ドクターサロン

 池田 爪白癬とは、いつごろからどういう治療をされていたのでしょうか。
 福田 爪白癬は糸状菌というカビの一種による感染症です。糸状菌、いわゆる白癬菌という種類のカビが角層に感染して症状を作っていきます。そして、爪の場合、爪甲そのものが角層、角質なので感染した糸状菌、白癬菌がそこで増殖するとともに爪甲にも影響を与えて、爪が厚くなって白く濁り、時間が経つとボロボロの爪になる粗造化という特徴が出ます。その爪の中に白癬菌が増殖しているので、その増殖した菌を退治しないと治りません。
 退治する方法として、上から塗るのが外用薬です。内服薬は血流を介して、爪甲の下から、あるいは後爪郭から薬が入っていって、その菌を退治する薬になります。
 池田 まずは内服薬の歴史について教えていただけますか。
 福田 昔はグリセオフルビンという、白癬菌に対する薬がありましたが、ある時期から原材料が手に入らなくなり、今は使えない薬です。今現在使える爪白癬用の内服薬は、1997年に出てきたテルビナフィン、2剤目が1999年にパルス療法で用いられるようになったイトラコナゾール、そして2018年にホスラブコナゾールが約20年ぶりに3剤目の内服薬として上市され、現在は内服薬が3剤体制になりました。
 外用薬は、これまで保険適用のある薬がなかったのですが、2014年にエフィナコナゾールという爪用の外用薬が初めて発売されて、その2年後に爪用のルリコナゾールが発売されて、内服3剤、外用2剤の現在の体制になりました。
 池田 ずいぶん選択肢が増えましたね。外用薬は副作用が少ないだろうとのイメージから、特に高齢者に使われていると思いますが、外用薬はどのような症例に適当なのでしょうか。
 福田 爪白癬を語るときに、爪白癬の臨床病型というものをよく使います。代表的なものが4つあります。1つ目がDLSOといって、爪甲の先端、もしくは側縁から感染が進行してくるタイプです。それに対して2つ目にSWOという表在型の、爪甲の表面だけに菌が増殖している、爪甲の中に入っていかないタイプがあります。もともと爪白癬の大多数は爪甲のむしろ下のほう、爪床に近いところで菌が増殖しているものが多いのですが、このSWOだけは表面にとどまっているのです。それから3つ目の病型がPSOといって、これは中枢側、要するに爪の根元の部分から白濁部分が進展していくタイプ。4 つ目はなれのはてともいわれる、TDOという爪甲全部が白癬菌に冒されてしまい、爪甲全部が厚みを持って白濁している全爪型のタイプです。
 この中で表面に外用薬を塗って治りやすいのはSWOです。白癬菌が表面に留まっているので、外用薬の一番の適用になります。また、先端部分あるいは側面の一部にとどまっているものも外用薬でかなり治りがいいですので、そのような限局しているものは、外用薬のいい適応になると思います。
 池田 では、爪の深いところ、あるいは爪の基部にあるものに関しては外用してもあまり効かないというイメージなのでしょうか。
 福田 実際に外用薬で治そうとした場合は、少なくとも1年以上使用しないと治らないといわれています。では、1年以上しっかりと塗り続けることができるかというと、途中で諦めて、塗るのをやめてしまう人が多いのです。そうするとせっかく塗り始めても、治りきらないで、途中終了というかたちになりやすい。その中で、先ほどいったSWOは、1、2カ月塗るだけでもかなり良くなります。それから、先端部分と側縁からのタイプのDLSOは軽症から中等症のものはけっこう効果が出るのが早く、3~6カ月ぐらい塗っているとかなり良くなります。ですから、モチベーションも上がりますし、完全に、爪甲がきれいに置き換えられれば、治ったということになります。そういう意味合いでは外用を続けていくモチベーションを維持しやすいので、そういうタイプにはいいと思います。それに対してPSOやTDO、あるいは重症のDLSOは、なかなか治療効果が見えてきませんので、やはり、この場合は内服が優先になると思います。
 池田 イトラコナゾールには飲み合わせや副作用に気をつけなければいけないイメージがあり、高齢者は肝臓、腎臓機能が低下しているからと処方を少し躊躇する医師がいます。先生はこの内服の抗真菌薬を投与されるとき、どのような注意をされているのでしょうか。
 福田 疫学調査を見てみますと確かに爪白癬の患者層というのは、高齢化してきているという問題が提示されています。ただ、内服薬の中でも、例えばテルビナフィン、あるいはホスラブコナゾールは、併用禁忌薬はありません。ですから、一部の薬に併用注意する必要はありますが、いろいろな薬を飲まれている患者さんでも内服できないということにはほぼなりません。それから、ある程度、定期的に血液検査をすることによって、副作用の兆候はしっかりと把握できますので、定期的な検査をしながらであれば、高齢の患者さんでも問題なく治療ができると思います。
 検査は、治療開始前に採血等をして、肝機能障害等がないことが確認できたら、ホスラブコナゾールの場合は12週間投薬ですので、安全にいくのであれば1カ月ごと。若く元気な人で、あまり副作用が出そうもないと思ったら、治療開始前と6週間後のツーポイントでもいいかもしれません。
 池田 併用禁忌もないからモニタリングしながらいけば、意外と使える薬ではないかという感じですが、特に、ホスラブコナゾールなどは12週飲みきると、あとはそのまま効果は持続するのでしょうか。
 福田 はい、これは内服3剤すべてに関していえることなのですが、推奨されている、あるいは規定されている期間を飲みきると、その3剤とも爪中に有効濃度が約半年以上は維持されるというデータが出ています。ですから、推奨されている、あるいは規定された期間を飲みきった後、半年は、そのまま様子を見ていれば、混濁部分が残っていたとしても、そのまま薬は効き続け、爪が伸びていくと考えられます。
 池田 患者さんからみても、本当にこれは効いているのかなと思われる方も多いと思うのですが、どういう点をもって効果ありと判定されるのでしょうか。
 福田 私がよくやっている一番簡単な判定方法を教えたいと思います。爪中にある程度薬が入ってくると、爪の中で菌が増殖できなくなるので、爪のいいラインが根元の部分から出てきます。内服後1、2カ月ぐらい経つと本当にきれいな爪のラインが下から上がってきますので、そのラインが時間の経過とともに上に上がってくるのを確認することで、しっかりと治療がいい方向に進んでいると判断できます。逆に、そのラインの中枢側に、混濁部が入り込んでくるところが出てきたら、再燃、再発という捉え方ができます。
 ほかに一般的によく行われているのは、爪甲に対する混濁比の評価です。例えば爪甲全体が罹患したのを100%とした場合、混濁部分が半分になれば50%改善したということになります。これを、例えば半年で100%から50% になったというのをみれば、あと半年待てば、治りきるかなと、そういう目安になります。また、別の評価方法として、爪甲の長さに対して混濁部分がどのぐらいの長さまで入り込んでいるかを一つの目安として使うことがあります。例えば爪甲の長さが10㎜あり、そのうちの5㎜まで正常な爪甲が伸びてきた。逆に言うと混濁部が10㎜入っていたものが5㎜になったのであれば、これも半分になったということになり、半年で半分、あと半年待てば治りきるという目安になるわけです。
 池田 罹患した爪というのは大なり小なり、少し厚みが出てくるのですよね。いい爪というのは、やはり少し薄くなって、そこに段差があるのでしょうか。
 福田 爪白癬の爪甲の特徴として、爪が厚くなる、混濁する、時間が経ってボロボロになっていくというのがあります。この厚みと混濁がポイントです。爪の中で薬がしっかりと効いてくると、厚みあるいは混濁が起こらなくなります。すると、厚みのない透明感のある爪が、下からラインの線を持って出てくるのが見えてきて、効いているということがはっきりいえるのです。
 池田 では、患者さんにはここに境界があってきれいな爪が出ているから効いていますね、と一言おっしゃると、患者さんのモチベーションも上がっていくということですね。
 福田 そういうことになります。
 池田 あと、例えば内服治療の12週間が終わったとします。その後、外用薬を併用することはあるのでしょうか。
 福田 海外のデータですが、内服と外用は作用機序が違いますので、同時に併用したほうが効果が高いです。ただ、保険のルール上、それは認められていません。例えば内服を先にやって、一定の期間が経ってから外用を併用する。そういうようなやり方をすることによって、より高い有効率、あるいは完全治癒率が得られたというようなデータも出ているので、この併用する意義というのは一部にはあると思います。特に治りにくそうな患者さんの場合には、あらかじめ、そういう対応も必要になるかもしれないと考えておくと、より治療効果を上げることができるのではないかと思います。
 池田 やはり白癬は治しきるということですね。そのためには内服の後に外用することも十分意義がある患者さんがいるということでしょうか。
 福田 はい。やはり、爪白癬は感染症ですので、中途半端な治療で終わりにしてしまうと再燃、再発します。ですから、再燃、再発を防ぐという意味合いでも、治しきる。白癬菌を死滅、完全にいなくなる状態まで持っていくのが大事だと思います。
 池田 ありがとうございました。