ドクターサロン

山内

まず睡眠時無呼吸症候群の診断のポイントですが、やはり寝ているときに家族が気づくというケースが多いのでしょうか。

そうですね。最近も新患がいらしたのですが、ご家族が大きなイビキや息が止まっていることを指摘していました。本人は寝ているので自覚症状が乏しいというのは、先生がおっしゃるとおりかと思います。

山内

症状としてはイビキが非常に有名ですが、イビキ以外でも気にするべき症状はあるのでしょうか。

十分な睡眠を取っても疲れが取れない、夜中に窒息感がある。あるいは、例えば今まで前立腺肥大だと思われていた夜間頻尿が無呼吸由来だったりすることもあります。一番の症状はやはりイビキですが、そこに三大要因である男性、肥満、加齢。女性であれば、閉経後での頻度が高くなってきます(図1)。したがって、BMI25㎏/㎡以上、あるいは高血圧でイビキがあったら少しは疑ってもいい時代にはなってきているかと思います。

山内

例えば、イビキだけという方も、ときどき相談を受けるのですが、睡眠時無呼吸症候群はイビキだけでもありうるものなのでしょうか。

そうですね。結局、周りの人も一晩中見ているわけではありません。一般的に異常呼吸というのは朝方にかけてひどくなるといわれていますし、最初はレム睡眠のときから無呼吸やイビキが出てくる人も多いです。寝てから2~3時間くらいしないと1回目のレム睡眠が出てこないこともありますので、肥満気味になって、あるいは血圧や血糖が上がってきて、最近イビキがひどくなったという症状があったら、一度調べてみるのもいいのではないかと思います。加齢が一つの原因なので、その時点で健康でも、また5年後10年後になったときに比較して、以前は良かったのにということもわかるかと思います。

山内

イビキにも、突然、単発で「ガッ」というのがあります。

そうです。おっしゃるように閉塞性睡眠時無呼吸だと息が止まっているときに、息をしようと呼吸努力をしていて、脳波を見ていると、無呼吸終了直前に覚醒波が出ることが多く、無呼吸後、呼吸再開時に「ガッ」「ガッ」というようなイビキが数回起こり、静かになって、また20~30秒、あるいは、長ければ1分ぐらい経って、また「ガッ」「ガッ」というようなイビキが出ると、かなりの確率で治療すべき睡眠時無呼吸である可能性が高いと思っています。

山内

診断方法はかなり確立されているのでしょうか。

簡易モニターとポリソムノグラフィーがあり、ポリソムノグラフィーでは脳波を含めてたくさんの器具を8~十数種類ぐらい装着します。簡易モニターでは例えば、4種類の測定機器で呼吸運動、鼻口の気流、イビキ音、酸素飽和度などを測定します。一番簡単なのは、酸素飽和度を指先につけて記録する方法で、そのデータを専門医が見ればある程度は判断することが可能です。ただ、簡易モニターというのは、診断はできても、病気は否定できないといわれていますので、少し疑わしかった場合は、検査施設は少ないのですが、専門施設でポリソムノグラフィーを受けるのがいいと思います。また、心房細動、心不全、脳卒中後などではイビキをかかない無呼吸中に呼吸努力のない中枢性無呼吸の一種であるチェーンストークス呼吸もあったりしますので、そのあたりはポリソムノグラフィーでないとわかりません。

山内

治療ですが、その前に、治療をしないとどうなるかということをうかがいたいと思います。一番恐れられているのは突然死ですが、これはやはり多いのでしょうか。

当初は心血管障害である脳卒中、心筋梗塞などが起こることが多いとされていましたが、2005年に米国のNew England Journal of Medicineで、夜間の突然死も多いということが発表されていますので(Gami AS, et al. N Engl J Med. 2005;352:1206-1214)、突然死もありうると考えられたほうがいいかと思います。

山内

突然死と言いましたが、家族の方が、その前にだいたい変だと気がつきますよね。家族の方がかなり恐怖感を持つかもしれませんね。

そうですね。ただ、大きなグループで見て、有意に多かったということです。通常は脳心血管障害というか、脳卒中、心筋梗塞の誘因になる、あるいは最近では、例えば心房細動の方などでは、4~5割ぐらいに睡眠1時間当たり15回以上の中等症以上の睡眠時無呼吸低呼吸が見られます。その他、脳心血管障害の誘因となる糖尿病、高血圧の方々も中等症以上の睡眠時無呼吸の頻度が高まります。そして、このような疾患がある方に肥満が重なると中等症以上の頻度が高くなります。

山内

次に治療に移ります。普通はマウスピースに始まって、CPAPになりますが、質問では、治療別の予後についてうかがいたいようです。

持続陽圧(continuos positive airway pressure:CPAP)療法について、世界では中等症以上、1時間に15回以上無呼吸、低呼吸があれば治療対象になり、英国などでは5回以上であってもQOLが悪ければ健康保険適用でCPAPが可能であると聞いています。

日本ではポリソムノグラフィーで睡眠1時間あたりの無呼吸低呼吸が20回以上あるか、簡易モニターでは測定1時間あたり40回以上ないとCPAPの健康保険適用になりません。CPAPの機械は鼻または鼻口からの空気による圧力が上がったり下がったりするので無呼吸の程度によって治療圧を変化させることが可能ですが、日本で保険適用の口腔内装置(oral appliance)、無呼吸治療用のマウスピースは一点で固定され、中等症以上で保険適用があればCPAPをして、CPAPの導入が困難または、どうしても使用しづらいという方がいらっしゃればマウスピースを使用します。軽中等症でCPAPまでいかなくても、先生がおっしゃったようになにかしらの症状があるような方は、マウスピースという考え方でいます。

CPAPはどうしてもアドヒアランスが悪い面もありますので、3年ほど前から日本でも舌下神経を刺激する埋め込み型のワイヤーのようなものを入れる手術をして、睡眠中に舌下神経を電気刺激するという治療法が行われるようになってきました。舌が起きているような状態にすれば無呼吸はなくなりますので、日本でも、今、30人ぐらいはその治療法となっています。米国では5万人ぐらいということなので、やがて日本でも少し増えてくるかもしれませんが、標準はCPAPで、そこまでいかない軽症者、あるいはCPAPをどうしても導入しにくい方には、マウスピースになるのが標準的です。ただ、糖尿病や高齢者の方で歯がない方がいますので、治療に難渋することがあります。

山内

確かに難しい話ですね。治療予後について報告が多いのはやはりCPAPに関してなのでしょうか。

そうですね。今のところは、口腔内装置も血圧等に関しては、CPAPとあまり変わらなかったという資料も少し出ています。その理由として、治療効果はCPAPのほうが高いのですが、CPAPは使用時間が短く、口腔内装置のほうがつける時間が長いということが考えられています。CPAPを持っていても、全然使わない方もいるので、そうであれば治療時間が長いほうがいいという考え方もあります。しかし今のところはCPAPはたぶん世界で2,000万人以上は使われているので、データが多いことは確かです。CPAPのデータは現状、ほぼすべてのデータがクラウドシステムに集積されているので、どれくらい使っているか、どれくらい無呼吸が残っているかなど、外来で個人ごとの毎日の資料を見ることができます。口腔内装置使用頻度、時間は今のところはわからないです。

山内

CPAP導入をした場合、つけない場合と比べて、突然死やそれ以外の死亡原因などが減るということに関していかがでしょうか。

残念ながらNew England Journal of MedicineにRCTが発表されたときには差が出なかったのですが(McEvoy RD, et al. N Engl J Med. 2016;375:919-931)、その論文でも1日4時間以上使えれば少し脳卒中が減るとか、ほかのトライアルでも、平均4時間以上使っていれば心血管障害が減る、あるいは血圧が下がるなどというデータがあります。最近、ビッグデータで、例えばフランスで36万人の患者さんで、中止した方約9万人と使用中の約28万人中で統計的にマッチさせた9万人を比べると、全死亡者はCPAPの方が少なかった(Pepin JL, et, al. Chest. 2022;161:1657-1665)という結果があります。あるいは、沖縄に約6,600人が使っている施設があるのですけれども、その施設の経過を見ると、CPAPを中断した人よりも続けている人のほうが、全死亡者は少なかったというデータが出てきています(Nakamura K, et al. J Clin Sleep Med. 2021;17:211-218)。その他の保険医療をされている機関などで、予後調査、医療費の費用対効果調査なども、今後増えていく可能性はゼロではないと考えています。

山内

ただし、CPAPをいつまでつけるかというよりも、つけ続けるのがなかなかたいへんそうですね。

おっしゃるように、ほとんどの方が「これを一生つけ続けるのですか」ということをかなり言われるのですが、患者さんがすごく多いので、米国などでは薬の治験が行われています。例えば、睡眠中に舌を持ち上げる筋肉を刺激するような合剤の研究がされていますし、糖尿病の薬で体重が減る薬などが出てきています。1割体重が減ると無呼吸が25~30%ぐらい減り、逆に1割増えると30%増えるというデータがあります。たぶん幾つかの治験は、今、無呼吸に対しての薬と糖尿病の薬で進んでいると思います。やがて、そういう結果も出てくるかと思います。

山内

確かに、肥満の是正も大きな柱になりますね。

そうです。やはり、最大の要因は肥満です。ただ、日本人の場合は、明らかに西洋の方々に比べて肥満度は低いですが、閉塞性睡眠時無呼吸は同じくらいの頻度があって、その原因として、日本人は少し口が小さい、下顎が後退しているなどがあります。例えば、口を開けたときに、下の歯が重なっている方などのように少し下顎が小さいと、舌が後ろに後退して、空気の通り道が少し狭くなるような現象が起こりますので、日本人はあまり太っていなくても頻度的には多いと思います。

山内

特に日本人の場合、そんなに肥満度が強くなくても出てきますから、そういった意味では要注意ということですよね。

そうです。痩せていてもイビキがひどい、睡眠を十分とっても、疲れが残るという方は、やはり調べたほうがいいと思います。

山内

私自身も、CPAPで治療した方で糖尿病の血糖コントロールが劇的に良くなったケースを何例か経験していますが、そういったものもこれから非常に注目されると考えてよいでしょうか。

そうですね。例えば、一番言われているのは、米国などの治療抵抗性高血圧、すなわち3種類以上の降圧剤を使っても、降圧効果が乏しい方の7割くらいには、中等症以上の無呼吸があるといわれています。同じようにエビデンス的には、高血圧ほどではないのですけれども、先生がおっしゃるように、今までの生活習慣病の治療をしていても、今一つコントロールがうまくいかないような方に、例えば、「イビキをかかれますか」などと聞けば、軽度の肥満症であっても、3~4割くらいは、15回以上呼吸が止まっている可能性があると考えています(図2)。

山内

どうもありがとうございました。