ドクターサロン

 池田 竹内先生、骨粗鬆症治療薬は昨今、いろいろな種類の薬が出てきましたので選択の仕方が難しいと思います。どのような観点から選択していくのでしょうか。
 竹内 骨粗鬆症治療薬は最近では多数の種類があります。基本的な選択の考え方の一つとしては、骨粗鬆症の病態を考えた上での選択があります()。
 もう一つは、骨粗鬆症治療の目的は骨折の抑制なので、骨折を減らす効果がエビデンスとしてどのぐらいあるのかという視点から見た選択になります。
 あと、多くの医師が活性型ビタミンD誘導体を使われていると思いますが、併用の意義を考えた選択もあります。
最後に、添付文書である程度使用に制限がかかっている薬剤があるので、そこに注意した上での選択です。この4つを押さえていただければよいと思います。
 池田 広範囲にわたっているので、なかなか難しいと思いますが、まずは病態から見た選択について教えていただけますか。
 竹内 骨粗鬆症は、加齢や閉経などにより起こる特別な原因のない疾患です。骨代謝の問題は、まず女性ホルモンであるエストロゲンが欠乏することで、骨を溶かす破骨細胞の働きが高まり、骨吸収が高まってしまうことです()。もう一つは、年を取る、あるいはビタミンDやカルシウムが足りないことで、腸管からのカルシウムの吸収が低下することから起こってくる問題。これら2つがあります。前者に対しては骨吸収を抑制するような薬がよいですし、後者に対しては活性型ビタミンD誘導体を使っていくことになります。これが病態から見た薬の基本です()。
 池田 骨折抑制効果のエビデンスから見た選択もありますが、これはいかがですか。
 竹内 現在、私どもが使用できる骨粗鬆症治療薬はすべて、プラセボに対し2~3年のRCTで椎体骨折を確実に減らすことができると実証された薬剤です。それが、日本でも海外でも骨粗鬆症治療薬として承認される必要条件になっています。
 ですから、椎体骨折を減らす目的では、どのような骨粗鬆症治療薬を選んでもよく、現在では、その中で優劣が多少あるのではないかと、多くのメタ解析などがされているところです。
 多くの医師が基本的な薬として使っているビスホスホネートの骨折抑制効果を基準とすると、適切に使えば、抗RANKL抗体のデノスマブという薬剤は、椎体骨折効果がビスホスホネートより勝るだろうと考えられています。
 あるいは副甲状腺ホルモン誘導体のテリパラチドやアバロパラチド、抗スクレロスチン抗体のロモソズマブなど、骨アナボリックな作用を持つ薬剤も、ビスホスホネートより効果が高いだろうといわれています。ですから、そこで少し使い分けがあるということです。
 もう一つは、骨粗鬆症性の骨折で一番重篤な大腿骨の近位部骨折をしっかりと科学的に減らすことがわかっている薬剤は、骨粗鬆症治療薬の中でも一部で、ビスホスホネートとデノスマブがその代表です。その他の薬剤としては期間限定の投薬となりますが、ロモソズマブです。
 大腿骨の近位部骨折は70代の終わりぐらいから80代、90代で起こしやすいので、そういった患者さんには、今のようなエビデンスに基づいて薬を使われるのがよいかと思います。
 池田 今のエビデンスにもありますが、これはあくまでシンプルに1剤を用いての治療になります。3番目の活性型ビタミンD誘導体の併用が最近行われていますが、これについては詳しいエビデンスはわかっていますか。
 竹内 活性型ビタミンD誘導体やカルシウムを除くと、現在、その他の骨粗鬆症治療薬は単剤で用いることになっています。その理由としては保険診療上の制約もあります。一方で、活性型ビタミンD誘導体は種々の骨粗鬆症治療薬と併用することができます。
 冒頭で紹介したように、ご高齢の方では、単に年を取っていることでの腸管のカルシウム吸収機能の低下、あるいはビタミンDやカルシウムがそもそも足りないことがあります。カルシウムを十分に効率よく体内に補充していただくためには、活性型ビタミンD誘導体を併用したほうがよいということです。
 例えば、日本で開発されたエルデカルシトールのような薬は、ビスホスホネートとの併用で、ビスホスホネート単剤よりも骨折が少なくなることが観察研究では報告されています。
 一方で、多くの医師がご存じのように、活性型ビタミンD誘導体は高齢者に安易に使うと、脱水などを契機にして高カルシウム血症になったり、急性腎障害を起こしたりするので、そこの安全性には十分配慮していただくことが必要です。
 池田 やはり、ビスホスホネートと活性型ビタミンD誘導体を併用すると、臨床的にも骨折を抑制する効果は高いのですね。
 竹内 そうですね。
 池田 最近のテリパラチドやロモソズマブと、活性型ビタミンD誘導体の併用効果はわかっていますか。
 竹内 まず、ロモソズマブについては、非常に強力な骨形成促進作用と、少し弱いですが骨吸収を抑制する作用もあるので、単剤で使うと、もともとビタミンDが足りていない患者さんでは、低カルシウム血症になるおそれがあります。カルシウムの骨への取り込みが著しく増加する、あるいは骨から血中へのカルシウムの溶出が抑制されることが原因だと思われます。そのために、抗スクレロスチン抗体のロモソズマブをお使いの場合には、積極的に活性型ビタミンD誘導体を使っていただくことが望ましいと思います。
 一方で、副甲状腺ホルモンのフラグメント、テリパラチドやアバロパラチドを使われる場合は、これらの薬剤そのものが血清カルシウムを上げる作用があります。活性型ビタミンD誘導体の併用は禁忌ではないですが、より高カルシウム血症には慎重に使っていただくことになります。これらの薬剤を処方する場合は、一般的には活性型ビタミンD誘導体を併用されなくてもよいかと思います。
 池田 それぞれの薬剤の作用機序も含めて理解しないと、危険な状態にもなりうるということですね。
 竹内 そうですね。活性型ビタミンD誘導体は薬理学的な効果を少し考慮いただいて使うとよいと思います。
 池田 いま治療法を幾つか紹介していただきましたが、漫然とこのような治療を続けることは難しいとうかがっています。それぞれの薬の使用期間が終わった後の治療は、どのように選択されていきますか。
 竹内 まず、複数の骨折を起こされているとか、骨密度が極めて低い患者さんには、先ほど紹介した中ではテリパラチド、アバロパラチドのような副甲状腺ホルモン作用のある薬や、ロモソズマブといった骨をつくる作用のあるアナボリックな効果のある薬剤を優先的に使うことになりますが、そういった薬剤はそれぞれ使用期間の制限があります。
 テリパラチドは24カ月、アバロパラチドは18カ月、ロモソズマブは12カ月と、添付文書上に使用制限期間の記載があります。それはそこまでで休薬していただき、その後、それらの薬剤で得られた効果を維持するために、ビスホスホネートやデノスマブのような骨吸収抑制薬を継続して使っていただくことが重要になります。
 一方で、ビスホスホネートを長期間使うと抜歯の後の顎骨壊死や、少しまれですが、大腿骨の骨幹端部の非定型骨折などが問題になってきます。日本人は西欧人などと比べ、大腿骨の非定型骨折のリスクが高いことが知られているので、ビスホスホネートに関しては、必須ではありませんが、例えば5 年くらい使ったところで1~2年、休薬を検討することも勧められます。
 ビスホスホネートは骨蓄積性の薬剤なので、休薬の期間に徐々に骨代謝により骨から薬剤が抜けていきます。1~2年経ち、骨密度がまた下がり始めたら、再度ビスホスホネートを使っていただくことで長期に安心して治療が続けられます。
 私たちはドラッグホリデーと呼んでいますが、5年使って1~2年休むような使い方も、標準的に考えていただければよいと思います。
 池田 それぞれの新薬は使用期間が決まっているということですが、繰り返して使うことができるものはありますか。
 竹内 添付文書上、テリパラチド、アバロパラチドは、生涯にわたり決められた期間ということになっています。
 一方で、ロモソズマブは12カ月という限定がありますが、後日、ほかの治療を続けていて、改めて骨折を起こしたり、骨密度が極めて下がった場合には、再度使用することができます。2 回目の使用のときも12カ月なので、ロモソズマブに関しては、患者さんの病状に応じ複数回使っていただくことが可能になっています。
 池田 一方、新薬にはそれぞれ幾つかの薬の組み合わせがあると思いますが、例えばデノスマブを使った後にテリパラチドを使うといった可能性はありますか。
 竹内 デノスマブに関しては一つ注意点があります。デノスマブは非常に強力な骨吸収抑制薬ですが、ビスホスホネートと異なる点として、作用期間が過ぎると早期に骨吸収のリバウンド、あるいはオーバーシュートという現象が起こります。
 ですから、デノスマブの休薬は非常に慎重に行う必要があると同時に、骨吸収が亢進するオーバーシュートの時期にテリパラチドを使うと、テリパラチドによるPTH(副甲状腺ホルモン) 作用により、その状況が悪化すると考えられています。デノスマブからテリパラチド、あるいはデノスマブからアバロパラチドへの切り替えは推奨されていません。骨吸収抑制薬のデノスマブから切り替える場合には、あえて別の骨吸収抑制薬のビスホスホネートにつなげていただくことが望ましいと思われます。
 池田 いろいろ薬がありますが、基本的な骨粗鬆症の治療はビスホスホネートと活性型ビタミンD誘導体の治療でしょうか。
 竹内 基本的な病態と、あるいは薬価の点からも、その組み合わせが世界的に見ても標準的な治療だと考えられています。
 ビスホスホネートの場合にはいろいろな投与方法があり、ほかにたくさん薬を使われている方、内服管理が難しい方は、1年に1回だけ点滴をする方法もあります。患者さん、あるいは患者さんのご家族にとっても利便性が高くなる選択肢もあるので、積極的にご検討いただいてよいかと思います。
 池田 どうもありがとうございました。