ドクターサロン

山内

バセドウ病に伴う周期性四肢麻痺は、東洋人に多く、特に男性に圧倒的に多いそうです。遺伝子絡みなのでしょうか。

國井

それを疑い、検査をしている論文も多いですが、まだはっきり、これだという遺伝子は見つかっていません。しかし、カルシウムを筋肉から出すチャネルを動かなくする遺伝子が存在し、それが原因ではないかと指摘されています。

ただ、それが多いのはヨーロッパ人などで、周期性四肢麻痺の多い東洋人、中国人やタイ人では見つかっていないといわれているので、本当にこの遺伝子が関係あるのか、まだ疑問視されているところです。

山内

まだ本当のところはよくわかっていないということですが、メカニズムとしてはチャネルが絡むだろうというところですね。

症状からすると全身に出てきそうですが、必ずしもこの麻痺は全身でもないのですね。

國井

はい。不思議ですが、下肢近位筋の脱力が中心で全身の麻痺はまずみられません。

山内

立ちにくくなるけれども上半身はそこまでではないのですね。

いちばん怖い呼吸筋などはそんなに侵されないのですか。

國井

呼吸筋まで侵される人は見た経験がありません。

山内

そうすると、周期性四肢麻痺を起こした患者さんは、急に立てなくなる、動けなくなるといったかたちになりますか。

國井

朝方がけっこう多く「朝、起きようと思ったのに立てない」「起きられなかった」と訴える方が多いです。

山内

朝が一つの特徴でしょうか。

國井

夜遅くから早朝といわれています。

山内

何となく金縛りにあったような感じでしょうか。

國井

そうですね。本人に鑑別してきてもらわないとわかりませんが。

山内

ただし、夜間、呼吸が止まるような心配はないのですね。

バセドウ病が一気に悪化しているところで起こるような印象がありますが、そうなのでしょうか。

國井

はい。甲状腺ホルモンが過剰ですと、Na/K-ATPアーゼが活性化し、細胞内にカリウムが取り込まれるため、ほかの甲状腺機能亢進症の症状が全くなく、四肢麻痺だけが出てくる方もいらっしゃいます。先生のお考えどおりかと思います。

山内

甲状腺の中にはバセドウ病以外の原因で甲状腺機能が一過性に上がることがありますが、そのようなこともあるのでしょうか。

國井

実は中毒性結節でも無痛性甲状腺炎でも起こりえることですが、ほとんどはバセドウ病になるかと思います。

山内

バセドウ病が発症したときに、この周期性麻痺が繰り返し毎日のように出てくることはわかりますが、周期性四肢麻痺の周期性とは何の周期なのでしょうか。

國井

この麻痺は放っておいても30分から3時間ぐらいすると自然と治ってきて、力が入ってくるようになります。そして、また何かをきっかけに力が入りにくくなります。良くなったり、悪くなったりを自然に繰り返す意味で周期性といわれています。

山内

昔、病因がよくわからなかった時代には、ときどき良くなり、また悪くなったことから注目されたのですね。

國井

四肢に力が入らなくて来院する人のほとんどが、1カ月前ぐらいから力が入らない、階段が上りにくいというような何かしらの症状を訴えていたというデータがあります。

山内

それが特徴的で周期性という言葉になったのですね。治療の話に移りますが、甲状腺機能が亢進したときに症状を伴いますから甲状腺機能を下げるような治療で治っていくのでしょうか。

國井

ホルモンが正常になると周期性四肢麻痺は起こらなくなります。ただ、数値が落ち着くのは1カ月後ぐらいと考えると、それまでの間は、どうしても周期性四肢麻痺が軽いながらも起こってしまうので、カリウム製剤を併用し症状に対する注意を促すことが必要かと思います。

山内

甲状腺ホルモンが高いと起こるとはいっても、その高さのレベルが非常に高いから起こるというものでもないのでしょうか。

國井

不思議なことに、そうなのです。そんなに高くなくても周期性四肢麻痺を起こす方は起こします。

山内

まずバセドウ病の治療を優先するということで、最近はヨード製剤などもありますが、こういったものを使って早めに甲状腺機能を落としてしまうこともありうるのですか。

國井

ヨウ化カリウムにはカリウムも含まれていますので、早めにそれを使って数値を落としてあげたほうがいいと思います。

山内

バセドウ病はどのくらいのスピードで甲状腺機能を下げたらいいのでしょうか。

國井

早ければ早いほどいいと思います。ただ一般的に、チアマゾール3錠かチアマゾール3錠にヨウ化カリウムをプラスしたもので見たときに、Free T4が5以下だと、良くなるスピードがあまり変わらなかったというデータが出ています。いま推奨されているのは、Free T4が5以上のときにヨウ化カリウムを併用するようになっています。しかし、症状がある人には、それ以下でも早めにヨウ化カリウムを使っていいと私は思います。

山内

甲状腺機能の低下スピードはコントロールしにくいので、少し効きすぎるときもありますが、これによるトラブルは周期性四肢麻痺に関してはないのでしょうか。

國井

甲状腺機能低下症になってしまった分に対しては、四肢麻痺は起こらないので、そんなに問題はないかと思います。ただ、甲状腺機能低下症の症状は出ます。

山内

これは外来受診されることが多いのですが、不慣れな医師が多いので、こういう方を外来通院で診療して大丈夫かという不安感があります。いかがでしょうか。

國井

独歩で診察に来て症状を訴えた方は外来でできると思いますが、立てなくなったといって救急車で運ばれてきたり、車いすに乗ってくる場合は、安心の目的も含め、1日から数日入院のほうが私はよいと思います。

山内

ただ1泊だと、当初は毎日のように発症するわけですから、毎日のように病院に来るようにという話になりかねないかと思いますが、いかがでしょうか。

國井

1回カリウムを補正して四肢麻痺を取った後に、内服でカリウム製剤を飲んでいただくと、その後は重症になりにくく、また歩けないという症状は出てこないので、外来通院でコントロールはできると思います。

山内

カリウムの補給はなかなか難しいところがありますが、補給スピードに関してはいかがですか。

國井

補給スピードはすごく難しいです。甲状腺中毒症時は、基本的に体内のカリウムの総量は正常といわれていて、ただカリウムが細胞内に取り込まれてしまい、血中にないから低カリウム症状が出現するらしいのです。

ですから過剰に、データ的には1日90mEq以上投与してしまうと、必ず高カリウム血症になってしまいます。最初は20mEq/hぐらいで点滴をしてみて、症状が落ち着いたら内服に切り替えていいと思います。

山内

内服にした場合、原則的に頻発はしないと考えてよいのでしょうか。

國井

そうですね。「ちょっと力が入らないことがあります」という訴えはありますが、日常生活にそこまで影響がなければ「もう少し頑張ってください」と言って経過を見ています。

山内

患者さんや家族を安心させる必要が十分にありますね。

國井

はい。

山内

バセドウ病もホルモンに関しては良くなった、抗体も良くなったとして、こういった方々が再発するということはあるのでしょうか。

國井

ありえます。甲状腺が再発したときにあわせて周期性四肢麻痺も出てくるので、絶対起こしたくないという人は、放射線治療や手術等で安心できる状態にもっていかないと、再発は防げないと思います。

山内

最後に、生活の面で何か注意するところはありますか。

國井

はい。炭水化物を過剰に摂取したあと、アルコールを飲んだあと、運動したあとに周期性四肢麻痺を起こすといわれています。特に男性が多く、20~40代ぐらいのよく食べる世代だと考えられるので、夜間にパンやご飯、パスタ等を過剰に食べないように指示をすると、周期性四肢麻痺の頻度がけっこう減ってきます。

山内

食べ過ぎが非常に危ないのですね。清涼飲料水はいかがでしょうか。

國井

清涼飲料水は原因の因子としてはいわれていませんが、糖分が含まれているとインスリンが分泌され、カリウムが細胞内に取り込まれ、低カリウム血症になりうるので、過剰摂取はよくないと思います。

山内

どうもありがとうございました。