ドクターサロン

 山内 室先生、まず、酸素飽和度は通常パルスオキシメーターで測定されています。非常に簡単な装置ですが、この装置の精度管理に関しては大丈夫でしょうか。
  コロナ禍で非常に広く使われるようになり、一般の方も含めてよく使われていると思いますが、きちんとしたメーカーのものであれば、精度管理されています。
 年数がたつと、多少ぶれてくることもありうるので、キャリブレーションは定期的にしたほうがいいと思います。その辺りもメーカーのホームページ等に情報があると思うので、メンテナンスは業者に任せておけば、きちんとした精度は担保できると思います。
 山内 測る側は、バタバタと測るときもあるかもしれませんが、測定ミスといったものはいかがでしょうか。
  多くの場合、爪のところにセンサーを挟んで測られると思いますが、パルスオキシメーター自身が脈拍の拍動を利用し、その吸光度でSpO2を計算してきます。脈が拾えないと正確な数字が出ないことがあります。
 指が冷たく、血流の悪い方だと、そもそも数字が出ない、出ても低い数字が出ることもありえます。手指があまり冷たくならないように配慮していただければと思います。
 山内 指先をけがしている方、荒れている方、病気の方等では、異常値が出る可能性はないでしょうか。
  目視で、爪の色が普通の色をしていれば原理的に大丈夫だと思います。非常に濃いマニキュア、光を通さないようなマニキュアなどをされていると異常値が出る可能性があります。その辺りは配慮をいただければと思います。
 山内 一般論としてお聞きしましたが、質問に移りたいと思います。酸素飽和度(SpO2)の正常値は、年齢とともに変わると考えてよいのでしょうか。
  SpO2は96~98%あるのが通常だと思いますが、年齢とともにPaO2自体も多少落ちてきます。非常にご高齢の方だと、多少低めの数字になることはありうると思います。それでも健常な80歳、90歳の方でも93~95%ぐらいはあるのが普通だと思います。
 山内 老健施設などから送られてくる方を外来のレベルで診ていても、90歳以上の方になると、かなり低く80%台後半の方もいらっしゃる感じがします。こういった方は年齢的には正常と見てよいのでしょうか。それとも、何か少し病的なものと考えたほうがよいのでしょうか。
  SpO2が90%を切ってくると、なにかしらの心肺疾患があると捉えたほうがよいのではないかと思います。特にご高齢の方で誤嚥性肺炎などを繰り返されると、器質化を残して肺機能が落ちた状態で治られる方もいます。ひょっとすると、そういうものが潜んでいる可能性はあるのではないかと思います。
 山内 原則的には90%は欲しいという値ですか。
  そうですね。SpO2 90%はPaO2でいくと60Torrに対応します。呼吸不全の定義がPaO2 60Torr以下ですので、SpO2>90%は原則として最低ラインとして保っておきたい数字です。
 山内 ちなみに、これは100%という数字は出ないものでしょうか。
  100%は過換気している状態です。非常に神経質な方で過換気されているとか、何らかのほかの疾患で代謝性のアシドーシスがあり、呼吸性にアルカローシスをもって過換気しているような方、糖尿病性ケトアシドーシスの方などで過換気していると、SpO2が100%というときがけっこうあったりします。
 山内 質問の症例で、トイレに行くと低下して、安静になると上がってくるということですが、こういう現象はあるのでしょうか。
  COPDの方もそうですが、一般論として、心肺疾患の方は労作すると低酸素血症が強調されます。歩いたりした後にSpO2が一過性に下がってしまうのは、よくあることだと思います。
 山内 この症例では前医から、一過性のものは心配ないと言われているようです。一過性というところが微妙ですが、一過性ならば、どのくらいまで下がっても大丈夫と考えてよいのでしょうか。
  これをきちんと線引きするのはなかなか難しいと思います。COPDに限って言うと、通常は日常労作でSpO2 が90%を維持するように酸素の流量の指示を出しますが、80%台後半、88%ぐらいだと、実臨床としてはそれほど差し支えない低酸素血症かと思います。
 山内 もう一つ、持続時間です。本当に短い時間であれば、低酸素でも大きな問題はないと思いますが、これがけっこう長引くような方もいらっしゃるのでしょうか。
  COPDの方でも閉塞性換気障害が重度になってきた方や、肺線維症などを合併してくると、肺内でシャント効果が強く出るので、かなり長い間、運動の後の低酸素血症が遷延する方がいらっしゃると思います。
 COPD単独だと、日常労作で下がっても数分~10分以内ぐらいには戻ってくると思いますが、それを超えて長く低酸素血症が続く方は散見されます。
 山内 10~15分以上というのは、少しリスクがあると考えてよいのでしょうか。
  かなり長いほうだと思います。
 山内 この測定はコロナ禍で大活躍しました。急性期、急に来られた方で、入院しなければならない、たいへんだというのは、どのくらいの飽和度でしょうか。
  経過にもよりますが、1点で見るのであれば、SpO2が90%を切ってくると、PaO2で60Torrを切っていることになります。急性期の外来の入院の目安は、SpO2は90%が閾値になろうかと思います。
 山内 COPDの方は、ある意味、低酸素に慣れているので、低くても大丈夫ではないかという感じもしますが、この辺りはいかがでしょうか。
  ご指摘のとおりで、COPDは長期にわたりじわじわ進んでくるので、かなり慣れている患者さんもいます。実際にCOPDの在宅酸素療法はPaO2が55Torr以下、SpO2に換算すると88%以上が適応となっています。
 あるいはPaO2が60Torrで右心不全症状があることになるので、そういう適応条件から見ても、SpO2が90%を少し切ったぐらいでも、比較的元気なCOPD患者さんはよくいます。
 山内 そういった方々は、先生方が診ておられるときも比較的安心・安全と考えていらっしゃるのでしょうか。
  ずっと安定期でいらしたらいいですが、風邪などをひいて、COPD増悪という状況になると、低酸素血症が一気に悪くなることもあります。そういう低酸素の方は要注意で、できれば少し余裕をもって在宅酸素を導入したいのが本音です。
 山内 先ほど低酸素に慣れているのではないかという話をしましたが、患者さんは低酸素慣れで、息苦しさなどはあまり訴えないケースもあると考えてよいのでしょうか。
  そういう患者さんもときどきいます。逆に主治医のほうがひやひやしながら診療していることがあります。
 山内 自覚症状があったほうが管理はしやすいのでしょうか。それとも大げさになってしまうところはあるのでしょうか。
  非常に貴重な点です。低酸素血症で自覚症状として息苦しさを感じてくださるほうが、主治医としては異常を見つけやすい点で、ある意味、安心感があります。
 低酸素血症があっても息切れを感じない方は、本当に病状が悪化していることを自覚できないことがあります。気管支喘息では低酸素の換気応答の悪い方は突然死のリスクが高いという論文(N Engl J Med. 1994. May 12:330: 1329-94)もあるので、自覚症状として低酸素血症に対し息切れを感じにくいのは、むしろ要注意だと思います。
 山内 比較的元気な方は、ご自分で酸素濃度を調節される方もいらっしゃると思います。こういった方々に対し、何か注意点はありますか。
  COPDで、低酸素血症で在宅酸素療法を導入したときに、運動時は、安静時の流量に1~2Lぐらい上乗せして吸ってくださいと指示することが多いと思います。運動するときには吸入する酸素量の調整を忘れずにしていただきたいと思います。
 逆に労作が終わって安静にして、十分に低酸素が改善したにもかかわらず、高流量の酸素をずっと吸い続けていると、症例によってはCO2ナルコーシスのリスク、高二酸化炭素血症になることもありえます。定められた流量に従い、きちんと流量の調節をしてください。自己判断で増やしたり減らしたりはしないでください。
 山内 ありがとうございました。