山内
大家先生、よろしくお願いします。水腎症というと、先天性のものが知られています。成人水腎症についてですが、幼少期にはわからないまま、成人になって初めてわかったという偶発的なものが多いのでしょうね。
大家
多いです。水腎症は、大きく先天性と後天性で分類します。成人なので後天性だと思われがちですが、先天性のものでも2つ、頭に入れていただきたい疾患があります。
それは、腎盂尿管移行部狭窄症と膀胱尿管逆流症です。この2つは成人になってからたまたま健康診断やほかの疾患での超音波、CT検査で見つかることがあります。
山内
幼少期には症状もないのですか。
大家
はい。もし、非常に深刻なものがあったとしたら、おそらく幼少期の感染を契機に見つかっています。
山内
その辺りを念頭に置くと、後天的な成人発症の原因、分類はいかがでしょうか。
大家
水腎症は、あくまでも病態です。腎盂が非常に拡張して見えることを水腎症というのであり、原因は様々です。
成人の水腎症を分類する場合、片側性か両側性かを見ることが大事です。両側性の原因は膀胱以下の下部尿路になります。ですから、膀胱、男性の場合は前立腺、男女ともに尿道の辺りに通過障害があると、両側性の水腎症を呈することになります。
山内
前立腺肥大はわかりやすいですが、女性での原因は何でしょうか。
大家
女性も非常にまれですが、神経因性膀胱といわれ、脊髄の疾患や糖尿病などで膀胱の機能がうまくいかないときは、きちんと尿が排出されないので大量の残尿が生じ、それが尿管口のバルブをつぶして逆流するかたちになり、水腎症を呈することがあります。
山内
尿路閉塞の原因としてはほかにどういったものがありますか。
大家
閉塞性は原因が腎盂、尿管、尿管口の辺りの3つに分類でき、その通路に問題がある場合と、通路は問題ないけれども、外から圧迫されて水腎症になる場合に分けられます。前者の場合を内因性、後者を外因性といいます。
内因性の代表的なものは尿管結石です。あとは尿管のがん、腎盂のがん、膀胱がんのうち尿管口に浸潤している場合になります。
外因性の場合、一番多いのは子宮頸がんが尿管の近傍にまで浸潤して、水腎症を起こす場合です。
山内
一般的に見られるのは尿路結石かなという感じがします。
大家
尿路結石の頻度が圧倒的に多いです。一般的な外来診療を行っている方が一番頻繁に遭遇するのは結石ではないかと思います。
山内
結石のサイズが問題になると思いますが、これはいかがでしょうか。
大家
片側の側腹部痛を起こし、血尿が出れば、これは簡単に結石と診断がつきます。
尿管の中を小さな石がコロコロ動いているときに、詰まって腎盂の内圧が高まり、痛みが生じます。小さな石は尿流とともに排石し、すっきりするわけですが、大きな石の場合は出てきません。われわれの目安では、5㎜を超えてくるとなかなか排石が難しく、手術が必要な場合が多いと考えています。
山内
逆に言うと、5㎜であれば詰まる可能性があるということですね。
大家
十分あります。3㎜ぐらいでも、完全には詰まらないですが、尿流の停滞を起こすので、結果として水腎症を起こします。
山内
画像診断で結石が非常に小さいとか、既往であったけれども今は結石がないというケースもあります。こういった場合も、結石が原因というのは除外できないのでしょうか。
大家
結石は、どうしても反復します。統計的には、1回起こすと40%の方が5年以内にまた起こすといわれています。ただし、結石の既往があるから、この方は結石だろうと思っていると、そこに別の病気が隠れている可能性があるので、特に男性の場合は注意が必要です。
山内
経過観察でよいものと、そうでないものを分ける場合の基準はいかがでしょうか。
大家
様々なかたちで水腎症が見つかってきますが、拡張度がすごく大きく、腎臓の実質の部分が対側に比べ薄くなっているような場合は、腎機能障害を起こしていると判断がつきます。それで通過障害を起こしている原因が何かあったとしたら、これはしっかり治さなければいけません。
治療後は進行が止まるので、予後は悪くないです。腎機能障害をきたす場合は積極的な治療が必要です。
ところが、対側とほとんど変わらないような腎実質で、拡張の度合いも大したことがない場合であれば、経過観察することが多かったりします。
山内
この場合、クレアチニンや尿タンパクは参考になるのでしょうか。
大家
これは対側の腎臓がしっかり働いている場合は、見かけ上、クレアチニン値は上がってきませんし、尿検査でも異常がないことが多いです。
山内
そうすると、経過観察するかどうかは判断が難しいところもありますね。
大家
採血と尿検査では大きな異常は出てこないので、一度は専門医に診てもらい、経過観察でオーケーであれば、その後はずっと経過観察でいいと思います。予後的には悪くはないです。
山内
感染症は起こしやすいものですか。
大家
はい。これが非常に大きなポイントで、合併する病態として感染症は一番のキーです。ですから、感染を繰り返している場合は積極的な介入が必要になります。
山内
実際には抗菌薬だけでよいのでしょうか。
大家
通過障害がある場合は、抗菌薬だけではだめです。結石が感染の原因となり腎盂腎炎を起こしているとなれば、結石の治療は絶対に必要になります。
山内
今は経尿道的に砕石することでかなり治療しやすくなりましたか。
大家
尿管鏡を使い、レーザーを使って砕石するのが一般的な治療で、そんなに難しい治療ではありません。簡単に行える治療だと思います。
山内
そういった特殊なものに関しては、放っておくと予後が悪いと考えてよいでしょうか。
大家
先ほども言いましたように、悪性腫瘍の頻度は少ないですが、腎盂がん、尿管がん、膀胱がんが原因になっている場合があります。水腎症があった場合、必ず悪性腫瘍を除外することから始めていると言っても過言ではありません。
山内
子宮頸がんが絡んでいることもあるとなると、ましてやですね。
大家
その辺はCTの画像で診断が容易につきます。
山内
とりあえず原因疾患をどう探すかということと、原因疾患の治療が、まずは対応として大事なのですね。
大家
水腎症をきたした原因は何かをまず診断することから始まるわけで、その治療が優先されます。
山内
最近は画像で偶発的にわかることも増えていますが、大半は予後はいいと考えてよいでしょうか。
大家
見かけ上、水腎症だけれども、腎盂が大きい方がいます。私たちはそれを見て、これは治療の介入が必要のない水腎症だと判断した場合は経過観察でいいと判断します。
山内
腎盂が少し大きい方がいらっしゃるのですか。
大家
はい。個人差がけっこうあります。
山内
幼児期から持ち越されたようなタイプでは重症が多いのでしょうか。
大家
膀胱尿管逆流症の場合は手術になることが多いです。ただし、腎盂尿管移行部狭窄症に関しては、程度によっては放置でよい場合もあります。それは分腎機能検査、レノグラムで正確に判断することができます。
山内
いずれにしても、その辺りになるとかなり専門的なものになりますから、水腎症もどこかで一度は専門医にお願いするのがよいですね。
大家
われわれ泌尿器科医は、水腎症の原因を突き止めるのも大きな役割の一つなので、ぜひ一度は専門医にかかっていただくことをお勧めします。
山内
どうもありがとうございました。