山内
特発性肺線維症の門外漢からしますと、まだまだとっつきにくい疾患の一つです。まず、最初の質問の難治性咳嗽の主な症状としてはどういったものがあげられますか。
吾妻
呼吸器の症状には、咳が出る、呼吸が苦しい、それから痰が出るというものがありますが、特発性肺線維症は基本的には痰はあまり出なくて乾いた咳が出ます。全員ではないですが、なかなか治りにくい咳を抱えていらっしゃる方もいます。
山内
難治性と考えてよいのでしょうか。
吾妻
そうですね。夜中の安眠が妨げられるというような方は、とても生活の支障があると考えます。
山内
なかなか根治は難しいかもしれませんが、この病気自体に対する薬をやはり早く導入したほうがよいのでしょうか。
吾妻
おっしゃるとおりだと思います。疾患が出来上がってから診断が正確だったといっても、患者さんにとっては不利益しか残りません。質問にもありますが、現在では特発性肺線維症という疾患に対して抗線維化薬が進行のブレーキ役、疾患の進行を抑える治療として標準化されてきています。
山内
その薬を早めに使おうという流れになってきていると考えてよいですか。
吾妻
そうだと思います。
山内
早めに使ったほうが、後から出てくる症状を抑えることにも役立つということですね。
吾妻
そうですね。私たちも抗線維化薬を使ってみると、咳が出ていた方も「飲み始めたら軽減した」といわれるような経験をすることがあります。決して咳止めではないのですが、肺活量の低下の速度を半分に抑えていくという指標で、我々は進行抑制というのを見ていますが、患者さんにしてみると、とにかく息切れが良くなるか、咳が良くなるかということから、薬が効いた感じを実感される方もいらっしゃいます。
山内
ただし、なかなか治まらない咳に対してはごく普通の咳止めから開始していくのでしょうか。
吾妻
もちろん、末梢あるいは中枢性の鎮咳剤を併用しながら抗線維化薬治療を行う方はいらっしゃいます。それでもなお治らない場合はコデインを含むような薬を使ったりします。今のガイドライン上、ステロイドは特発性肺線維症の併用については、慎重であるべきだと提唱されていますが、症状の軽減には役立つことから、少量の併用(1日用量5~15㎎ぐらい)をすることで咳が良くなった方はいます。
山内
経口剤の併用ですね。吸入薬もありますが、こちらはいかがでしょうか。
吾妻
喘息で使う吸入薬は、適応症が取得できているわけではないですけれども、吸入ステロイド(ICS)を一緒に使うと咳が軽減したという実感を持たれる方はけっこういらっしゃいます。
山内
先ほどの、ステロイドは慎重投与にするというお話ですが、これはどういった理由からでしょうか。
吾妻
ステロイド療法が症状の軽減に役立ったとしても、肺が壊れていくことが肺線維症の基本的な病態なので、上皮障害をどんどん助長するような感染症を併発してしまうリスクもあります。昨今のウイルス感染ではサイトカインを抑制できることからステロイドがいいという議論もありましたが、基本的にウイルス感染や細菌感染を助長してしまうリスクも背負っているために、慎重に、特に特発性肺線維症の患者さんは正常な構造も損なっているので、ステロイドを安易に内服するのは控えなければいけないと考えています。
山内
あと、離脱をどうするか、いつまで使うかといった話もあるのでしょうね。
吾妻
やはり、骨粗鬆症や糖尿病を悪化させるような様々な弊害も出てくると思っています。
山内
ただQOLの問題もあるでしょうから、例えば最近出てきたP2X3受容体阻害薬剤なども使われていくと考えてよいのでしょうか。
吾妻
そうですね。ご指摘のとおりで、より強力な鎮咳剤、ステロイドを併用しても、なお治まらない方と、夜間の安眠が妨げられている方が実際にいらっしゃいます。まだ私も経験不足でありますけれども、そういう方にはP2X3受容体阻害薬(ゲーファピキサント)で、症状が軽快したと言われる方がいらっしゃるようです。これは原因疾患が特発性肺線維症だからではなくて、難治性咳嗽の適応だからですが、この薬剤の使用にあたっては味覚障害が出るという方もいるので、個別のQOLを維持できるかを常に考慮することが大切だと思います。
山内
さて、次の質問で、抗線維化薬投与の現状と高齢者に使う場合について教えていただけますか。
吾妻
臨床試験で有効性を判定する場合には、どうしても高齢者は臨床試験に入っていなかったこともあり、市販後、高齢で進行した方に抗線維化薬が使われた場合、ピルフェニドン、ニンテダニブの内服を続けると、有害事象を含めて継続率があまり良くありません。
山内
副作用がかなり出てきてしまうということでしょうね。
吾妻
そうだと思います。高齢の方はBMIも低く、体格も小さくなっているので、あまり科学的ではありませんが、成人の推奨用量から、ドーズを下げて、現場の医師が少し用量を加減してみるとか、時には休薬をして、また再開をしてみるとか、様々な工夫をすることで続けることができます。それが疾患の進行抑制にかなっているかどうかを見極めながらになると思います。
山内
この手の薬剤の臨床試験エンドポイントを決めるパラメーターとしては、先ほど出ました肺活量なのでしょうか。
吾妻
様々なパラメーターが試みられた歴史はありますが、今、標準的に進行抑制のパラメーターとして再現性を持って証明されているのはFVC、肺活量です。
山内
高齢になると肺活量は加齢現象で少し下がってくるでしょうから、あまり高い値を求めなくてもいいのでしょうか。
吾妻
もともと年齢や体格で補正したりしますので、その年齢に応じた肺活量の変化量をできるだけ少なくするということだと思います。
山内
この薬の用量を少し減らしてみるとか、副作用をなるべく抑えるかたちで、投薬の基本的なプロトコールを少し変えてみるとか、まだまだ工夫の余地があると考えてよいでしょうか。
吾妻
おっしゃるとおりだと思います。ケースバイケースというと、あまりに科学的なエビデンスからは遠のくかもしれませんが、すべて平均的に効くわけではありませんので、現場の医師のさじ加減です。ただ中断してしまうと、肺活量の落ち方が急激に進行したという報告もありますので、やはりそこはできるだけ副作用を軽減しながら維持できる工夫をします。一方で、進行しないうちになるべく早期に診断をして導入を試みようということがいわれています。
山内
早期診断としては病理学的アプローチはなかなか難しいような印象があります。現在はCTを用いての診断でよいのでしょうか。
吾妻
はい、病理を取るということは、リスクを背負う場合もあります。現代では標準的にHRCT、ハイレゾリューションのCTが撮れますので、それを一回撮っていただいて、内科、放射線科医、場合によっては病理医と三者会談をして、しっかり診断をしていきます。類似の疾患もありますので、きちんとした除外診断も含めて、一度は専門施設での診断を受けていただくことが推奨されると思います。
山内
ありがとうございました。