ドクターサロン

池脇

C型肝炎の治療に関しての質問をいただきました。だいぶ進歩していると思いますが、いま日本人のC型肝炎の患者はどのくらいいるのか、その辺りから教えてください。

加藤

実は全体の数はなかなかわかりにくいのです。いろいろなデータから、治療した方も含め、90万~130万人ぐらいいるのではないかといわれています。そうすると人口の1%ぐらいでしょうか。

ただ、そのうち50万人ぐらいは、どうやら治療が済んだらしいのです。これは薬の売り上げからわかります。

その一方で、まだ自分がウイルスに感染しているのを知らない方が20万人ぐらいいるといわれています。なぜ数がわかるかというと、献血に行かれた方が思いもよらず陽性だった率から計算できるのです。

ところが、自分がC型肝炎だと知りながら治療をしていない方がけっこういて、少なくとも20万人ぐらい、多いと60万人ぐらいいるだろうといわれています。

池脇

そうすると、最初に先生がおっしゃった数字に、そのぐらい加えた程度の方が、治療が済んでいる方も含めて日本にいるとなると、ウイルス性肝疾患はけっこう多いですね。

加藤

そういうことになります。以前、B型肝炎も含め、ウイルス性肝炎は国民病といわれていました。未治療のC型肝炎の患者さんが、たくさんいるのは間違いありません。

池脇

C型で慢性肝炎、肝硬変、そして肝がんで命を落とすというのが、悪いほうのシナリオかと思います。今、肝がんの原因としてのC型肝炎の割合はどのくらいでしょうか。

加藤

10年前、20年前だと、肝がんの原因の2/3以上がC型肝炎でした。ところがC型肝炎がほとんど治るようになり、肝臓学会でこの5年間の調査をしてみると、肝がんの原因の4割強がC型肝炎という現状です。それでもC型肝炎が肝がんの原因の第1位であることは変わりません。

池脇

これからお話しいただく抗ウイルス薬の治療が、そういった統計も変えてしまうぐらいになったのでしょうか。

加藤

おっしゃるとおりです。

池脇

いよいよC型肝炎の抗ウイルス治療のお話ですが、恥ずかしながら、私の認識はインターフェロンでストップしていて、その後、経口の抗ウイルス薬が出てきたな、ぐらいで止まっています。その後の10年ぐらい、ここがだいぶ変わってきたのですね。

加藤

おっしゃるとおりです。インターフェロンの治療が始まったのは1990年代ですが、当初の週3回打つものは1割も効いていませんでした。インターフェロン治療もペグインターフェロンという週1回の注射でいい製剤になってだいたい3割が、リバビリンという薬が加わって5割ぐらいが治るようになりました。2014年からは経口薬のみで効果のよい薬が登場しました。先生がおっしゃるようにちょうど10年前です。

その後登場したどの経口薬も、治験での治療成績は95%以上です。ですから、インターフェロンで3~5割しか治らなかった、しかも半年間の治療だったのが、2~3カ月の経口薬で95%以上治るようになった、これがこの10年の出来事かと思います。

池脇

いつ診断され、治療したかによって、注射で苦しんでも5割ぐらい。それが毎日1錠ずつ、ある一定期間飲んだら95%の方が、ウイルスが体から消えてしまうのですね。

加藤

そうです。C型肝炎ウイルスはRNAウイルスなので、完全に消えてしまいます。

池脇

これは本当に、創薬がすごく成功したわけです。簡単に調べたのですが、抗ウイルス薬は3種類ぐらいあるという理解でよいでしょうか。

加藤

標的が3種類あるということです。

池脇

基本的には単剤で治療するのではなく、2つ使うようなかたちですか。

加藤

そのとおりです。単剤で治療すると耐性ウイルスが出てきやすいので、複数組み合わせて多剤にすることで、耐性ウイルスができにくいという特徴が生まれます。現在はそれで治療されています。

池脇

そういった薬が開発され、できるだけ薬の有効性を高く保つことなると、進行したC型肝炎の患者さんよりも、比較的初期の人を対象にして、そういう治療を始めることで先ほどおっしゃったような治療成績95%という数字になってくる。すると、残された課題は、治療抵抗性ですね。進行した患者さんに対し、そういう数字を築きたいとなります。質問のこの薬は、まさにそれを実現したということでしょうか。

加藤

おっしゃるとおりです。昔から、どんな治療も慢性肝炎ではよく効きますが、肝硬変になればなるほど、すなわち肝臓が硬くなるほど治療効果が悪いのが従来型の薬だったと思います。

池脇

抗ウイルス薬の登場そのものが、もうブレークスルーといっていいと思いますが、治療抵抗性のC型肝炎の患者さんに、ついに効果のある薬ができたのもある意味、ブレークスルーだと思います。これは、なぜそうなったのでしょうか。

加藤

薬自体の働きが今までと変わったわけではありません。先ほど池脇先生がおっしゃった3種類の薬、一つはプロテアーゼ阻害薬、すなわちタンパク分解酵素阻害薬ですが、ウイルスのポリペプチドを幾つかに分解する酵素を抑える薬です。

もう一つはNS5A、ウイルス増殖の場を提供するタンパクを抑える薬です。最後の一つはポリメラーゼ阻害薬です。ポリメラーゼは複製酵素ですからウイルスRNAの複製を抑えます。

現在はそのうち2種類が組み合わせられています。通常の薬剤は、肝硬変、特に非代償性肝硬変になると、肝臓の薬剤の処理能力が落ちてしまいますから、肝機能の悪い人には使えません。多くの薬が肝代謝ですが、複製を阻害するポリメラーゼ阻害薬は腎臓から排泄される薬だからです。

そのため、ポリメラーゼ阻害薬は肝機能に関係なく、すなわち肝機能が悪くても血中濃度が上がらずに使えます。

もう一つ、組み合わされるNS5A阻害薬は肝臓で代謝されず、そのまま肝臓から体外に排泄されるということで、これもまた肝機能に関係なく、血中濃度が上がったりすることもなく使えます。これらの薬の組み合わせが、まさにこの新しい薬です。

池脇

従来は重度の肝障害、非代償性肝硬変の方は禁忌だったものが、使えて、しかも効いているのですね。

加藤

そうです。

池脇

ウイルスは殺しても肝硬変が、最終的にがんにならなければ、だいぶ違うと思います。そういうがんの抑制効果もあるのでしょうか。

加藤

あります。ただ、先生がおっしゃったとおりで、肝硬変になると、おそらくがんの芽のようなものは、もうあるのですね。ですから、ウイルスを消しても肝硬変の発がんがゼロになることは、残念ながらありません。通常、無治療だと年率6~8%、すなわち肝硬変だと1年で100人中6~8人の方が発がんするといわれていますが、おそらく、それが5%ぐらいまでは下がります。

慢性肝炎だと、2~5%ぐらいの発がんが、ウイルス排除により1%以下に下がります。ですから、慢性肝炎だと発がん抑止効果が非常に高いです。

肝硬変の場合、ウイルスがいなくなると、肝機能は良くなり、硬い肝臓も時間がたつと線維がだんだんなくなってきて、軟らかくなってきます。ですから肝硬変も良くなります。

ただし、発がんに関しては、たぶん10年ぐらい見ていないと減ってこないと思います。

池脇

先生方が素晴らしい薬を手にされ、そういう難しい症例を治療していくのも大事ではありますが、なにしろ早期発見・早期治療でしょうね。

加藤

おっしゃるとおりです。

池脇

そういった患者さんは、肝臓の専門家に紹介していただくことですね。どうもありがとうございました。