブを入れていただくことが、次の選択肢になるかと思います。
大西
保存的にいけるか、手術が必要だという判断になる場合があると思います。どのように気をつけて保存的治療をしていけばよいでしょうか。
斉田
まず、腸閉塞の治療は減圧と十分な補液です。脱水を補正していただき、絞扼でない場合は全身状態がかなり良くなり、患者さんも楽になるので、その場合は様子を見ると判断してよいと思います。ただ、イレウス管で100%治るものではないので、だいたい1週間をめどに、治らなければ外科的手術を考慮しなければいけないと思います。
大西
その場合、発熱が生じたり、いろいろな変化が出てくるのでしょうか。
斉田
発熱や腹痛が出てきた場合は絞扼に移行したと思われるので、その場合は緊急手術になります。厳重に、1日何度も診ていただき、そうなっていないことを確認します。
そうでない場合で、どうしても癒着がひどくて解除できない場合は、1週間では治らないということを患者さんに説明していただき、待機的でよいので、手術を組んでいただくのがよいのではないかと思います。
大西
イレウス管などを抜去するタイミングは、どのように判断したらよいでしょうか。
斉田
患者さんの自覚症状です。排ガスがあったり、おなかが楽になったかで判断します。CTを頻繁に撮る必要はなく、単純レントゲンでいいので、良くなっていることが確認できたら、一般的にはまずクランプをしていただく。そして飲水から少しずつ段階的にやっていくことが多いです。
大西
毎日の排液量なども気をつけていくのでしょうか。
斉田
1日の排液量がだいたい500mL以上あった場合は、あとは患者さんの状態などを見つつ、1週間をめどにきちんと判断することが大切かと思います。
大西
手術後の癒着性の腸閉塞が多いとうかがいましたが、手術の術式や、どこの手術を行ったかにより、頻度や病状は多少違うのでしょうか。
斉田
基本的には大きな手術をするほど、侵襲が大きければ大きいほど、よく起こりますが、日本で最も多いのは虫垂炎の手術後です。もともと行われる手術数が多いからかと思います。
私も詳しくは知りませんが、なぜか婦人科的な手術で腸閉塞になるのは少ないといわれています。
大西
虫垂炎の手術の後、20年、30年とか、時間がかなりたってからなることもあるのでしょうか。
斉田
癒着というものが完成するのは1週間ぐらいですが、それは永久に取れません。そのような癒着のバンドができると、いつ起こってもおかしくないので、前に手術した既往があれば、20年たっても、30年たっても、可能性はあると思っていただいていいかと思います。
大西
輸液管理がかなり大事かと思いますが、その辺りは具体的にどのようにされていますか。
斉田
それも患者さんのラボデータを見ていただき、あとは排尿です。循環血液量がきちんと確保されていることを確認いただければと思います。
昔は抗菌薬をよく使っていましたが、最近は炎症が強くなければ抗菌薬は使わない傾向になっていると思います。
大西
ほかに何か腸の動きを良くするような薬を使うとか、そういうことはやられるのでしょうか。
斉田
一般的には、最初にガストログラフィンという造影剤を使い、腸閉塞の状態を確認するとともに、腸管を動かすかなり強力な作用もあるので、腸閉塞の状態がどうかを確認していただきます。
最近は漢方薬の大建中湯を注入することもときどき行っています。これは直接作用があるので、比較的効くこともあります。
大西
それは胃管から溶かしたものを定期的に入れていくかたちなのでしょうか。
斉田
大建中湯を使う場合は、どちらかというと長期の人が多いので、胃管というよりイレウス管のほうが多いでしょうか。イレウス管から、1日3~6パック、お湯で溶かして入れることが多いと思います。
大西
効くのでしょうか。
斉田
これは漢方特有の個人差があり、非常に効く人は効きますが、効かない人は効かない感じになると思います。
大西
ありがとうございました。