「外国人患者」のことは英語ではforeign patientsではなくinternational patientsと表現します。英語のforeign やnon-Japaneseのような表現には排他的な印象が含まれるため、使わないことをお勧めします。同じように「日本語での意思疎通が難しい患者」という意味でpatients who cannot speak Japaneseという表現も使わないようにしましょう。これには「日本語を話す能力がない患者」という負の印象が含まれるため、patients with limited Japanese proficiencyのようなproficiency「流暢さ」を使った表現がお勧めです。
日本人患者の場合、公的医療保険に加入していることが前提となっているため、受付にて「医療保険に加入していますか?」という質問をする場面はほとんどありませんが、international patientsの中には公的医療保険に加入されていない方もいるため、“Do you have any health insurance?”という質問が重要となります。
疑問文でsomeとanyの使い方に迷う方もいらっしゃると思いますが、someは「存在することが前提となっている場合」に使われ、anyは「存在することが前提となっていない場合」に使われます。ですから質問がありそうな顔をしている聴衆に対しては“Do you have some questions?”と聞きますし、何でもいいので質問はないかと尋ねる場合には“Do you have any questions?”と聞くのです。同じ理由で何らかの医療保険に加入していることを前提としている場合には“Do you have some health insurance, or are you completely without?”のようにsomeを使って尋ねることもできるのです。
日本の公的医療保険は大別すると「被用者保険」Employee Health Insurance(EHI)と「国民健康保険」National Health Insurance(NHI)、そして「後期高齢者医療制度」に分類されます。このうちEHIとNHIの英語表現はわかりやすく、英語圏の人にも理解されるのですが、「後期高齢者医療制度」の英語表現にはわかりづらいものが多いので、個人的にはHealth Insurance for Seniors Aged 75 and Overというものを使うようにしています。
日本では「国民全員がその社会的背景にかかわらずに必要な医療を受けることができる」という意味の「国民皆保険制度」が実現されていますが、これを英語でnational health insurance systemと表現すると、先ほど紹介した「国民健康保険制度」となってしまいます。英語では「(国民)皆保険制度」をuniversal insurance systemやuniversal health coverageのようにuniversalという表現を使いますので覚えておいてください。
患者さんに「今日健康保険証をお持ちですか?」と尋ねる場合には、“Do you have your health insurance card with you today?”のようにwith you を使った表現や、“May I check your health insurance card?”「健康保険証を確認させてください」のような表現を使いましょう。
「保険情報をお持ちでない場合、全額自己負担となります」と言いたい場合、“If you do not have your insurance information, you will have to pay the full amount yourself.”のような表現を使います。
米国の医療保険では定額の自己負担率に沿って医療費を払うというmanaged careが一般的ですが、日本の医療保険は「出来高払い制度」fee-forservice planとなっています。「損失に対して支払われる金額」のことを英語でindemnityと呼びますが、これを使って「出来高払い制度」はindemnity planとも呼ばれます。
「健康保険を利用した場合の医療費の自己負担割合は3割です」と言いたい場合、“If you have health insurance, you’ll need to cover 30% of your medical expenses out-of-pocket.”というout-of-pocket「自腹」を使った表現が一般的です。しかしこれ以外にも幾つかの表現があります。
医療を受ける際に支払う一定の「自己負担金額」のことを英語ではcopaymentや、これを短縮したcopayと言います。これは「保険者」insurer/payerが「被保険者」enrolleeと一緒に医療費を支払ってくれているというイメージから生まれた表現です。これとよく似た表現としてcoinsuranceという用語がありますが、こちらは金額ではなく「自己負担金割合」ですので、金額ではなく%で表示されます。ですから先ほどの例文はcoinsuranceを使うと“If you have health insurance, you’ll be responsible for 30% coinsurance of your medical expenses.”のように表現できます。そしてcopayment/copayを使う場合には、具体的な金額を提示して“You need to make a copayment/copay of 2,500 yen for today’s visit.” のように表現します。
中国のように医療費が前払いの国もあるので、「日本では医療費は前払いではなく後払いです」のような説明が必要な場合もあります。その際には“In Japan, medical expenses are paid after treatment, not in advance.”のように説明しましょう。
また受付においては「保証人」に関する情報が必要になる場合もありますが、これを英語ではguarantor(「ギャラントーァ」のように発音)と言います。ですから「どなたが医療費の保証人ですか?」は“Who is your medical expense guarantor?”のように表現します。一般的には「近親者」がこのguarantorとなることが多いのですが、それを英語ではnext of kinと表現します。このkinとは「血縁」を意味する単語で、kingもこのkinが転じて「高貴な血縁の人=王」という意味になっているのです。
医療保険が適応される範囲をcoverageと言いますが、保険によってはその治療がcoverageに含まれるか否かを事前に確認するpre-authorization「事前承認」が必要になる場合があります。その際には“ Your insurance may require pre-authorization for this procedure.”のように説明しましょう。
「被保険者」であるenrolleeが「毎月支払う保険料」は、monthly premiumやpremiumと呼ばれます。このpremium は保険の場合だけでなく、動画配信サービスなどに「毎月支払う料金」という意味でも使われます。
民間の医療保険では、このpremiumを支払い始めればすぐに「保険者」insurer/payerが医療費を払ってくれるわけではありません。「医療保険を有効とするために毎年支払わなければならない一定の金額」のことをdeductibleと言います。形容詞のように見えますが、これは名詞ですので注意してください。
もし患者さんが医療保険に加入していない場合、「健康保険に加入されていないようですので、自由診療となり全額自己負担となります」と伝えなければなりません。その場合には“It appears you do not have health insurance, so the treatment will be on a self-pay basis, and you will need to cover the full cost yourself.”のように表現します。もしこのような表現が難しい場合には“You don’t have health insurance, so you'll need to pay the full cost yourself.”のような簡略化した表現を使いましょう。