ドクターサロン

池脇

家族性高コレステロール血症(FH)は小倉先生の最も得意とする領域の一つです。正確にはFHのヘテロ接合体ですが、質問を見ると、狭心症の患者さんでは5%でFHとのことです。

急性冠症候群(ACS)の患者さんでFHがどのくらいいるかは、国内外でいろいろな報告があるので、これはおそらく狭心症ではなくACSの患者さんだと思われます。それにしても5%は多いですが、そもそも一般人口でFHはどのくらいいるのでしょうか。

小倉

いまは300人に1人と考えられていますから、0.33%になります。

池脇

それは遺伝疾患のわりには多くないですか。

小倉

遺伝性代謝疾患の中で最も多い病気です。

池脇

以前、我々が学んだ教科書では500人に1人と書いてありましたが、いまの研究ではもっと頻度が高いということで、国内外一致していますか。

小倉

昔はLDL受容体遺伝子だけ見つかっていましたが、その後、PCSK9が見つかり、学問が進むにつれ、もっと多いことがわかりました。今は250~300人に1人ぐらいだろうと、全世界的に訂正されています。

池脇

これは基本的な確認ですが、FHヘテロの患者さんは、片親から主にLDL受容体、あるいはPCSK9の遺伝子変異により、そうではない方に比べ、生まれたときからLDLがだいたい2倍ぐらい高いですね。それで年月を重ねてこられると、どうしても早期に冠動脈疾患になりやすい病気だということで、よいのですね。

小倉

そのとおりです。

池脇

一般人口では0.33%。ACSの患者さんでは5%程度なので、10倍以上になります。それだけのハイリスクの集団を選ぶと高いのですね。

小倉

そのとおりです。

池脇

小倉先生も国立循環器病研究センターで働きになられているときには、CCUで循環器の医師と一緒に患者さんのアキレス腱を触っていたと聞いています。

小倉

はい、レジデントが代わるたびにFHについての座学のレクチャーをさせていただき、ACS患者は全員のアキレス腱を触って、自信がなければ呼んでくださいということをしていました。

池脇

ACSで入院した患者さんに対しFHかどうかをみていくときに、日本動脈硬化学会が出しているFHの診断基準がありますが、これはどういう基準でしょうか。

小倉

2022年7月に改訂されたものだと3項目あります。

まずはLDLコレステロールが180㎎/dL以上。

2つ目が、皮膚および腱黄色腫で、主にアキレス腱の厚さで判定します。今まではレントゲンで男女9㎜以上でしたが、金沢大学と国立循環器病研究センターとの共同研究の結果、男性は8.0㎜、女性は7.5㎜以上ということで下方修正されています。

実は我々の研究ですが、アキレス腱の厚さを超音波で測定して、FH診断のカットオフ値を求めました。その結果、男性6.0㎜、女性5.5㎜以上という基準も、今回から採用されました。

もう一つが家族歴です。第1度近親者といいますが、父母、きょうだい、子どもの中にFH、もしくは早発性冠動脈疾患がいるかどうか。

この3項目のうち2つを満たした場合にはFHと診断します。

加えて今回は、LDLコレステロールが160㎎/dL以上であっても腱黄色腫、もしくは家族歴があれば、積極的にFHを疑うようにというメッセージが入っています。

池脇

ACSで入院して、しばらく絶食の患者さんだと、LDLコレステロールが低いときもありますね。

小倉

特に心筋梗塞を起こして1週間ぐらいは、LDLコレステロールは下がります。ですから、LDLコレステロールだけで除外するのは難しいと思います。

池脇

冠動脈疾患、狭心症の既往がありスタチンを内服しているとなると、本来のLDLコレステロールがどのくらいか判断するのは難しいですよね。

あるいは、逆に若い方。東京大学の岡崎先生が、入学時のLDLコレステロールが160㎎/dL以上の人の遺伝子を調べたら、けっこうな頻度だったということです。状況によっては少し低めのところで見てもいいのですね。

小倉

はい、そのとおりです。

池脇

そして確かにアキレス腱を触って厚ければ、FHの診断にだいぶ近づきますが、実際はどうでしょうか。特に若い人の場合、なかなかアキレス腱黄色腫がある方は、そう多くはないのでしょうか。

小倉

年齢はけっこう大きなファクターで、もちろん子どもは黄色腫は出ませんし、若年の女性もアキレス腱がまだ厚くない方も多いので、そこで診断するのは本当に難しいです。

池脇

最後は家族歴です。私も、FH疑いの患者さんが来たときに家族歴を聞きますが、情報を取るのはなかなか難しいですね。

小倉

根気や熱意と、離別や死別といった家族状況にかかってしまいます。私はいつも補完項目と言っていますが、LDLコレステロールで引っかけ、アキレス腱で診断、微妙なときに助けになるようなのが家族歴というイメージです。

池脇

日本の診断基準は3つの項目の2つ以上で、立て付けは非常にシンプルですが、実際問題、それで診断するのはなかなか難しいですね。

質問者は、簡単に診断できる方法を教えてほしいということですが、どのような方法がありますか。

小倉

簡単にと言われると、ごめんなさい、ありません、という感じです。

ただ、私は診断基準には行間があると思います。3項目それぞれ特徴があります。LDLコレステロールは、みながアクセスでき、数値化できる、客観的にいい指標ですが、例えば甲状腺機能低下症で上がってしまったり、急性期の心筋梗塞では下がる。もっと言うと、思春期のFHでも下がってしまうので、そういう意味では特異度が低いですね。

一方、アキレス腱の厚さは、アキレス腱を切って修復した人以外は、FHしか厚くない。そうなると、心筋梗塞の急性期にLDLコレステロールが低かったとしてもアキレス腱が厚かったら、その人はFHだということになります。

LDLコレステロール値とアキレス腱の厚さでも微妙だなというときに、家族歴を取ったり、年齢のわりに動脈硬化が進んでいるかを確認します。アクセスできれば遺伝学的な検査を行います。このような流れに沿えばうまく診断ができるようになると思います。

池脇

最近、遺伝子診断ができるようになったのですね。

小倉

そうです。2022年4月にFH、ほかの脂質代謝異常症もありますが、5,000点で遺伝学的検査が保険適用になりました。

池脇

無数の病的なミューテーションをチェックできないにしても、日本人に比較的多いものはそろえている検査なのですね。

小倉

網羅的に見てくれます。新規の変異、バリアントが見つかることもあると思います。

遺伝子が3つわかっていますが、LDLRAPOBPCSK9の3つのうちどれかを満たしている、私たちがFHだなと思っている人たちは、実は7割ぐらいしかいない。3割は新規の遺伝子なのか、多型のようなものが複数重なっているのか、まだわかっていないところもあります。

遺伝学的検査で陰性だったからといって、絶対にFHではないと言いにくいのが頭の痛いところです。

池脇

そうすると、この遺伝子診断は、従来の3項目の2つ以上を満たしていれば、FHヘテロ。臨床的にヘテロという場合には必ずしも必要ないが、少し満たさないけれども怪しい、あるいは若い方に対して測る、オプションが増えたという考えでよいですか。

小倉

そのとおりです。遺伝学的検査で出た場合には、ほかの項目を満たしていなくてもFHと診断していいとなっています。

池脇

最後に治療の話をお願いします。FHは一次予防が100㎎/dL未満、二次予防は70㎎/dL未満です。そこまで持っていくのはけっこうたいへんですが、最大用量のスタチンとエゼチミブが基本になりますか。

小倉

そのとおりです。国立循環器病研究センターのデータでは、FH患者さんが内服薬のみで治療されたときのLDLコレステロールの中央値が140㎎/dLでした。ですから、100㎎/dL未満はなかなか、達成していない患者さんが多いことになります。

池脇

以前はそこで悔しい思いをしていたのが、このPCSK9の阻害薬を導入すると、ストンと下がりますよね。

小倉

そうですね。私の患者さんでは、スタチンとエゼチミブを内服した状態の値からさらに60%下がります。70㎎/dL未満を普通に達成できる世の中になりました。

池脇

2週間に1回、場合によっては1カ月に1回ということで、負担はそんなに大きくないと思いますが、今度また新たなsiRNAという新しい手法のPCSK9の阻害薬が開発されました。これは年に数回でいいらしいですね。

小倉

はい。ほとんどワクチンのような状況で、年に2~3回打つと一年中ずっと40~50%程度下がっている、すごい時代になってきたと思います。

池脇

患者さんにとっては、目標値まで下げるのが本当に現実的に可能な状況になってきましたね。

小倉

ですから、ご質問のとおり、何が重要かというと、FHは治療できるので、見つけることが本当に大事になると思います。

池脇

ありがとうございました。