池田
好塩基球刺激試験とは何でしょう。
宇賀神
血液に抗原を添加し、血液中にある好塩基球の活性化を評価する検査です。大きく2種類あり、一つは抗原刺激依存性の好塩基球のヒスタミンの遊離を見る検査で、もう一つは、好塩基球の細胞表面の活性化マーカーの変動を見る検査があります。
特に後者のほうは好塩基球活性化試験といわれ、簡便に全血を用いて実施できることから、よく実施されている検査です。
池田
好塩基球活性化試験は、いわゆる検査会社でもできるのでしょうか。
宇賀神
一部の検査会社ではできるのではないかと思います。
池田
活性化試験といわれているほうは、マーカーの変動を見るそうですが、どのようなマーカーがあるのでしょうか。
宇賀神
よく使われているマーカーは2つあります。一つはCD63というマーカーで、これはLAMP-3とも呼ばれている分子です。休止期には細胞の顆粒の中に発現していますが、活性化すると細胞表面に検出されてきます。ですから、好塩基球自体の脱顆粒やヒスタミンの遊離を直接的に反映する分子とされています。
もう一つがCD203cという分子です。これはⅡ型膜貫通型タンパク質であり、細胞外のオリゴヌクレオチドやヌクレオチドリン酸などを分解する膜型酵素です。血液中では好塩基球のみが発現しており、IgE刺激だけではなく、IL-3刺激などでも発現が誘導されるとされています。
池田
その表面マーカーが変わるのは、どういう方法で検出するのでしょうか。
宇賀神
蛍光色素がついた抗体を使って細胞を染色し、そちらをフローサイトメーターという機器を用いて測定していきます。
池田
いわゆるFACSですか。
宇賀神
そうです。
池田
では、一般の検査会社でもFACSができる会社でないと、これは無理ということですね。
宇賀神
そうですね。あとは各施設などの実験室レベルで行われていることも多いかと思います。
池田
いまマーカーを2つお話しいただきましたが、これだけで、それが本当に好塩基球かどうかはわかるのでしょうか。
宇賀神
確かに、この2つだけではわかりません。同時にそのほかの標識も染色し、好塩基球を同定します。
例えば、CD3、CRTH2、CD203cといった3つのセットで染色を行い、T細胞と好塩基球を分離するようなかたちで、好塩基球はCD3陰性、CRTH2陽性、CD203c陽性の細胞として識別されてきます。
池田
それで好塩基球であることがわかり、その表面のマーカーの発現の変動を見るということですね。
宇賀神
はい。
池田
非常に現代的なやり方だと思いますが、この検査はどのような目的で行われるのでしょうか。
宇賀神
一般的には食物や薬物、環境抗原などの即時型アレルギーにおいて、抗原の同定や確認のために検査として用いられています。そのほかには、こうした即時型アレルギーの患者さんにおいて、例えばアレルギーの免疫療法などが実施されている場合、治療効果のモニタリングなどに用いられることもあります。
池田
比較的多彩な用いられ方ですが、即時型アレルギーを検出するということですね。
宇賀神
そちらがメインになると思います。
池田
従来の即時型アレルギー検査と比べ、どのような相違点があるのでしょうか。
宇賀神
従来ある検査の一つとしてよく知られているのが、抗原特異的IgE検査になると思います。こちらと比較すると、好塩基球活性化試験は生体のアレルギー反応により近い現象を評価してくる検査になります。
あとは、実際に患者さんに抗原を負荷する誘発試験も以前からありますが、こちらは実際に検査の段階において、アナフィラキシーなどの事象が生じるリスクがあります。好塩基球活性化試験であれば、この辺りの症状の誘発のリスクなどはなく、安全性が高い検査だと思います。
池田
従来よりも生体に近いけれども、試験管内の反応ということで、より自然に近く、安全性も高いということですね。どのくらいの血液を採る必要があるのでしょうか。
宇賀神
好塩基球活性化試験では、だいたい1サンプルの解析に100μLの血液が必要とされています。一つの抗原による活性化を測る場合でも、抗原の濃度による依存性の反応を確認する必要があるため、数サンプルでの実施が必要になってくることが多いです。
ここに陰性コントロールと陽性コントロールを加え、数㏄程度の血液で、数種類の抗原について反応を見ることができます。
池田
濃度依存性ということですが、例えばある薬剤を何倍かに薄めておき、それをまた10倍、10倍といったかたちでやるのでしょうか。
宇賀神
はい。だいたい10倍くらいの段階希釈にして、抗原の濃度が上がるのに段階的に反応性が上昇し、そこがさらにプラトーになっていくところを確認したりします。
池田
陽性コントロールは何を使うのですか。
宇賀神
抗IgE抗体を使っています。
池田
IgE抗体を刺激することによって上昇するマーカーと、この薬剤を濃度依存性に添加したものとの度合いを見ていくことになるのでしょうか。
宇賀神
はい。
池田
いろいろなものを検査するということですが、検査する材料として不向きなものはあるのでしょうか。
宇賀神
基本的には血液中に抗原を添加し、好塩基球の活性化を見るようなかたちになるので、水溶性の高い物質のほうが検査に向いているといえます。その一方で、脂溶性が高く、水溶性が低い物質については、検査に不向きかもしれません。
池田
水に溶かしますから、溶けないものは検査できないのですね。おそらく、最初に行われてきたのが薬剤だと思いますが、どのような抗生物質が検査されているのでしょうか。
宇賀神
抗生物質だと、βラクタム系、キノロン系の報告があります。その他、筋弛緩薬での報告例等があります。
池田
食べ物はありますか。
宇賀神
食べ物はまちまちだと思います。食物から抽出した粗抗原自体を用いているものから、精製タンパクレベルでの実施と、幅広く行われていると思います。
池田
では、技術的には確立されているけれども、それぞれの症例とそれぞれの抗原物質により、まだ統一ができていないのでしょうか。
宇賀神
そうです。
池田
検査のタイミングについて、アレルギー症状が起こった日から、ある程度の期間を空けたほうがよいのでしょうかと質問にあります。これについては何かレポート等はあるのでしょうか。
宇賀神
一般的に、即時型アレルギーの検査だと、アナフィラキシーなどの全身性の反応を起こした場合は、その直後に不応期が存在するといわれています。ですから、そうした発作から2週間程度の期間を置いての検査の実施が望ましいかと思います。しかし、あまり時間を置きすぎても検査の陽性率が下がるという報告が最近出ています。例えば、周術期の過敏反応の患者さんに対する好塩基球の活性化試験の陽性率についての検討が報告されています。発作を起こして6週間以内に好塩基球活性化試験を実施すると、83.3%の患者さんが陽性になっています。
しかし、6週間から3年たったような状況での検査の実施だと51%、3年以上経過しての実施だと20%まで陽性率が下がるといわれています。
ですから、好塩基球活性化試験は6週間以内程度には実施したほうが、陽性率がある程度保たれるといえるのかもしれません。
池田
先ほど2週間程度の期間を置くといわれましたから、2~6週間以内に行ったほうがいいというのが、今の話ですね。遅すぎるとよくないのですね。
宇賀神
そのようです。
池田
3年以上で20%となると、やる意義がなくなってしまいますね。最近報告されている検査法ですが、何か注意点はありますか。
宇賀神
注意点としては、一部の患者さんにIgEの受容体の刺激で活性化がされないようなノンレスポンダー、ノンリリーサーと呼ばれる方が一定数、存在するといわれています。この患者さんでは好塩基球活性化試験の検査の対象外とされていて、除外する必要が出てきます。
具体的には、陽性コントロールである抗IgE刺激で細胞を活性化してみて活性化の反応が得られなければ、その患者さんは除外するかたちになるかと思います。
池田
では、陽性コントロールが陰性と同じような方は、その試験自体、意味がないということですね。ありがとうございました。