池脇 中林先生、ドクターサロンにはいろいろな疾患に関しての質問が多いのですが、今回は、医薬品副作用被害に対する救済制度です。すなわち何かの薬を飲み、副作用で重篤な後遺症を残すようなものに対しての救済制度についてです。
これは、正式には医薬品副作用被害救済制度といわれているもので、先生がお勤めのPMDAが担当されているとうかがっています。調べてみると、できたのは古く1980年で、40年以上たっている制度ですが、この制度ができた経緯について教えてください。
中林 まず、以降は救済制度と略させていただきますが、医薬品副作用被害救済制度はPMDAが担当しています。PMDAは医薬品や医療機器の承認審査、市販後の安全対策、救済が3大業務になりますが、PMDAの歴史の中でも、救済業務は最も古いものです。
1980年に設立され、当時の有名な健康被害、サリドマイドの事件やキノホルムによるスモンの事件がきっかけになっています。
制度ができた経緯は、当時、健康被害に遭った方々への迅速な救済が社会的にも求められたことがきっかけです。不幸な健康被害ではありましたが、社会的な要請で設立されたところがあります。
池脇 本当に痛ましい事件で、会社を訴えても判決まで10年近くかかってしまうと、もう遅い。そこを迅速に救済しようということで、この制度ができたということですが、世界的にもそういう制度はあるのでしょうか。
中林 日本以外にもドイツ、フランス、スウェーデンでも救済制度があります。PMDAは承認審査を行っている規制当局になりますが、医薬品の審査と安全対策、救済の3つを行っている規制当局は、世界広しといえども日本のPMDAだけです。
池脇 それだけたいへんな仕事ということになりますが、救済ということで、おそらくいろいろな条件があると思います。副作用も軽いものから重いものまでありますが、救済制度に適応されるのは、ある一定以上の重症度が条件になってくるのでしょうか。
中林 そのとおりです。すべての副作用が対象になるわけではなく、副作用の場合、入院治療が必要なほどの疾病が対象となります。また、入院治療だけではなく、日常生活が著しく制限される以上の障害も対象になります。主に入院治療が必要な副作用、生活が制限されるような障害が対象になります。それでお亡くなりになってしまった副作用ももちろん対象になります。
池脇 PMDAが救済するかどうかはどういう薬が対象なのでしょうか。
中林 医療機関で処方できる医療用医薬品だけではなく、生物由来製品、再生医療等製品が対象になります。
また、最近では今まで病院で処方がなければ使用できなかった医薬品が市中の薬局でも使えるようになっているので、市中の薬局で販売されている一般用医薬品も対象になります。
ただ、すべての医薬品が対象になるわけではなく、医療用医薬品の中でも一部対象にならないものがあります。具体的には、厚生労働大臣が指定した抗がん剤、免疫抑制剤などは対象外になるので、この点も承知いただければと思います。
池脇 市中の薬局で出している薬の一例を挙げると、以前、ファモチジンは処方薬でしたが、今は薬局でも販売しています。そういうものも対象でしょうか。
中林 そのとおりです。
池脇 その延長線上で、いま健康食品やサプリメントを使われている方はけっこう多いと思いますが、それらはどうでしょうか。
中林 残念ながら、サプリメント、健康食品は医薬品ではないので、対象にはなりません。
池脇 ほとんどの医薬品、病院で処方するものはもちろん、市中の薬局、ドラッグストアのものも対象だというのは、非常にありがたい制度ですね。年間で救済されるケースは何件ぐらいでしょうか。
中林 1980年に設立されてからPMDAに請求されるのは年々増えており、2022年度で約1,200件の請求があります。
池脇 多いなという印象ですが、これは右肩上がりに増えてきているのでしょうか。
中林 右肩上がりではありますが、ここ最近は、ややプラトーになってきています。ずっと右肩上がりということではないようです。
池脇 1,200件が多いのか少ないのかわかりませんが、きちんと救済する意味では、1,200件はけっこうな数字かと感じます。
そういった事象が患者さんに起こったときに、PMDAに申請する手続きはどういう感じでしょうか。
中林 まず請求者となれる方は患者さんご本人、もしくはその遺族の方となります。
患者さんが医療機関に診断書の交付をお願いし、診断書、それから患者さん自身が作成される請求書とともにPMDAに請求していただく。PMDAで調査を行い、今度はPMDA単独で判断するのではなく、厚生労働大臣に申し出を行い、厚生労働省の会議に諮り、最終的にまたPMDAが支給決定する流れになります。
池脇 そうすると、最初のアクションは患者さんあるいは遺族の方のようですね。普通の方がそういう薬の副作用で入院した、後遺症が残った場合、あの制度を使おうと、そこまで知っている方はそう多くない気がします。
中林 おっしゃるとおりだと思います。われわれは広報の活動を絶えず行っているところです。患者さん、医療関係者も、この制度があることや名前はよく知られるようになりましたが、患者さんからすると、それを担当医にお願いしていいかというところがハードルになるかもしれません。
ですから、私も医師ではありますが、ぜひ医療関係者に広くこの制度をよく知っていただき、患者さんに勧めていただけるようになるとありがたいと思います。
池脇 医療機関で薬を出し、不幸にもそういうことが起こってしまった。担当の医師にとっても困ったなというときに、この制度があり、患者さんや遺族の方に、こういうものがあることを示すことにより、この制度をより生かすことができる。そういう意味では、医師の役割は大きいですね。
中林 そのとおりだと思います。
池脇 医師が必要な書類を書き、患者さんや遺族の方がPMDAに申請して、どのくらいで結果にたどり着けるのでしょうか。
中林 期間的なことを説明すると、調査が難しい場合には時間がもう少しかかることはありますが、請求してから判定の結果が出るまでの一つの目安が6~8カ月です。
池脇 そういうことが起こり、患者さんも入院したりしてたいへんで、救済制度を利用するなど考える余裕もなく、医師もなかなかそれを思いつかなくて1年、2年たってしまった場合、後から申請することも可能でしょうか。
中林 期限はありますが可能です。入院に対する医療費と障害、大きく分けて2種類あります。障害の場合、給付は全部で7種類あり、多少ややこしいですが、障害年金、障害児養育年金には期限がありません。それ以外のものは基本的に5年という請求期限以内であれば請求することはできます。
池脇 5年というスパンがあるのは非常にありがたいですね。「そうだ」 と思って出したら「遅いですよ」ということは、まずなさそうな気がして安心しました。
具体的に、どういう薬で、どういう臓器障害が起こりやすいのか、何か傾向はあるのでしょうか。
中林 われわれPMDAとしても毎年、集計を行っています。まず、薬剤で一番多いのは解熱鎮痛剤、次に抗菌薬、それから抗てんかん薬、精神神経用剤となり、だいたいこの4種類で全体の1/3を占めます。つまり、日常的にいろいろな診療科でよく使われている薬が、この制度の対象になっていることになります。
副作用の内容を臓器別に見ると、最も多いのは皮膚障害で、だいたい全体の3割です。次に多いのが神経系の障害で1割強、次が胆道系の障害。皮膚と神経の障害、肝・胆道系の障害を合わせると、これだけでだいたい約半分を占めます。
医師が日常的に気づきやすい、見た目にもわかりやすいものが、この制度の対象になっていると考えていただければよいかと思います。
池脇 すべての医師に、こういった制度があることは覚えておいてほしいですが、障害が出やすい、特に皮膚科の医師にはぜひ、という感じでしょうか。
中林 おっしゃるとおりです。
池脇 どうもありがとうございました。
医薬品副作用被害救済制度
医薬品医療機器総合機構(PMDA)健康被害救済部次長
中林 哲夫 先生
(聞き手池脇 克則先生)
医薬品副作用被害に対する救済制度についてご教示ください。
埼玉県勤務医