ドクターサロン

大西

「原因不明消化管出血に対する治療」というテーマでお話をうかがいます。原因不明消化管出血とは何か、そのあたりから教えていただけますか。

矢野

原因不明消化管出血は、英語でObscure GI bleeding(OGIB)といいます。かつては上部・下部消化管を検査して出血源がわからない消化管出血や、鉄欠乏性貧血のことを指していました。今世紀に入り、カプセル内視鏡やバルーン小腸内視鏡が出てきて、小腸の検査がかなり普及してきた過程で、今度は小腸もすべてしっかり検査した上でも出血源が見つからない場合にOGIBという言葉を限定して使っていこうとなってきています。

大西

日本と米国の考え方に違いが少しあるようですが、そのあたりはいかがでしょうか。

矢野

日本では、上部・下部消化管を調べて出血源が見つからない場合を原因不明消化管出血ということのほうが、頻度としてはまだ多いと思います。

大西

上部・下部消化管出血と、その中間の中部消化管出血という考え方もあるのですね。

矢野

一般的には、通常の胃カメラ(上部消化管内視鏡)で検査ができる十二指腸乳頭部までの出血をUpper GI bleeding、大腸内視鏡で検査できる回腸末端までの出血をLower GI bleeding と呼んでいます。乳頭から回腸末端までの間の出血に関しては、Mid-GI bleedingという概念があります。その場合に小腸内視鏡が活躍します。

大西

全消化管出血の中での中部消化管出血の割合のようなものもわかっているのでしょうか。

矢野

頻度としては5~10%と低いものです。

大西

顕在性出血、潜在性出血の違いを教えていただけますか。

矢野

黒い便、赤い便、吐血のような、目で見て血が出たとわかるようなものを顕在性出血といいます。目で見てわからないけれども、鉄欠乏性貧血の進行や、便潜血陽性が続く場合、潜在性出血と呼んでいます。

大西

診断についてうかがいたいと思います。いろいろな検査法があると思いますが、代表的なものの特徴を教えていただけますか。

矢野

画像診断としては造影CTです。日本ではCTが非常に普及しているので、内視鏡学会等で定めたガイドラインでも、まずは胸腹部の造影CTをお勧めしています。造影CTを撮ることにより、造影剤が消化管内に漏れ出ていれば、extravasationとして出血部位を特定しやすくなることがあります。

大西

カプセル内視鏡も進歩していると思いますが、その検査の位置づけ、特徴などを教えていただけますか。

矢野

CTでextravasationが明らかに認められたり、腫瘍や壁肥厚といった明らかな異常が小腸に見つかった場合には、カプセル内視鏡を飛び越え、バルーン小腸内視鏡を選んだほうが確実に観察でき、場合によっては内視鏡的止血術や生検、点墨ができます。

CTで病変が何も見つからない場合には、バルーン小腸内視鏡を口から入れたほうがいいのか、肛門から入れたほうがいいのかも判断がつかないので、カプセル内視鏡であたりをつけ、どうするかということになります。

大西

カプセル内視鏡の精度もずいぶん上がっているのでしょうか。

矢野

カプセル内視鏡も機器が徐々に進歩しました。画質の向上とともに、当初は1秒間に2コマずつの撮影でしたが、現在最も普及しているものは、1秒間に2~6コマの間でカプセルの動きに合わせて撮影枚数が変わるようになったものや、カプセルのカメラが片方ではなく両方についているもの、周囲を360度見渡せるようなタイプのカプセルも出てきています。以前に比べると見落としが少なくなったと思います。

ただし、カプセル内視鏡は送気ができないので、粘膜下腫瘍、メッケル憩室などは見落としがけっこうあります。また、十二指腸と上部空腸に関しては、動きが速すぎて、見逃すことがときどきあります。

大西

バルーン小腸内視鏡はどういうものなのか、教えていただけますか。

矢野

小腸は腹腔内で腸間膜にはつながれているものの、かなり自由に屈曲して存在しています。ここに普通の内視鏡を押し込んでいくと、その押し込んだ分が、腸が伸びることに費やされてしまい、先端が進んでいきません。

このバルーン小腸内視鏡は、本学の山本博徳教授が発明した方法です。オーバーチューブといって、スコープの外側に付けたチューブの先端に風船が付いていて、風船で腸管を内側から把持することで、腸が伸びなくなるようにできています。腸が伸びないので、内視鏡の先端が進むようになります。

大西

出血ということで、血管造影を行うこともあるのでしょうか。

矢野

内視鏡を行うためには、バイタルサインがある程度保たれていないと危険なので、ポンピング輸血しても血圧が保てないような症例では、画像下治療(IVR)を選択することになります。

大西

次に、出血源をうかがいます。西洋とアジアでは原因がだいぶ異なると聞いていますが、そのあたりはいかがでしょうか。

矢野

西洋では血管性病変の頻度が多く、アジアでは潰瘍性病変が多いといわれていましたが、最近、日本人もピロリ除菌等で腸内環境が変わってきたせいか、血管性病変の頻度が増えてきました。最近は西洋とアジアの差は、あまり話題にはなっていません。

大西

腫瘍性病変にはどういったものが多いのでしょうか。

矢野

出血で見つかることが多い腫瘍性病変はGIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)です。これが最も多く、ほかに悪性腫瘍としては小腸がん、悪性リンパ腫があります。小腸がんは顕性出血ではなく鉄欠乏性貧血、もしくは閉塞症状で見つかることが多いです。

大西

GISTの割合はかなり多いのでしょうか。半分ぐらいですか。

矢野

日本では小腸がんとGISTがほぼ同じぐらいの割合ではないかと思います。

大西

カルチノイドとか、そういったものもあるのでしょうか。

矢野

欧米ではカルチノイドの頻度が高いといわれていますが、日本ではその頻度が低いです。

大西

血管性病変の話がありましたが、それにはどういったものがありますか。

矢野

おおまかに血管性病変というと、小腸出血源の3~4割を占めるといわれています。その大多数はangioectasiaと呼ばれている血豆のようなものです。内視鏡検査をすると、赤い斑点のようになっているもので、そこからじわりじわりと出血するパターンが多いです。中にはDieulafoy’s lesionといって、細い動脈が表面近くを走っていて、そこが破綻して拍動性出血をするものもあります。

大西

こういった病変の治療はどのようにすればよいのでしょうか。

矢野

血管性病変を内視鏡で見つけることさえできれば、それに対しアルゴンプラズマ焼灼法、止血クリップでの治療が可能です。

大西

潰瘍性病変は、原因としては鎮痛剤などが多いのでしょうか。

矢野

高齢者ではNSAIDs起因性小腸炎があります。若年者に関してはクローン病の頻度が高くなります。

大西

特に薬剤だと気をつけなければいけませんね。意外と小腸に潰瘍性病変を起こすということですね。

矢野

そうですね。いまPPIやPCAB等の非常にいい胃薬があるので、それさえ使っておけば、確かに胃潰瘍はできにくくなっています。小腸に関しては、NSAIDs起因性腸炎をPPI、PCABで予防することはできませんので、気をつける必要があります。

大西

そのほかには何か気をつけなければいけない病気はありますか。

矢野

若年者の出血に関しては、我々もよく忘れがちですが、メッケル憩室の可能性も考え、検査をする必要があります。CT、カプセル内視鏡で見つからない、しかし若年者で出血が続く場合には、メッケル憩室を考えると、経肛門のバルーン小腸内視鏡がよいかと思います。

大西

ありがとうございました。