ドクターサロン

山内

質問では、蛋白尿が出現してきたところですが、今回は話題を少し広げ、糖尿病の患者さんで特に蛋白尿が大きく問題になる例が多いので、このような方々の管理一般ということで話をうかがいます。

糖尿病の場合、腎臓障害で蛋白尿が先行することは専門医の間ではよく知られていますが、この辺りをご紹介ください。

岡田

ほかの腎疾患に比べ、糖尿病性腎症の場合には、糸球体が炎症などで壊れて蛋白尿が出てくるというよりも、糸球体の構造そのものは保たれているにもかかわらず、糸球体の中の血圧が非常に高くなることにより、蛋白が漏れてきてしまうかたちで、少量の蛋白尿が早い段階で出てきます。その場合、構造は壊れていないので、血糖の管理や血圧の管理など、標準治療として設定されている様々な糖尿病の管理目標をしっかりと守ると、蛋白尿が消えてくれます。

ほかの腎疾患は一度出てきた蛋白尿を消すことはなかなか難しいですが、糖尿病は初期ならば生活習慣を見直すことで蛋白尿が消えてくれるという特徴があります。出始めをタイミングよく見つけ、しっかりと介入することで抑え込める病気なのです。

山内

したがって、その辺りのところで専門医に1回診てもらうことは悪くはないと考えてよいでしょうか。

岡田

そうですね。日本腎臓学会と日本医師会が協力して、かかりつけ医から専門医、専門医療機関に患者さんを紹介していただく紹介基準をつくっているので、それを参照していただけると、タイムリーな紹介が可能になります。

専門医のところに行っても特別な薬が出ることはありません。その代わり、専門医と多職種の医療スタッフがいるので、管理栄養士、生活のアドバイスの専門家である療養指導士、理学療法士が患者さんの生活習慣を徹底的に見直し、指導して、行動変容に結びつける。かかりつけ医にはそれだけスタッフがそろっていることはまれでしょうから、患者さんの行動変容を通して生活習慣を是正することで、出始めた蛋白尿を消すために、専門医療機関をぜひ活用していただきたいと思います。

山内

腎症の2期、3期あたりの管理に絡んでくると思われますが、このあたりをしっかりやると、進行がある程度ないし、かなり抑えられると考えてよいのですね。

岡田

そうですね。日本糖尿病学会がJ-DOIT3研究で血圧、血糖、脂質、肥満の是正、禁煙等々の集学的治療を従来の目標よりもさらに厳しい目標に設定して、それを達成させると、糖尿病患者さんの腎症の発症、もしくは発症されている方の進展抑制、早い段階ならば寛解などに有効であることを世界に発信しています。

特に厳しい集学的治療を達成するためには、かかりつけ医と患者さんの1対1の取り組みよりも、専門医療機関を活用して多職種でアプローチすることによって達成する確率がより高くなることが示されているので、ぜひそういった目的のためにも、専門医療機関を活用していただきたいと思います。

山内

早期の段階での専門医への紹介タイミングですが、質問では「eGFR、アルブミン/クレアチニン比、UAE以外に注目すべきマーカーはありますか」ということです。例えば尿のβ2-ミクログロブリン、NAG、L-FABPなどを挙げられていますが、これはいかがでしょうか。

岡田

糖尿病の患者さんに蛋白尿が出てきたときに、それがどういった病態かを考えると、大きく分けて2つあります。ひとつは糖尿病性腎症が出てきた。あとは糖尿病の患者さんに別の腎臓病が出てきた。

この2つの可能性を考える必要があります。この2つの可能性の鑑別には、例えば検尿所見でβ2-ミクログロブリンやNAGが出ていても、あまり役には立ちません。それよりは尿沈渣をしっかりと見ていただき、血尿があるかないかで判断します。

あるとしても赤血球の形が糸球体型か非糸球体型かを見ていただくほうが、糸球体病変があるかないか、糖尿病からくる糸球体からの蛋白尿なのか、別の腎疾患が出てきたのかの鑑別には重要です。尿沈渣は、尿細管マーカーよりも、より重要な情報を提供してくれる検査だと思います。

山内

確かに最近、尿沈渣は忘れられがちなところがありますが、昔は、鑑別診断学の一番重要な項目でもあったわけで、この辺りは今でも重要ということですね。

岡田

今でもそうです。

山内

ちなみに、糖尿病では尿細管障害はあまり出てこないと考えてよいですか。

岡田

先ほど挙げていただきましたL-FABPという尿細管マーカーは、糖尿病のときに保険適用になっています。これは微量アルブミン尿のレベルから現れ始めるので、糖尿病患者さんの軽度の尿細管障害を感度よく教えてくれます。ただ、ほかの腎臓病でも陽性になりますので、出てきた蛋白尿、アルブミン尿が糖尿病性腎症によるものか、別の腎臓病によるものかという鑑別には、やはりあまり役立たないと思います。

山内

そうすると、注目するのは原則的にはクレアチニン、eGFRですね。もう一つは、早期だとUAE。この辺りでいいですか。

岡田

これが一番重要ですが、それをきちんと定期的に検査していただく。要するに、経過を見ていただくことが重要です。緩やかにアルブミン尿が増えていき、その後からGFRが落ちていくといった変化は糖尿病性腎症に特徴的ですが、アルブミン尿が急激に増える、もしくはアルブミン尿が少ないのにGFRが急激に落ちるような場合には、糖尿病性腎症の急性増悪の場合もないわけではありませんが、別の腎臓病が合併している可能性が高いです。

そのような大きな変化があったときには、ぜひ専門医にご紹介いただき、アドバイスを受けていただきたいと思います。

山内

UAEの量に基づいて腎症を2期、3期に分けたことには意味があると考えてよいのですね。

岡田

先ほど申し上げましたように、2期は生活習慣の是正により消すことができるゴールデンタイムという意味で設定されましたが、3期に入っても有効な治療薬が出てきました。糖尿病性腎症のアルブミン尿の減少にはRA系阻害薬が有力な治療薬として長年あったわけですが、近年はSGLT2阻害薬、さらにMineralocor ticoid re ceptor antagonistをRA系阻害薬に追加、併用することにより、アルブミン尿、蛋白尿をさらに減らすことができるようになってきました。

そういった薬剤を使えば、3期であっても、もしかしたら蛋白尿をぐっと減らして一気に引き戻すようなことも可能な時代になってきました。2期、3期を厳密に分ける、アルブミン尿が300前なのか後なのかということに関しては、あまりこだわる必要はないだろうと思いますが、とにかく早期診断、早期介入が重要です。

山内

腎症4期が、いきなりeGFRが30ですね。腎症の3期の辺りとかなり格差があるというか、随分差がある印象はありますが、この辺りはいかがでしょうか。

岡田

実際に一人の患者さんの経過を見ていると、3~4期はシームレスに続いていくのですが、近年、アルブミン尿が出ていないのにGFRが下がっていく患者さんが出てきました。このような患者さんを従来型の糖尿病性腎症の病期分類の中のどこに収めるかということが議論され、近年は、アルブミン尿がなくてもGFRが30を下回った方は非典型的ではあるが、何らかの糖尿病に関連した腎臓病だろうと考え、4期に入れようということで、3期と4期のGFRの区切りを30に設定しました。

山内

ちなみに、蛋白尿がだんだんひどくなるとネフローゼになりますが、私の印象だと最近、ネフローゼはあまり見ない気もします。この辺りはいかがでしょう。

岡田

おっしゃるとおり、集学的治療が有効だということが、かかりつけ医にも広く浸透して、糖尿病の患者さんに対する管理が行き届いてきています。それと、新しい蛋白尿を抑え込める薬も臨床導入されていることも相まって、重症化される方が減ってきているという非常に喜ばしい状況です。

2022年度の日本透析医学会が出した統計調査の結果、糖尿病性腎症による透析導入の患者さんは明らかにピークアウトしてきています。長らく糖尿病性腎症は透析導入の原因疾患の1位ですが、今後、より一層のかかりつけ医のご協力により、2位、3位へと抑え込んでいける可能性が出てきている。そのような我々を勇気づけてくれるような傾向が見えてきています。

山内

どうもありがとうございました。